第24話 魔獣への疑問

 さて。

 俺たちの魔獣狩りは、絶賛敢行中である。



「ハァッ!!」


 気合の入った掛け声と共に、兄さんの剣が鹿の魔獣の首を跳ね飛ばした。

 第二階梯魔法、《ブレードメイク》で切れ味は良くなっていて、かなりすんなりと骨まで断ち切ることができている。

 兄さんの戦闘スタイルは「魔法剣士」。魔法と剣術を掛け合わせた独特な戦術で相手を翻弄する万能型。

 魔法は攻撃や防御、サポートなど万能だ。だが距離を詰められると術者が抵抗しにくいというデメリットも存在する。

 そこをカバーするのが剣。近接戦闘もある程度こなせなければならない、非常に高度な戦法である。

 俺の場合は範囲攻撃で殲滅することができるので、ぶっちゃけ杖だけでいい。もっとも、それだけだとなんだか決まりが悪いので、帯剣はしている。

 俺と兄さんが魔獣を倒し、兵士たちが戦闘をカバーする。この二つの役割を上手にこなしている姿を見ると、この人たちは慣れているのだなと感じる。


 色々と考え事をしていると、兄さんが止まった。そして静かに、ハンドサインで「見つけた」と伝えてくる。

 俺も目に魔力を通して強化し、兄さんの示す場所に目をやる。

 そこにいたのは猫型の魔獣。艶のある体毛と、しなやかで筋肉質な体が特徴的で、体調は一メートルほど。構造的にはチーターに似ている。

 兵士たちが静かに猫を囲み込み、兄さんの合図で飛び出した。


 やはり狩人、反応速度は凄まじい。俺たちが茂みから飛び出した途端にこちらにその双眸を向け、鞭のように体をしならせ逃走に出る。

 だがそこで、見えない壁に当たったように弾かれる。

 俺が合図と同時に発動した予備魔法ストックスペルの一つ、結界だ。

 結界は防御から封印まで、非常に自在な使い方がある。今回は檻として用いた。

 その一瞬で逃走できないと判断した猫は、視線を返して威嚇する。

 しかし兄さんはそんなこと一切気にせずに突撃。《ブレードメイク》で強化した剣を素早く猫に向けた。

 だが猫はそれを難なく回避。俊敏な動きは攪乱すら含んでいて、やはり捕食者は一味違うということを実感する。

 しかし俺はそんなことは気にしない。そのまま《アイスランス》を乱射。一斉に向けられた氷の槍は猫に殺到。串刺しにすべく、その体を穿たんと迫る。


 しかし、ここで猫は動いた。


 唐突に吠えると、その足元に魔法式が形成される。

 魔法式は《グランドウォール》。土属性の第二階梯魔法。読み取った魔法式はそのまま発動し、土の壁を作り上げた。

 これには俺も驚く。だが俺の槍は数で押し切り、土の壁を打ち砕いて、その先にいる猫のもとに突き刺さった。

 ギシャー! という断末魔が響き渡り、猫は力なく頽れ、その体を貫く氷の槍に身を委ねた。


 そう、これこそが、俺の見たかった光景だ。すなわち、「魔獣が魔法を使う」こと。

 もともと文献で読んで知っていた知識だが、実際に見てみるとやはり得られる情報も多い。百聞は一見にしかず。

 それに魔獣にも種類があって、魔法が使えない魔獣を、厳密には「魔物」。使える魔獣を「魔獣」と呼ぶのだが、いちいち区分するのも面倒なので、統一して「魔獣」と呼んでいる。

 先ほどの猫は、《グランドウォール》という土属性の魔法を使った。だがその際、不思議なことにで魔法を使うことができるようだ。

 魔獣に知性はない。であるならば、なぜ人レベルの知性がなければ理解できないはずの魔法式を使っている?

 以前も言ったが、式とは「人が理解できないものを理解できるように落とし込んだもの」。なぜ人と同じ理解が魔獣にできる?


 俺の今までの研究、その中でも最も難易度の高い疑問に直面したのだった。

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