第2話 序章〜後半1〜

 事態は急展開を見せた。

 2人が俺の両脇に並んだ瞬間、突如、異常事態が発生したのだ。

「な、なに?」

 不意に、周囲に光の球体が浮かび3人を中心に周回を始めた。それは屋台の提灯のように淡い光で、ゆっくりと浮遊していた。その内球体は徐々に速度を増し、光量を強め、数秒も経たない内に視界一面を眩い光が包み込む。

「きゃあ!」

「な、なにこれ!」

 絵里と千佳のその声を最後に、聴覚の一切も消え失せ、全身を揺らされる感覚が襲い掛かる。

「……っ!」

 強制的に上昇と落下を繰り返されるような感覚がしばらく続く。両目を強く瞑り、事態が落ち着くのをひたすら待つしかなかった。

 気が狂いそうな吐き気と頭痛に苛まれながら、それが少しずつ収まり、ようやく落ち着いたと思った、刹那。

「ドォォォーーーン!!」

 限りなく近い場所で爆発が起きた。

 吹き荒れる突風に体を持っていかれそうになりながら、不思議と体には痛みも熱も感じなかった。

 少しずつ風も止み、周囲の様子も落ち着いてきた頃、俺は恐る恐る目を開き、あたりを窺う。

 教室に居たはずだが、上履きが踏み締めるのは見慣れた床では無く、荒れた黄土色をしている。少なくとも室内では無いが、グラウンドのようでも無い。整地されておらず、ガタガタだ。砂埃が舞い、大小様々な岩の破片が飛び散っている。今の爆発のせいでもあるかもしれないが、全体として大きな円状の窪みの中にいるようだ。

「うぅ……気持ち悪い……」

 すぐ隣で絵里が起き上がる。逆側には千佳も居て、どうやら2人とも無事なようだ。とりあえず一安心だった。

 未だに大きな煙が周囲を覆っていて、ここがどこでどうなったのか、現状を把握出来ない。

 教室に、飛行機か隕石でも突っ込んで来たのか?

 絵里も千佳も、怯えながら周囲を見渡している。

 煙が晴れて視界が開けてきた頃、少し離れた場所から声が聞こえてくるのがわかった。

「子供が……3人?」

「そんな、古文書の解読が間違ってたのか!?」

「今の爆発も想定外だ」

「儀式自体に不備は無かったはず」

「なんて事だ……」

「……失敗だ」

 少し離れた場所の石垣の向こうに、何人か人が見える。みんな同じ服装をしており、白装束に青い帽子と青いマスク、青いマントに胸には大きな紋章が掲げてある。見た事も無い連中だ。

 石垣の手前には、直径30センチ程の図形が地面に描かれている。これも見た事の無い図形だが、なんとなく何かに似ているような気がした。なんだろう……つい最近見たような気がするんだけど。

 砂埃が風に流れてようやく全体が見渡せるようになった。多少の期待はまだ残っていたが、それはもはや打ち砕かれた。ここはさっきまで居た夕暮れの教室では無い。

 太陽は空の真ん中に大きく存在を主張しているし、見渡す限りコンクリートの建造物は無く、ただひたすら荒れ地のような大地が広がるばかりだった。

「どうなってるんだ……」

 混乱を抑えて絞り出した言葉が、より一層事態の異常さを際立たせる。ここにきてようやく恐怖の感情がせり上がってきた。

 普通ではない事が起きている。

 理解がまるで追いつかない。

「ここは……どこ?」

 絵里が疑問を口にする。俺達3人の中にはその答えはきっと無いのに、それでも問題を明確化した。

「わかんない……。最近読んだ小説で言うなら、別世界にワープしちゃったのかな」

 さすが千佳。この異常事態をファンタジー理論で片付けようとしている。だが恐ろしい事に、そう説明されてもおかしくない状況だ。納得は出来ないが。

「すごく非現実的だけど、そんなこと現代科学で可能なのかな。対象も行き先も無差別みたいだけど」

 絵里が言う。それは少し願望も含まれている気がした。とりとめの無い仮定の話でも、自分達が巻き込まれたこの事態が不慮の事故であって欲しいと言っているように聞こえたのだ。もしも対象も行き先も、無差別では無く狙われたものだったら、と、さらなる不安を払拭するように。

 だけど絵里は……というか千佳もそうだけどそれなりに冷静だ。焦っているのは俺だけなのか。

 頼もしい2人のおかげで俺も少し落ち着いてきた。とにかく俺達3人は突然知らない場所に来てしまった。それだけは確実みたいだ。空間を転移したのか、それとも時空を超越したのか、どちらの可能性についてもまだ判別出来ない。


 だがその直後、事態はさらなる急展開を見せる。

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