第五話:燃えろ5500t軽巡!!






「那珂さん!!」


「夕立ちゃん達は下がってて!!!」



 そう言うなり、再び御使ことアズィールエルへと殴りかかる那珂さん。


 

「うおりゃァ─────────ッッ!!!」



 飛び散るフリートブルー。

 当然触媒と反応して爆発し、D.E.E.P.の細胞じゃあ無くても焼き尽くす火力を持つ。


 まるで、今の那珂さんを突き動かす心の中の炎の……いや、もうマグマ並みでは……!?


「っ」


 アズィールエルの姿が消える。


 気がつけば頭上でなんだか両手の間に光を集めていて……って、


「那珂さん上ぇ────ッ!!!」


「知ってるよオラァッ!?!」


 瞬間、那珂さんの背中の二つのスクリューから、ほとばしる凄まじいフリートブルーの本流と衝撃。

 放とうとした攻撃をかき消して、体制を崩させる。




「すご……というか、あんなにフリートブルー流して、大丈夫……?」


「使っている量自体は私たちの戦闘の時の総量同じです。

 違うのは、フリートブルーの粘度。

 那珂さん達、5500トン軽巡川内型は、

 フリートブルーが体外ではゼリーのような状態に変わり、爆発力や対D.E.E.P.毒性が強化される機構を備えているんです」


「初めて聞いた……」


「まぁ、川内型で最初で最後、川内型になれたフリートレス素体にしか、それも神通さんと那珂さんにしかうまく適合しなかったんですけど」


「そんな風に見えなかった……」


「那珂さんは普段隠キャ自称なだけです。

 結構身体も鍛えてますし」


 そう。

 那珂さんは、決して弱くなんかない。


          ***


「らァッ!!」


 何度目かのストレートパンチ。

 神の使いだろうと痛みを感じさせる勢いで叩き込む那珂。


『……ッ、これほどの力……!!』


「こんなもんだと思うなよ!!

 那珂ちゃんは隠キャでも!!川内型だぁ!!」


 渾身の攻撃を────しかし、受け止められる。


「!?」


『その力は、やはり危険だ』


 瞬間、四方八方から迫る光の剣。


「だからなんだって言うんだよぉッッ!!!」


 だが、那珂は強引に掴まれた腕を引いて自分の頭を相手の頭に撃ち付ける。


『!?!』


「あんたらが怖いから?

 怖いから私達を消すの!?

 話もせずに攻撃したら、誰だって反撃するでしょうに……!!」


 額を切り、青い血を流してアズィールエルを睨みつける。


「私らだって人間と同じ生き物なんだ!

 血の色が違うからって、なんか怖い力を持っているからって、心はあるし恐怖だって怒りもある!!


 まして、お前らとまず話し合おうとした夕立ちゃんを殺そうとした!!


 なんで攻撃したかも断片的にしか言わないくせして、反撃が来ないと思うのかよぉ!?」


 膝蹴りを叩き込んで離れる。


 アズィールエルは何も語らず光の剣を再び展開して、

 那珂は片腕に主砲二つと魚雷発射管が合わさった武装を展開する。


「……怒りが込み上げてくる、」


 主砲二つを後ろに回すと、発射管に魚雷が装填される。


「魂がざわつく……!」


 取り出す、青い液体の入った二つのボトル。

 ────フリートブルー過剰装填装置。


《SINGLE. TWIN.》


 武器に二つを並列して装填。

 単純に、爆発物も推進剤も2倍の効果を得る。


「私の心が、燃え上がる!!」


 構える那珂。


『だとしても、我らには我らの理がある!!』


 瞬間、アズィールエルが掲げた右手。

 凄まじい光が降りて、何か巨大な光の聖剣とでも言うべきものが現れ、それを掴む。




「それを説明しろって、

 言ってんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!」



 瞬間、背中のスクリューが爆ぜるかのように推進力を生み出し、腕の武器のドリルのように回転し始める魚雷をむけて、突撃する。





《水

 雷

 ツイン フ ィ ニ ッ シ ュ 》




 同じく迎撃するべく聖剣の切っ先を向けて突きを繰り出すアズィールエル。


 激突。


 海が一瞬二人を中心に割れて、水底が見える衝撃波が生まれる。


「だぁぁりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!」


『っ……!』


 ピシリ、と聖剣に入るヒビ。

 直後、魚雷の爆発と共に剣が折れ、砕けた剣を掻い潜って那珂の拳が……






「はい、そこまでぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!」




 だがその時、

 横から飛んできたエネルギー派が二人に直撃し、攻撃をキャンセルさせてそのまま近くの防波堤にくくりつける。




          ***


「うわぁ、間一髪ですよこれ……!」


 危うく、ややこしい事態に殺人……にあたるのか分からないですけど、スッキリはしない結果になるところでした。


 私の技が拘束するタイプで良かった……


「夕立ちゃん!?なんで!!」


「那珂さん深呼吸!!

