Part.4:フリートレス・パーティ・オペレーション





 特殊艤装ビッグセブン、陸奥内艦橋部分


 中央に位置する艦長席のような場所、フリートレス陸奥が左腕に装着した特殊フリートライザー、


 その名も、「G-フリートライザー」


 自らの54式フリートライザーを横から装填し、彼女が叫ぶ。





機神艦装ギガンティック・フリートライズッッッ!!!



 ゴー!!ビッグセブンッッッ!!!!」





 突き出したG-フリートライザーが輝き、艦橋内部が輝きを増す。





《GIGANTIC FLEETRIZE.


 MUTSU,CHANGED FOR BIG-7》





 瞬間、巨大な船体が開く。


 真っ二つになった艦底部が伸び、長くしなやかな脚へ。


 どうじに艦橋内部が変形し、椅子や操舵輪などが引っ込んでいく。


 一番端にある連装砲が飛び出し、中央二つの連装砲が内部機構ごと90度回転。


 艦橋内にて背中に巨大なアームが接続され、陸奥が左手を横へ広げる。


 左側の砲塔が左腕に変形。


 陸奥が右手を広げる。


 今度は右側の砲塔が腕へ。


 中央の艦橋が変形し、胴体と顔を見せる。



 陸奥がその目を開いた瞬間、


 忍を思わせるビッグセブン陸奥の額当ての下の目が光る。





《GIGANTIC WEIGH ANCHOR》



          ***



 光



 真上から光の本流が迸る。




『────せぇぇあぁぁぁぁぁッッッ!!!』




 その光の中心に、グングンと大きくなるように、


 ビッグセブン『陸奥』が、左手を手刀のように突き出して、やってくる。



「あれが……!!」


「ビッグセブン……!!」



 ズゥゥゥゥンッッッ!!



 全長200mの『鋼鉄の巨人』。


 その質量にふさわしい土煙と共に、いわゆるスーパーヒーロー着地でこの大地に着地する。






「うわぁ、ビッグセブンだぁ!!!」





 大東亜の旗艦を長らく務め、その巨大さと、何よりカッコ良さで有名なビッグセブン!!


 陸奥さんが……来てくれた!!






『オレの名は陸奥!!潮風の覇者!!

 ビッグセブン、最速の戦艦だ!!!』





 腕を組むニンジャスタイルで立ち上がり、ビュゥと風を纏う速さでファイティングポーズをとる。




 Quaaaaaaaaaaaaa!!!!



 グアパァ、とネフィリムの一匹の口が禍々しく開く。


 一瞬光った……次の瞬間、巨大な光が大地を貫く。


 でもすでに、放ったネフィリムの背後へ跳躍して着地していた陸奥さんが手刀とともにゼロ距離砲撃を放っている。


 Quaaaaaaaaaaaaa!?!?!



『遅いぜ!神様の使い共!!』



 残りの巨大な敵へ、人差し指と親指を立てた……いわゆる指鉄砲を向けるビッグセブン陸奥。




『これは別にお前の事を指している訳じゃ無いぜ?

 ただ、オレ以外に暴れたい奴がいるから合図しただけだ!』





 その時、ボク達の頭上が赤く光る。



 一瞬、火の鳥というか鳳凰が現れたように広がる炎。


 やがて降り注ぐように─────




「ハァ─────ッッッ!!!」




 九六式艦上攻撃機と共に、鳳翔ほうしょうさんがやってくる!



「鳳翔さん!!!」


「セイヤァ─────ッ!!!」


 まさに急降下する鳳凰とでもいうべき爆撃と共に、周りのD.E.E.P.の群れが吹き飛ぶ。



「……っと、熱いしぃ!?!

 また肌焼けちゃう……もー、早く97式とか99式欲しいー!!」


「助かりました!大丈夫ですか!?」


「当然!!イケメン島風くん見たら元気出たし!!」


「言ってる場合か後ろだ鳳翔ぉ!!!」


 タシュケントさんの言う通り、後ろの炎を突き破って敵が……!!





「空母が護衛付けず来る訳ないし!!

