第2羽 異世界転生で雀になってどうするんだ!
親鳥をよくよく見ると、前世でよく見かけた雀のような見た目をしていた。
そっかー、雀に転生しちゃったのかー。
……何で雀なんだろ?
別に雀が特別好きなわけではないんだけどな。
まあ、なってしまったものはしょうがない。
色々と吹っ切れた私は親鳥が持ってくる様々な餌を食べて、兄弟と共にどんどん大きくなった。
そして、次第に兄弟達が巣から旅立っていった。
まあ、転げ落ちていったというのが正しいのだけど。
雀は巣立ち前に飛ぶ練習したりしないんだね。初めて知った。
もちろん、私も巣から転げ落ちることで巣立ちを経験した。
いや、巣立ちと言っていいのかこれ?
だって全く飛べなかったし。
ちょっと浮いた気もするけど、普通に地面に激突したし。
全然飛べなくてどうしようと悩んでると、親鳥が餌を持ってきてくれた。
その後は親鳥に時折手伝ってもらいながら、飛び方やら餌の取り方を学んだ。
次第に親鳥も私を見守るだけになり、一人でも餌を取れるようになった私は親元を離れた。
今までは巣の周りでしか行動しなかったから、こうやって空を飛んで移動するとこの世界のことが何となくわかってきた。
巣の近くにあった町は中世ヨーロッパみたいな――よくあるファンタジー世界の街並みをしていた。
彫りの深い顔をした人々が日本語で会話をしていた時は驚いた。
ここ、絶対日本じゃないのに。
そして、極めつけは町中で人々がごく普通に「魔法」を使っていたことだ。
まさかのファンタジー世界に転生していたようだ。
え、せっかくファンタジー世界に転生したのに、雀になっちゃったの?
いや、まだ希望はある。
雀でも魔法が使える可能性があるかもしれない!
……いや、魔法ってどうやって発動させるの?
もしかして、人間の皆さんはちゃんと習うんですかね?
……魔法、使えない?
せっかく、魔法がある世界に来たのに?
「ジュウジュウジュウ!」
私は怒りの鳴き声を上げる。
くっそう、神様はなんて酷い奴だ。
ロベル様のこともそうだし、私が一体何をしたっていうんだ!
はぁ……嘆き悲しんでもしょうがない。
私はこの世界でただの雀として一生を終えるのだ……。
悲しみにくれながら、とぼとぼと飛んでいると、町の外れに大きな御屋敷があるのが見えた。
広い庭には様々な植物があり、多くの花が咲き誇っていた。
何か、お腹空いてきたな。
あの庭に行ってみて、食べ物探すか。
庭につくと私は早速食事を始めた。
ああ、花の蜜が美味しいなぁ。
木の実もいっぱいあるし、なかなかいい餌場ですわ。
……雀としての生活に慣れつつある自分が怖い。
まだ自分から虫を取って食べるなんて行為はしてないから、人間性は保ててる……はず。
でも、そのうち虫を食べることに躊躇が無くなったらどうしよう。
そんなことを考えながら食事をしていたので、私はそれの接近に気が付かなかった。
「チュピ?」
ふと、視界が薄暗くなって、私は顔を上げた。
目の前に、大きな猫がいた。
「ニャー!」
「チュチュチュッ!?」
繰り出された猫パンチを間一髪で避ける。
ひぇぇ、前世では猫派だったのに、今ではただ恐怖の対象でしかないよぉ!
早く飛び立てばいいものを、余りの恐怖に身体が上手く動かない。
追いかけてくる猫から頑張って逃げて、ようやく高く飛び立てた時だった。
「チュピッ!(痛い!)」
運悪く、飛び立つ直前に猫に引っ掻かれてしまった。
それでも痛みを堪えながら高く飛ぶと、猫はそれ以上追いかけるのを止めてくれた。
ホッとしたのも束の間、今度は傷口が酷く痛み出す。
何だか、体温が下がってきた気がする。
次第に飛び方が安定しなくなって、ふらつき始める。
と、とにかくどこか安全なところへ……。
意識も急激に低下し、高度がどんどん下がっていく。
このまま地面に激突するのはまずい。
薄れていく意識の中、私は咄嗟に御屋敷のバルコニーへと飛び込んだ。
でも、勢いが良すぎて部屋の窓にぶつかってしまい、私はそのまま気を失ってしまったのだった。
――窓の向こうで、何かがぶつかる音がした。
「……?」
部屋で本を読んでいた僕は、気になってバルコニーに繋がる窓を少しだけ開けた。
普段なら、日中にここを開けることはない。
お父様から禁止されているから。
バルコニーから顔を出して誰かに見られるのは困るから、と。
わかっている。
何で、お父様がそう仰るのか。
でも、今は緊急事態だ……と思う。
きっと許してもらえるだろうと、僕は開いた窓の隙間から、そっと外を覗き見た。
最初は何も見当たらなくて、音がしたのは気のせいだったのかと思った。
でも、フッと視線を下に落とすと、そこには血まみれの小鳥がいた。
「た、大変……!」
僕は慌ててその小鳥を拾い上げる。
幸い、まだ息はあるみたいだった。
でも、早く手当してあげないと……!
「ええっと、傷の手当は確か清潔なガーゼで……」
僕はその小鳥をつれて部屋に戻ると、急いで手当をした。
こんな時に「
そんな考えが一瞬浮かび、ぶんぶんと頭を振ってその考えを振り払った。
無いものねだりをしてもしょうがない。
誰かに「
それに、僕が頼んだところで、誰も手助けしてくれないかもしれない。
「ごめんね……」
苦しそうな小鳥に、僕はただ止血をして謝るだけしかできなかった。
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