 また暴走してます!!」


 ハッとした顔の那珂さんは、まぁ分かっていたのかシオシオと萎れた顔になっていきます。


「……夕立、どゆこと?」


「マサチューセッツさんは聞いたことないでしたっけ?

 さっき言った特性を付与された弊害で、那珂さんは戦闘中ちょっと感情の制御を失って暴走しやすいんですよ。

 一回公式訓練で、姉の神通さん共々大暴走して駆逐艦二人が怪我したことあるぐらいに」


「……多分それ、大東亜の機密じゃない?」


「今更です。

 那珂さん戻ってきましたかー?」


「うっ、うっ……なんか面目ないです……!」


 ふぅ、血の気が治まったいつもの那珂さんに戻った……


「そして!」


 バン、と単装砲で、那珂さんの頭上の光の剣を撃ち抜く。


「ふぁっ!?」


『……』


「さて、お話の時間ですよ、異世界の天使さん?

 謝罪とか賠償も含めて、喋んなくてもいいのでテレパシー的な奴で教えてもらえるんですよね?」


 私も容赦しませんからね。

 色々教えてもらいましょうか?




「おっと、御使様を離した前」


 と、後ろではテンプレな台詞と、囚われのヒロインにしちゃあゴツいアンガスさんが、例の司教さんと鎧の騎士さんたちに剣を向けられているじゃあないですか。


「すまねぇ……!」


「良いですよ。

 まぁ、だからどうしたって冷たく言うんですけど」


「それは酷いだろ!」


「そうとも、知った仲の相手を見捨てるのかね?」


「───そうなったらお前ら、全員殺す。

 テロリストとは交渉しない。人質を殺したら皆殺す。

 お前らと私が作った屍の魂を救うのは、いつだってお前らの血だけだ。


 ……言葉、通じてます?」


 ギョッとした顔されても、人質とってるの貴方達なんですが。


「お、おっかねぇなぁぁぁ……!!

 可愛い顔してなぁ……覚悟決まりすぎじゃあねぇか?」


「だって譲歩してもあなた解放されないでしょ?」


「そりゃ間違いねぇな。

 お前の性格バレてるぜピート!」


「人質にされておいて貴様もおかしな奴だ。

 この悪魔にやられたか?」


「お前こそ、あの神様の使いとやらに入れ込みすぎだろうが。

 ん、待てよ……?

 おい、ピートお前……まさかなんか知ってるな!?」


 ……おぉ?


「少しは黙ったらどうだ?」


「おかしいなぁ、いつもならお前、皮肉の一つは返すのに黙ったらだと?」


「黙れ!生殺与奪は私が握っている!!」


「……どう思う?」


 いやいや、アンガスさん……


「分かり易すぎでしょ、ねぇ〜?」


 目標変更。

 こっち相手の方がやりやすいです。


「ち、近寄るな、女!!」


「あなた、あっちの喋らない人と随分仲良いんですね。

 あんなに喋らない人が教えてくれてるだなんて」


「観念しろやピート!

 こっちには相当おっかない女がいるんだぞ!?」


「人質の癖してなんでそんな偉そうなんだお前は!!」


「じゃあこの距離で私が撃つのが速いか比べてみます?」


 冷や汗が見えますよ?

 周りの甲冑の皆さんもまぁ……下手には動けないこの状況。


『っ、』


「ほい動かない!」


 あ、那珂さんナイス!

 例の御使さんの首元に魚雷を突きつけて動き止めてくれるとは。


「どうします?まだ手とかあるんですか?」


「こ、コイツの命が、」


「テロリストとは交渉しないって言いましたよね?」


 全員沈黙。


 気まずい空気、緊張感漂う時間が…………





「─────うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!」



 ん?なんの声?

 上……うぇっ!?!?



「「ふぎゅん!!」」



 と……そんな状況で顔面に上から何か落ちてきたんですけど痛ったぁぁぁい!?!?!


「こ……この感じ……もしや……!」


「うぅぅ〜……って、」


「「あ!?」」


 目の前には、めっちゃ見たことある栗色の髪に可愛い顔に所々ピンクのセーラー服の子!!