 高雄ぉーんッ!!」


「呼ばれて、どっせぇい!!!」


 叩き込まれる拳を包む巨大な20.3センチ連装砲ナックル!!


 高雄さんが地面に押しつぶすよう降りて、ついでに衝撃波で道を作る。


「さすが高雄ちゃん!!」


「私いる限り、誰も死なせる気ありませんしぃ!?

 行こう島風く、」


「ありがとうございます!捕まって!!」


 道が塞がるのが早い!

 タシュケントさんに目配せしたらすぐ鳳翔さんをかけて走ってくれた。

 ボクも遅れずに、高雄さんを抱き抱えて走る!


「………………そーいうとこやぞ」


「なんですか高雄さん!?」


「そーいうとこイケメンなんやぞ島風くんはさぁ!?!」


「ズルい!!汚いぞさすが高雄ちゃん汚い!!」


「やれやれモテモテですねぇ?同性どころか同じ艦に」


「そういうからかいは良くないぞファンタスク!!」


「…………えー、このテンプレートセリフ、お姫様抱っこ中の高雄さんはどう思いますかぁ?」


「いっぱいしゅき……」


 何故か顔を隠して答える高雄さんに、ケッ、とかいう態度で言い放つル・ファンタスク。



 どういうこと……??



「それよか前!!

 いっぱい来た!!」



 目の前……岩石の巨人みたいなカテゴリー4クラスが十体、以下その他たくさん!!



「突破できるか……!?」








「──なるほど、だいたい分かりました」






 そんな声と共に、いつの間にか後ろからやってくる影、


 さらりと流れる金髪とあの凛々しい横顔……!


「キング・ジョージさん!?」


「こういう大雑把なのは、」


 取り出すは、フリートライザーの予備機……あれって!?



《ILLUSTRIOUS》


「彼女だ」


《FLEETRIDE.

 HMS ILLUSTRIOUS!》



 瞬間、剣を取り出すキングジョージさんの横に、メイド姿の空母が現れる。


 構えた剣の動きに合わせてカタパルトブレードと言うべき武器を構えるメイド空母。



《CUT IN》



 直後、発艦した雷撃機ソードフィッシュが頭身を延長するように伸びて、同じく光の刃がキングジョージさんの剣から伸びる。



「フッ!!」



《ILLUSTRIOUS

 S

W

 O

 R

 D

 F I S H E X T R E M E

       S L A S H   》





 一閃、一応戦艦クラスと目される敵達が有象無象の用に一瞬で薙ぎ払われる。




「すご……!?」


「流石にクイーンとはいきませんが、キングと名付けられた以上これぐらいはしませんと。


 さぁお嬢様方、エスコートさせてください」


 優雅に前を行き、振り返りながら微笑みと共にそう言う。


 キングジョージ5世

 かつては戦艦のような物なんて言われたけど……今の世、フリートレスとして蘇った彼女はずっと強い。


「痛っ!」


 ……と思ったら飛んできた破片に当たっていた……


「……締まりませんね、どうにも」


「あの、結構な勢いで血出てますけど大丈夫ですか?」


「戦艦は簡単に沈みません」


 青いのは血の色なのか顔色なのかはっきりして欲しいのになんでそんな得意げなんですか。


「ポンコツクイーンダム戦艦さんにたすけられるひがくるなんて……」


「ル・ファンタスク、遊び心も弱みも無いような性格の者など、つまるところ所詮はそこにあるのがただの虚栄でしか無いのですよ?

 だから私はポンコツでも構いません。やることはやっていますし、何よりそういう真面目なのはデューク・オブ・ヨークの役目です」


 言い切ったァー!?


「てか後ろにカテゴリー5です」


「おっと」



 もう回避不可能位置なのに何を呑気におっとって言ってるのこの人!?


 クソ、こうなったらボクが……



「───あら、珍しく良いことを言うわね?

 たしかに遊び心は大事ですわ」


 瞬間、真横から、



《RICHELIEU

 B

 T

 T

 E

 L

 E

 SHIP R I S I N G

     B L A S T 》





 凄まじい熱量の奔流、例えるなら太陽のような一撃がが巨大な敵を包み、一瞬で炭素の塊のような物へ変える。



「ハァ─────ッ!!!」


 続いてやってくる蹴りが、D.E.E.P.だったものを粉砕した。



「リシュリュー!!」


「これがわたくしの遊び心、でしてよ!」


 青い装甲に45口径38センチ4連装砲を片手に、ニコリと笑って答える姿が頼もしい!



