異世界研究所(ラボ)〜異世界転生したから全てを知る〜

幕ノ内豊

第一章 魔導細胞編

第1話 生まれた世界にさようなら

 生まれ変わり。

 それは古代から、幾代もの人々が願い続けた一つの願望だ。

 仏教には、輪廻転生の思想があるし、弥生時代の日本の遺跡からは、手足が縛られた状態で埋葬された遺骨も見つかっている。

 そんな風に、人々は常に、今の自分に足りないものを、来世の自分で得たいという願望を持って生きてきた。

 完璧ではないからこそ、成長する。とでも言ってしまえば聞こえはいいが、結局は人間、誰しもが完璧な存在であろうと四苦八苦するらしい。

 だが今の俺は、そんなことを考えている程暇がない。社畜に厳しい現代社会、そんな世界を、日々淡々と過ごす毎日だ。


 村上悠馬、二十六歳独身。年齢イコール彼女いない歴の典型的な一般男性。当然童貞。

 大手銀行会社に就職し、現在は少しばかりの役職に就いている。周りから見れば、それなりには悪くない人生だ。

 このなんの変哲もないバスの窓から見る、いつも通りの景色。六時五分発の始発なのに、既に席は埋まっている。

 俺は寝不足気味の眠気に苛まれながら、バスに揺られ続けている。

 昨日の残業もハードだった。後輩のミスの手直しでもしていれば、当然俺の仕事は溜まっていく一方だ。

 重ねてパソコンの画面の見過ぎから来る眼精疲労と強烈な肩こり。俺の疲労は、溜まっていく一方である。

 暫く揺られ続けていると、やがて終点の電車の駅に到着する。

 ICカードを用いて手早く電車から改札へ移動。そのまま速度を落とさずに滑り込むように、すぐに混み合う乗り口に移動する。あとは暫くしてから到着する電車に乗り込んで、数駅移動すれば職場だ。


 その時。


「どけっ、どけっ!」


 何か後方から、喧騒のようなものが聞こえてきた。

 だが俺は、前日の睡眠不足が祟ってロクに思考がまとまらないでいた。

 しかしタイミング良く、次の電車の到着を知らせるベルが鳴り響く。

 このいつものルーティンと化した一連の流れは、何度も繰り返したせいか体が覚えてしまっていて、あまり周りを意識しなくても自然と体が動いてくれる。

 だがそれが、この日の不幸を招いてしまったのかもしれない。


 電車がホームに入ってきて、ゆっくりと減速を始めていく。

 俺は噛み殺し続けていた眠気に耐えきれず、遂に欠伸あくびをしてしまう。

 周りの人から、冷たい目で見られてるな、と感じたその時。


 後ろから、何者かに突き飛ばされた。


 急な事態に驚いて、しかし眠気のせいでロクに動かない身体は言うことを聞かず、足で踏ん張ることができなかった。

 次の瞬間、柵のないホームから落ちた俺は、スローモーションの景色の中で、自らの身体が線路に落ちていくのがわかった。

 そして同時に、間に合わない急ブレーキで甲高い金属音を鳴らす電車がだんだんと大きくなっていって。


 ドン、という鈍い音と一緒に、俺の景色は暗転した。

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