第7話 五歳になりました
数年経って。
俺は成長を重ね、五歳になった。
体はしっかりと成長し、言葉も拙くながら用いても不思議に思われない年齢になり、だいぶ不自由が減った。
日本ならば七五三の五に該当し、男児が祝いの席に立つ唯一の年齢だが、この世界にはそんな観念は存在しない。
クレオ兄さんは既に十一。今年が終われば、晴れて初等学舎を卒業だ。
この世界における学制は、統一して三年制だ。九歳で初等学舎に入学して三年間、卒業すると中等学舎へと籍を移し、十五歳で卒業となる。
教育は決して義務ではなく、多くは初等学舎で終わる。商人など高等な知識を要求する職を目指す子供は中等学舎に進む。
多くの場合はそこで終わりだが、その先には高等学舎が存在する。
これは王宮騎士団や王宮魔法師団などを志す人が入ってくる。軍略やら戦時下の動き、更には魔法なんかも教育が施されるのだ。
王宮騎士団や王宮魔法師団に属する者はそれなりに権利を有していて、目標にする人も少なくない。例えば商人相手に物を買うとき、所属を証明できれば三割引で物を購入できる、と言った具合だ。
もちろん、優秀な生徒を集めたい高等学舎側は、入学に試験を課す。ある程度実力のある生徒しか受け入れないというスタンスが、昔から続いている。
まあ、国防の要となるのだから、優秀な生徒を集めたいのも道理だ。そんな訳で、この世界にも入試制度がある。座学だけでなく実技も評価対象になるので、受験戦争はこちらの方が激化する——のかもしれない。
しかし、この世界の学制に「義務教育」は存在しない。
学校に行くのにもお金がかかるので、高等学舎に進むのは、ある程度金銭的に余裕のある人に限られる。
そのため、優秀な人材を失っているのではないかという指摘が上がっていて、現在は高等学舎の無償化が当面の課題とされている。
しかし逆に、学舎に必要な額よりさらに多くの財を持つ家庭は、家庭教師を雇うことがある。
生徒と一対一で指導できるという点から、貴族の間ではよく雇われているらしく、俺の家もまた例に溢れない。
だが稀に、自分の意思で学舎に通いたいという子供もいる。その場合は学舎に通わせてもらうこともできる。
クレオ兄さんは、父さんに頼んで半ば無理矢理学舎に入ったらしい。まあ、別にそれが悪いことでもなければ変なことでもないので、父さんは了承したのだろう。
そんなところだが、ここで身内話を少し。
一つ目。俺に妹ができた。
まさかのリアル妹だ。まあ、夢を持つのは自由だが、現実は残酷だ。思春期にでもなれば父離れと兄離れで寂しくなる未来は見えている。
悲しい思いをしたくなければ、この段階で関わりを絶っておくのが正しい選択だろう。
だが出来るか!
妹は現在三歳。名前をリディア。くりくりした碧玉の瞳と、一切の不浄を知らぬ無垢の笑み。まさに舞い降りた天使だ。
しかも最近は、自由に歩き回るようになって、よく俺の後ろをとてとてとついてくるのだ。可愛いったら仕方がない。
シスコンはここに生まれつつある。
というか、あの両親はとても盛りがいい。俺が二歳になって暫くすると、母さんは俺を寝かしつけてから、夜な夜な夜の営みに走るようになった。
壁はしっかりと厚いはずなのに、どうも喘ぎ声が聞こえてくる。母さんのあの艶かしい声は、困ったことに俺(精神は二十六歳童貞)の妄想を掻き立て、ムラムラが全く止まない。
そうした生き地獄が暫く続くと、母さんはめでたく
出産の時は、家族総出で安産を願ったものだ。
ちなみに母さんは、十八の時にクレオ兄さんを受胎している。それから約二年越しに子供を授かっているのだから、俺の時は二十六、リディアは二十八で産んだことになる。元気があるというのか抑えられないというか、童貞の精神では理解できないことが、世の中にはあるらしい。
二つ目。クレオ兄さんに婚約者ができた。
この世界の貴族の子供は、十歳になると対面式があるらしい。そこで、婚約者を探したり、縁談を持ちかけたり、あるいは決闘して強さを比べ合う。
兄さんも例に漏れず、その場で婚約者を決めたようだった。何やら「決闘で勝ち得た」なんて話を耳にしたくらいだから、話題に出せばさぞ甘ったるい惚気話を延々聞かされる羽目になるだろう。
その数日後に、相手が婚約報告にやってきた。
名前はセフィア。なんと第二王女。品行方正で見目麗しい、時々危ない姿を見せることもある少女で、父さんに婚約報告をしてから屋敷内を散歩し、イチャついていた。
あの努力家で純粋なクレオ兄さんとなら、とても釣り合ったカップルだろう。
俺は遠目にそれを見ながら、映像記録の媒体の宝珠を用いて、それを隠し撮っていた。
その後、婚約報告として国王陛下に謁見した。なんでも、公爵家の方から王家の方へ報告に行く時は、親族全員が出向くのが礼儀だそうで、俺も付き合う羽目になったのだ。
国王陛下は、とてもいかつい人だった。
焦げた肌と黒い口髭がとても風格を露わにし、その鋭い眼光はまるで相手を見定めるように光っていた。
しかし頬は緩みっぱなしだったので、俺は特に警戒することはなかった。
兄さんとセフィアさんが国王陛下に婚約報告をすると、大層喜んでいた。なんでも、父さんと陛下は古い友人なんだそうで、信のおける人間に嫁ぐと知って、まあ喜んでいたものだ。
ちなみに俺は、国王という重役とのコネクトを持つために、宝珠の映像とその他娘の可愛い話を提供した。あの時のセフィア王女は顔を真っ赤に染めて視線を下に下げていて、もうなんとも言えぬ尊さがそこにはあった。
こうして俺は、兄の婚約すら利用して、国王とのコネクトを手に入れたのだった。
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