第16話 緊急家族会議

 目下直近に差し迫ったこの問題は、遂には家族会議に発展した。

 そして今、エインフェルト邸のリビングには、この屋敷に住まう住人の多くが集結していた。


「ではこれより、緊急家族会議を行う」


 父さんが、神妙な面持ちで音頭を上げた。

 事態を知る両親と兄姉たち、それにあの場にいた全てのメイドたちが、暗い表情を浮かべている。

 対してリディアは、当時まだ三歳だったこともあり、事態をあまり知らないため、頭上に「?」と浮かべながらも、この場の空気に飲まれて静まり込んでいる。

 そして俺は、父さんの真正面、机の反対側に座っている。横長の机の横側は、他の家族たちがソファに座って陣取り、ソファの周りにはメイドたちが、同じく静かに佇んでいる。

 この空気を感じたのは、あの日以来だ。皮肉なことにあの場の母さんの空気が、今まさにこの場を覆っている。


「さて、まずは事態を振り返ろうか」


 父さんがそう呟くと、その後ろに待機していたメイドが前に出て、机に資料を置いていく。

 彼女はメイド長のフランさん。この馬鹿でかい屋敷を管理するメイドたちの頂点で、そのカリスマと技術によって、他のメイドたちを纏めている。

 彼女が差し出した資料には、ことの顛末、そのすべてが明記されていた。

 傍目から冷静にことを振り返ると、やはり俺は随分とやんちゃをしているようにしか思えなくなる。

 よくよく考えれば、この一連の流れは、俺が自分の楽のために兄さんを利用したような形になる。

 その癖俺の勝因は、持ち込みのような不正紛いの搦め手。

 ことの次第を精密に見返して思うのは、やはりこれが面倒なことになっている。

 結論だけで見れば兄さんに俺が五歳で勝利した、となるが、実際は実力の勝利かと問われるとグレーゾーン。

 勘違いも甚だしい。あくまで俺の勝利は、手札が一方的に割れていた上での不意打ちによる辛勝だ。

 あの時、兄さんの手札を、俺は事前に知っていたのだ。エリンさんに何気なく聞けば、知ってかは知らないがペラペラと話してくれた。


 だが問題は、些細な過程など、向こうは意に介さないということ。


 要は向こうが、過程を無視するということだ。そしてそれが、今回の一連の問題の発端の一つでもある。


「アルーゼ、お前には考えはあるか?」


 父さんが聞いて来る。

 現状、問題解決に直接携わるのは俺と父さんだ。であれば、この問いかけは必然であると言える。


「俺の考えとしては、こちらからは何も仕掛けない、ということです」


 何もしなければ、起きる騒動も起こらない。火のないところに煙はたたない。雉も鳴かずば撃たれまい。

 俺の考えとしては、向こうからのアプローチにもあまり関わらないという、あまりにチキンな選択だった。

 だが、そんな弱腰な選択も時には功を奏する。


「基本、それで良いだろう。だが問題は、向こうから決闘を申し込まれた時だ」

「公爵家という名前のせいで、受けないと威信に大きく関わるからね」


 父さんの言葉に、兄さんが補足する。

 だがその対策も、俺にはすでに存在していた。


「決まっています。その時は本当に、実力で黙らせるだけです。今の俺には、そのくらいの力はありますから」

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