第22話 十二歳になりました
さて。
あの一件から二年。
俺は健やかに成長し、遂に十二歳になった。
前世で言えば、一つの記念となるこの十二歳。
長い六年間の小学生生活を終え卒業する、人生の一区切りだ。
この世界でも、十二歳は一つの区切りで、俺は行ってはいないが、初等学舎の卒業に該当する年齢だ。
なぜ俺が行っていないかと言われれば、俺が殆ど独学で勉強していたために、特別学舎で学ぶ必要性がなかったのだ。魔法の研究も続けていたし、これはこれで良かったものと言える。
俺の話はこの辺で終わらせて、次は身内話といこう。
クレオ兄さんは、今年で高等学舎を卒業だ。その魔法の威力と制御力はなかなかのものと言える。
非常に清廉な顔つきになり、精神も成熟。小さな大人として歩み始めたばかりの、新米ながら、未来に胸を高鳴らせる若者だ。
セフィアさんも美しく成長し、王女としての風格を見せている。女神のようなその姿に、兄さんは嫉妬の目を集めているようだ。もっとも、俺もまた、前世の遺恨を兄さんに向けている人間なのだが。
既に数年後には公爵の位を譲渡され、兄さんは正式にエインフェルト公爵になることになっている。
姉さんたちも着々と成長し、既に籍を入れる準備も始めている。母さんはやっと折れ、二人を嫁に出す決意を固めたようだ。
リディアは無事に対面式を乗り越えた。この時ばかりは父さんに無理言ってついて行ったものだ。
案の定、門番の兵士たちに止められたが、俺が一瞥するだけで萎縮してしまい、さっさと道を譲ってくれた。
俺は持ち得る限りの宝珠を用いて徹底的に撮影しまくった。可愛い妹の晴れ姿を絶対に忘れないために、この時のために作っておいたハイパー容量の特製宝珠である。
一種のストーカーのようにも感じるが、俺は完全な正義として、彼女を撮影しまくった。
シスコン、ここに極まれり。最早戻る方法は無くなった。
周りの人間は、俺を恐れていた。まあ無理もない。二年前に盛大にやらかしたのだから。
ついでに言うと、今は妹の反抗期。悲しきかな、思春期を迎え始めた彼女は、少しずつ俺から離れて行っているように感じるのだ。
成長でもあるのだが、それでも悲しいものである。
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ある日のこと。
俺はいつも通り、引きこもり生活をエンジョイすべく、朝食を済ませて自室に戻ろうとした時のことだった。
「アルーゼ! 少しいいか!?」
後ろから、兄さんが追いかけてきて、俺に声をかけてきたのだ。
このところ、というか五歳の時のあの戦い以降、あまり兄さんから話しかけてくることがなかったので、俺は普通に驚いた。
「何ですか? 何かあったんですか? セフィアさんの可愛いシーンなら、高額で売りますよ?」
「違う、そうじゃなくて。少し用があったんだ……幾らで?」
「小金貨一枚で」
「買った! ……ってそうじゃなくて!」
いつも通りのくだらないやり取りを終え、兄さんが態勢を立て直す。
「アルーゼ。お前、実戦経験を増やしてみないか?」
「ん? どういうこと?」
突然の兄さんの言葉に、俺は首を傾げる。
その言葉で俺が興味を持っているのを察したが、少しテンションを上げて詳しい説明を始めた。
「俺さ、今度実戦研修の一環で、魔獣狩りに行くことになっているんだ。森の中だから大規模な攻撃はできないし、数日間の泊まりの作業だから、お前にも貴重な経験になるんじゃないかと思ってな」
なるほど、そういうことか。
実戦研修とは、兄さんの通う高等学舎の卒業試験みたいなもので、特定の成果を達成しないと卒業判定を貰えないのだそうだ。
資金援助は学舎側が指定額で用意し、その枠内で収める決まりがある。
兄さんは裏技として、俺の用意するものまで加えたいようだ。
そもそも試験自体がガバガバな作りであることから、恐らく学舎側が求めているのは単純な強さだけではなく、指定されたことを達成するための柔軟な思考力なのでは、と考えられる。
であるならば、十分に俺を使うメリットはある。
しかも俺にしてみれば、貴重な実戦経験であることも間違いではない。
これまで何度か行ってきたものは、せいぜい相手を倒す程度。命の奪い合いではない。
十分に戦える力もあるし、断る必要もないだろう。
それに俺としても、魔獣という存在にはいささか興味がある。
俺は兄さんと日時の確認をして、その場は別れた。
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