短編「stone」

鳩の唐揚げ

stone

石を拾った。

一見ただの石だが、色々考えてみると面白いものだ。

この石はどこから来たのか、それともずっとここにあったものなのか。何年前からここにあったのか。


「うん。面白い。」


私はよく変わっていると言われる。

確かに、自分でもそう思う。

昔から、周りの人より何倍も好奇心旺盛だった。

だからなんだ、むしろ利点じゃないか。

石を一個拾っただけで、こんなにも世界が広がるのだから。



「お姉さん、こんな所でにやついて何してるんですか?」


突然、私は少女に声かけられた。


「ん、君は確か…近所の小学生君か!」

「覚えてくれていたんですね。」

「そりゃあ覚えているよ。君は不思議でいっぱいだからね。」

「?…それで、ここで何を?」

「石を見ていたんだよ。」

「石?」

「そう、石。」


石と聞いて不思議そうな顔をする女子小学生。


「何で石なんかって思ってるかい?」

「まぁ、はい。」

「一見ただの石だけどね、よく見てみると面白いんだよ、これが。」

「面白い?」

「ほら、この石。他の石と比べて角が少ないだろう?

きっと何年も雨に打たれて、風に吹かれて、こんな形になったんだろうね。」

「……」


少女は黙っている。

でも、呆れているようではない。

むしろ少し興味が湧いたような顔をしている。


「私ね、よくみんなから変わってるって言われるんだよ。でもね、それが嫌じゃないんだ。

みんなはマイナスな意味で言っているんだろうけど、私からしたら褒め言葉なんだよ。」

「褒め言葉?」

「こう、空を見てさ、なんで空は青いんだろう。空ってどこまで広がっているんだろう。

そんな事を考えるとさ、なかなか楽しいんだよ。

でも、私のことを変わっていると言う人たちは、そんなこと考えようともしないんだろうなって。

そう思うとむしろみんなが可哀想に見えてくるよ。こんなに楽しいことをしようとしないんだから。」

「…確かに、そんな風には考えたことがありませんでした。」


少女は少し考えてそう答えた。


「でも、あの日から空が綺麗に見えるよ。

…こんなこと言ったら不謹慎なのかもしれないけれど、ちょっと嬉しかったりもする。」

「確かにそうですね。」

「…と、そうだ。女子小学生、この後暇かい?」

「暇かと聞かれれば、まぁ、用事は無いですが。なぜ?」

「ちょっと、付き合ってほしいことがあってね。」





「ここは…学校?」

「そう、私が去年まで通ってた学校だよ。…ほとんど崩れているけど。」

「どうしてこんなところに?」

「ちょっと探し物があってね、それを君に手伝ってほしいんだ。」


そう、私はこの荒れ果てた学校で探すものがあった。


「探す物ってどのくらいの物なんですか?」

「ん?物は小さいよ。でも、中に詰まっているものは大きい。」


それはとても小さくて、とても大きなもの。

この状態の学校で探し出すのはとても難しいけれど、とても大切なものなのだ。


「難しいですね。」

「うん、こんなに荒れ果ててるしね。」


なんだか気が遠くなってくる…

もう何日も探している。

それでも「それ」は見つからない。


「お、スマホ見つけた。うちの学校スマホ禁止だったのに。まぁ、そんなの守ってる人なんていないか。」

「お姉さんはスマホ持ってたんですか。」

「持ってなかったね。これは、学校でとかじゃなくて、普通に持ってなかった。」

「なんか、お姉さんらしいですね。今じゃ小学生でも持ってますよ。」

「そういう君は持っていたのかい?」

「わたしは…もってません。」

「もってないんじゃないか。」

「でも、いいんです。持ってたところで今じゃ役に立たないんですから。」

「そうかなぁ、写真くらいなら撮れるよ。」

「確かに撮れますね。」

「このスマホ、未だ少し電池残ってるから記念に撮る?」

「記念て…。」


写真はいいものだ。写真はその時の風景、感情をそのまま残しておける。


「…もしかして、お姉さんが探しているものって、写真ですか?」

「なんで?」

「それは…写真自体は小さいものですけど、その中に込められているものは大きいかなと。」

「おぉー。正解。」





「どんな写真なんですか?」

「クラスの集合写真。私は浮いていたから、クラスの人と仲が良かったわけじゃないけれど、写真だけは残しておきたいかなって。」

「そうなんですか。」

「でも、見つからないなぁ…。うん、諦めるか。」

「諦めちゃうんですか?」

「うん、ここまで探しても見つからないってことは、もうここにはないんじゃないかなって。」

「そうですか…。」


そう言った少女は少し悲しそうだった。


「そういえば、君は何でここに残ったの?」

「わたしは…お姉さんの探し物とは少し違いますけど、わたしも探したいものがあったんです。」

「お母さんとお父さんは?」

「あの日の件で死んでしまいました。」

「そうなのか。」

「お姉さんは、何で残ったんですか?やっぱり写真を探すために?」

「写真もそうだけど、やっぱり暗い宇宙に行くよりここの方が楽しいかなって。あんな事があったおかげってわけじゃないけれど、今まで見えなかったものが見えるようになったし。」


「ところで、君の探し物って?」

「友達です。少し変わってますけど。」

「友達かぁ…。そうだ、私も君の探し物一緒に探してもいいかな?」

「いいですけど、写真はもういいんですか?」

「きっとこのまま探し続けても見つからないし、君の友達も見てみたいからね。」

「そうですか。」


そう言った少女は少し笑っていた。


そして私達は学校を後にした。



ここ《地球》にはもう、人間は住んでいない。

ここにあるのは、崩れた建物と、壊れたアンドロイドだけ。

そんな世界で私達は旅をするんだ。

何日も、何年も…。

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短編「stone」 鳩の唐揚げ @hatozangi

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