あかつきちゃん!!」


「夕立ちゃん!?!」


 特Ⅲ型駆逐艦装少女デストロイフリートレス、1番艦の暁ちゃんです。


「やっぱり落ちてきて情けない顔で人に顔面キャッチでなんて事になるドジっ娘は……暁ちゃん達以外いないですよねぇ」


「会って早々酷い!!

 ……でも反論できない〜……!!」


 涙目ウルウルなのでよーっしゃっしゃ、と撫でて慰め、はいいつものです。


「ノルマ達成したんでなんで落ちてきたか教えてもらっても?」


「ノルマ!?ノルマなのこの流れ!?!

 って、そうだまだ来るの!!」


 と、続いてまた何か落ちてくる音が。


「ゲフォッッ!?!??」


『!?!?』


 まさかの、御使さんの頭からぶつかる、金髪に所々黄色なセーラー服の子は、


いかずちちゃーん、あの無事?」


「痛ッッ……〜、くないっ!!!」


 だん、と那珂さんがくくりつけられた防波堤に立って、腕を組んだ仁王立ち男の子みたいに強がる……けど涙目なのが、特Ⅲ型3番艦の雷ちゃん。


「ああああああああああ、ヘブッ!?!」


 そして、ジャッ◯ー・チェンよろしく近くに建物の布張り部分を突き破って落ちて、頭から地面に落ちたまま、きゅーとパンツ丸出しで倒れる所々赤い銀髪の子。


ひびきぃー!?!しっかりして!!意外と軽症だよ!?!」


「らいりょーぶらおねえちゃん……ふしちょーはしにゃにゃい……きゅー」


 で、駆け寄った暁ちゃんに介抱されてるのが2番艦の響ちゃん。


「……となると最後は……」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」


「最後くらいは!!マサチューさんお願いします!!」


「ん!」


 マサチューさんが旗を円に振るって、発生した重力場で最後の子がフワリ。


 ……あっ、紐パン!


「大人パンツ!?!」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」


 すとっと、スカートを抑える紫なセーラーの青みがかったストレートヘアーの子こそ、特Ⅲ型の末っ子のいなずまちゃん。


「見ないでぇ……!!

 は、恥ずかしいよぉ……!!」


「ごめんね雷ちゃん!!

 でもその……お姉ちゃんちょっと大胆じゃないかなーって思ったり??」


「うぅぅぅぅぅぅぅ……!!」


「はいはい落ち着いて。

 どうしてまた降ってきたんですみんな?」


「どうしてって、夕立ちゃんよぉ!!!

 『ながもん』のせいだよあの『ながもん」の!!」


 と、気絶している御使さんを回収してきた雷ちゃんがとんでもない名前を、ってマジで!?!」


「ながもんって今言いました!?!」


「嘘だろながもん!?!」


「ながもんって何??」


「マサチューさん、ながもんというのは……」




 ふと、対空レーダー感あり。

 突然暗くなって上を見たら……



「あれです」



 どしぃぃぃぃぃぃぃぃん!!!!


 津波だー!!わー!!!

 いや本当にそんな感じで流されたり捕まってふんばったりのてんやわんやで……


 どさくさに紛れてアンガスさんを回収したりして……ようやく海が落ち着いたと思ったらそこには、



 白い瞳の神秘的なたたずまい。

 巨大な砲塔。艦の意匠。


 その身体は鋼鉄でできた、巨人。



「ながもんって……まさか……!!」


 そうですマサチューさん。

 ビッグセブン、巨大ロボ型艤装のあの方!!


「その通り。

 しっかし派手な登場で……!!」


 スーパーヒーロー着地って膝関節悲鳴上げそうな。


 そして、キィ、と音を立てて頭部のハッチが開きます。





「ここが、ギルドアって街か……!」


 身を乗り出す、白い軍服風な格好の女性。

 抜群のスタイルと長い足。


「水の都ってやつか……いい所そうだな」


 一つに束ねた後ろの髪と美人な顔で、町を高いところから一望しています。




「何呑気に旅番組のレポみたいなこと言ってんですかぁ!?!」


「よぉ!見知った顔にあったな!」


「そうじゃないでしょ!!


 ─────まったくこの長門ながもんは!!」



 びしりと彼女─────ビッグセブンが一人、


 長門型一番艦、長門ながとさんに言ってやります。



「悪かったな。

 ほら、ラムネやるから機嫌を治してくれ」



          ***

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