この暗澹たる世界に終焉を!
バニルの弟子:ショーヘイ
プロローグ
目の前に広がるのは、独特な配色や構造をした建築物の数々と何の目的で造られたのかよく分からない機械達。
そして忙しそうでありながらも、幸せそうに生活をする人々の姿。
大都市の中心部には途轍もなく高く聳える塔があり、それを取り囲む形で広大な広場が、さらにその外側にビル街、住宅街と建物が所狭しと連立していた。
どうやら街の中心である広場は市場も兼ねているようで、塔に続く何本かの立体的な構造をした太い道沿いには出店がずらりと並び、活気に満ちた人々の顔が印象的だ。
幸いにもこれが夢だと直に自覚できた。
というのも、俺はこれらの風景を全て街の上空、それも塔のてっぺんよりも更に上から俯瞰しているのだ。
しかも俺のすぐ傍を空飛ぶ車らしき機械が通り過ぎたり、鳥人らしき人達が平気で飛び回っていたりしているにも拘らず、彼らは俺の存在をまるで認識していない。
そして決め手となるのは、この場所は明らかに俺の知っている世界ではないからだ。
どういう原理かは知らないが、俺は夢の中で別の世界を覗き込んでいると説明するのが一番しっくりくる。
それ程に、この世界は完成度が高くとても美しかった。
何とはなしに上を見上げた俺は、そこで何かがピカッと光るのを見た。
そこから一つ、至極色の小さな光球が高速で地表付近へ落下し、俺を巻き込むぐらいにまで一気に膨張した次の瞬間――
先程までの景色や人々はそこにはなく、焼き尽された焦土だけが地平線の彼方にまで続いていた。
あまりの現象に俺が愕然としていると、何時の間にか俺の隣には一人の女性がいた。
身体全体が黒い光に包まれておりハッキリと視認することはかなわなかったが、何故か確信できた。
その女性は街があった場所を一瞥し、そっと左手を顔に押しあて上を仰ぎ見ると肩を震えさせた。
恐らくこの人はこの状況を作り出した張本人で、自分のやった事の出来栄えに満足し笑っているのだろう。
でも、俺は不思議とその人に恐怖や憎悪などを抱くことはなく、逆に同情してしまっていた。
彼女は表面上では笑っているが、心の中では悲しんでいるような気がしたから。
声を掛けようとしたのだが言葉が音に変わらない、どうやら発言権はないらしい。
と、彼女は突如笑うのをやめ顔を俯かせ、ポツリと何かを呟いた。
口元がぼやけているので発した言葉は分からなかったが、何となく彼女は助けを求めているのだと直感した。
とにかく何か彼女にしてあげたくて俺は手を伸ばそうとしたが、丁度その時、彼女を取り巻く光が一段と強くなりその光は天にまで届いた。
慌てて彼女の腕を掴もうとするもそれは空を切り、女性の姿はなくなっていた。
そして体勢を崩した俺は飛行能力が切れたのか、そのまま地面に向かって落下して――
「イタッ! ぬおおおおっ! 頭が、頭がああああ!」
床に転げ落ちたままもんどりうち涙ながらに開いた目に入ってきたのは、普段と何も変わらない俺の部屋。
窓から見える空は東の方だけが明るいことからして、まだ夜明け前らしい。
クソ、何が悲しくてこんな早い時間に起きなければならないんだ、頭から落ちるし二度寝するにしては目が冴えすぎるしで散々だ。
それもこれもあの変な夢の……、あれ?
「なんか不思議な夢を見てた気がするんだけど……」
目覚めのショックが大き過ぎたのか、綺麗さっぱり忘れてしまった。
まあ、たかが夢だし別にいっか。
と、痛む頭にヒールを掛けていたら誰かの足音が近づいてきた。
それはこちらに近づいてくると俺の部屋の前で止まり、コンコンッとノックをした。
恐らく俺がさっき立てた物音を聞き様子を見に来たのだろう。
この時間に起きてるとしたら多分あいつだな、てことはこのままの流れだと日課に付き合わされるという訳か。
「この時間からじゃやることも無いし、久しぶりに朝から付き合ってやるか」
俺は立ち上がり一つ伸びをしてから、扉の前で待っているであろう仲間を迎え入れるためにのそのそとドアの方へと向かった。
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