執筆のアキト
たぁくみ
全てのはじまり
01 柊暁人という男
小説家の
暁人の幼少期は一向に勉学に励まなかったという。
一方で、唯一彼を夢中にさせたものがあった。
それは人の心情や行動を文字だけで感じ取ることができる
❇︎
暁人が働ける歳になると勉学など真面目にせず、小説ばかり読んでいた彼は嫌々就職活動をするも当然のごとく失敗した。
とある工場の社長であった彼の父はとうとう見かねて、彼を誰でもできるライン工の仕事へとコネ入社させた。
だが、小説にしか興味の無かった暁人にその仕事が長続きするわけもなく、その職場を1年で辞めてしまった。
それから暁人の両親は彼が大学にもいけず、ろくに仕事もしようとしないことに対しガミガミ言っていたが、数週間もすればもう何も言わなくなっていた。
そして、相変わらず小説好きの彼は働きもせずに書店で本を物色する毎日を送っていた。
ある日、ふと店の小説コーナーを見渡すと彼はこんなことを思った。
——俺はもう20年以上も小説を読んでいるが、最近の小説は同じような内容で面白くないな⋯⋯
そんなことを思っていると、彼は急に閃いたかのように呟いた。
「俺が小説家になれば、昔読んだような面白い作品ができるに違いない」
彼は何の根拠もなく成功するかも分からないことを実行しようとしていたのだ。
しばらくして、やっと自分の決心がついた彼は念願の小説家の道へと歩み出したのである。
驚くことに、彼は勉強がほとんどできなかった癖に小説の才能だけは豊かだったのだ。
——昔から小説ばかり読んでいたおかげかもな⋯⋯
そうして彼はその才能を開花させながら、数々の小説家としての足跡を残していったのである。
❇︎
それから二年くらいたっただろうか。
現在、27歳になった彼は新しい小説の作成に頭を悩ませていた。
「くそぅ、次は何を書けば良いのか何も頭に浮かばん」
そんなことを思っていると、急に頭がぼーっとして周りの景色が白く薄らいでいく。
「またこの感覚か⋯⋯」
実は、彼がこの感覚を覚えたのは今回が初めてではない。
小説家になった当初から少しではあるがこれを感じていたのだが、すぐに治ったのであまり気にしていなかった。
だがしかし、今となってはそれを鮮明に感じ取ってしまうようになっていた。
周りの景色が完全に白くなっていくと、今度は暁人以外の人間が一人残らず消えていくのだ。
そしてとうとうこの空間にいるのは暁人だけになってしまった。
「おい! いつも何なんだこの現象は!!」
この広くて白い空間に、初めて彼は半ば怒りの感情を込めて響き渡るように叫んだ。
いつもはそんな感じで終わるのだが、今回はいつもとは違ったのだ。
なにやら、か細い女性のような声で何かを喋っているのが聞こえてきた。
「⋯⋯人やっと⋯⋯いた」
何を言っているのかわからず、もう一度よく耳を澄ましてみると。
「暁人⋯⋯やっと届いた⋯⋯」
届いた⋯⋯? なんのことだ?
というか何故、声の主は俺の名前を知っているんだ?
「何を意味の分からないことを言っている? この空間は一体何なんだ!?」
憤りをも感じるこの状況を、誰でもいいから早く説明して欲しかった。
ようやく鮮明に聞こえてきたこの声は
「やっと聞こえるようになりましたか、
と彼が聴こえる時を待っていたかのように答えた。
「実は私は、あなたが小説家になってからずっとあなたを見ていたんですよ」
と、いきなりストーカーまがいの発言をされたものだから、さっきまで憤りを感じていたはずなのに急に力が抜けて、俺はポカーンと口を開けたままになってしまった。
「⋯⋯って、あれ? ちょっと! 暁人さんってば!!」
しばらく思考停止を続けていると、声の主は独り言を呟き始めた。
「うーん、困りましたねぇ⋯⋯これから異世界に【転移】してもらわなきゃいけないのに」
異世界……?
転移……??
さっきからコイツの言っていることはまるで意味が分からなかった。
このまま思考停止していても何も進捗がないと思った彼は、ようやく口を開いた。
「お前はさっきから何を言っているんだ? あと、何で俺の名前を知っているんだ?」
するとその声は陽気に答えた。
「おっ、やっと口を利く気になりましたね!」
「いいから答えてくれないか、俺をずっと見ていたとはどういうことなんだ?」
彼は思わず言動がせっかちになってしまっていた。
「まぁまぁ落ち着いて下さいな、ちゃんと順番に話しますから」
——確かに、コイツの言う通り一度冷静になって考えるべきだったか
彼は一度深呼吸をして、話を聞く準備を整えた。
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