無秩序な五つを繋げて

日々ひなた

ピリリと辛い

 ある日私はビデオレターを見た。

 いや、正確に言えばこれはビデオレターというよりも過去の記録録画というべきなのだろう。私に伝えたい話でないのは確かなのだが、それでも私に問いかけている気がした。


 様々な景色が映っては場転を繰り返していることから、このビデオは恐らく旅番組だということは分かるが、如何せんノイズが酷く音声すら流れない。なにせ古いVHSだ。テープが千切れていないだけでも奇跡なのだと思った途端映像がぷっつりと途切れた。


 取り出してみると黒いテープはキレイに千切れてしまっている。私はこの手の機械は苦手なのだ。ということで修理は諦めてさっさと捨てる事にした。


 ただ、最後に映っていた「カラシナが湧く川」というフレーズに、漠然とした興味を私は抱いていた。理由は分からないが、何故か呼ばれた気がした。そのフレーズがいつもはコタツでゴロゴロとしている私に義務感を与えたのだった。


 そうと決まれば話は早かった。先程のフレーズをパソコンに叩き込み、場所を特定。冷蔵庫を開けるとあり物の野菜やら食べかけのハムとチーズやらがあったので、賞費期限前日のパンを杜撰に千切り、サンドイッチもどきを作成。


 型落ちのジョルノバイクに跨ってさあ出かけよう。


 どれくらいバイクを走らせただろうか。寒空の中、紅葉がとても綺麗だなぁと感傷にふけながら進んでいく。


 寒いなぁしか言葉が出て来なくなって数分、ポケットのスマホが「まもなく目的地です」と私に告げた。ここがVHSに映っていた目的地の川だ。


 なんといえばいいのだろうか。川だ。

 特に感想が出てくる訳ではない。ここは川だ。何の変哲もない。

 護岸がされていない川辺に落ち葉が数枚落ちている。そういえば今は冬なのだからカラシナが咲いているはずもなかった。


 でも不思議だ。私はこの景色を知っている。

 バイクを停めてサンドイッチをほおばっている。あのVHSは何だったのだろう。

 私はもしかしたらこの場所に来たことがあるのかもしれない。

 いや、気のせいだ。錯覚やらデジャヴだな。

 そういえば、なんとなく味気ないこのサンドイッチ、マスタードを入れ忘れちゃったからかな。

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