「さて、さっさと逃げますわよ!!

 島風さんと同じチーム及び残りのEU陣営が今、逃げる準備をしておりますの!」


「場所はあっちで合ってますか?」


「聞いて正解ねKGV?

 こっちよ!!」


 リシュリューさんの言う方角へ、ボク達は向かう。



           ***



「ハァーッ!!!」


 装甲甲板盾で攻撃を受け止める大鳳たいほう

 もう片方の手のカタパルトブレードアローが一閃し、カテゴリー4のD.E.E.P.を後退。

 即座に構え、矢を───艦上攻撃機『彗星』を放ち爆撃で消し炭に変える。


「まだだ!!」


 爆炎から飛び出した小型の物へ、九九式艦爆の精密爆撃が刺さり爆発。


「加賀さん!助かりました!!」


「気を抜くな大鳳!!」


 直後、さらに爆煙をかき分けて、渾身の一撃の構えを取る満身創痍のD.E.E.P.が大鳳へ迫る。


(間に合わな────)


《BTTELE SHIP_FORMATION!》



 瞬間、前に出る加賀の艤装が変形。


 空母から戦艦へ。戦艦の重装甲で攻撃を受け止める。


「世話の焼ける後輩だな。

 瑞鶴ならトドメはやっているぞ!!」


 大鳳の呆然とした顔がハッと戻るより先に、加賀の戦艦としての主砲が放たれる。


「すみません、加賀さん!!」


「気を抜くなと言ったはずだ!!

 周囲の警戒は解くな!!」


 再び艤装を空母に戻し、索敵機を飛ばす加賀。


「加賀さん!!

 いくら後輩が可愛いからといつも見たいに鍛え上げようとしないでください!!

 大鳳ちゃんは真面目過ぎるから無茶の加減ができないんですよ!?!」


「お前、その前に刺さってるぞ頭」


 と、青い血を頭から噴水のように出しながら翔鶴が近づく。


「ヴゥン!!

 被害担当艦なお姉ちゃんであるこの私がぁ!!

 この程度じゃあ沈みません!!


 お姉ちゃんですからァ!!!!」



「翔鶴さん!それより止血を!!」


「真面目だな大鳳……よく見ろ」


 と、気がつけば血も止まり、青い傷口がみるみる塞がっていく。


「これは……?」


「聞いたことがないか?

 稀にいるんだ、やたらと傷の治りが速い艦が」


「その通り。この私以外にも、各陣営に数人いるの。

 まぁ、死なない、沈まない訳ではないからお姉ちゃんも場合によっては……

 あ、もちろんお姉ちゃんなのでそんなことなりませんよ!?」


「理屈はともかく……そんな艦が……!?」


「我々フリートレスの体は案外適当という事だ。

 警戒はとくなよ、ここは敵地だからな……


 設置班、どうだ!?」



 と、その会話を区切って加賀は後ろの面々に言う。


「なんとか終わったわい!!

 ったく、こちとらスマホの設定すらまともに出来んのに……」


「だから私が細部はやった。


 ゲート設置完了!!島風達が来ればいつでも帰れる!」


 白雪しらゆき東雲しののめが、次元転移用装置を組み上げてそう言う。




「終わりか。

 ……そういえば、クラスノ陣営とEUGの連中はどこだ?」


「アイツら周辺警戒中じゃろ?

 一緒にいる夕立とかから通信はないのか?」


「ないな。

 他に見たものはいるか!?」


「こっちはない!!」


「同じく!!」


 遠くの、別方向の敵を警戒中のリットリオとヴィットリオ・ヴェネトがそう答える。


「艦載機を飛ばすか?」


「心配ないじゃろ、アイツら出撃前にちゃんとウォッカ呑んどったから素面だろうし」


「日本語がおかしいぞ白雪?」


「加賀、そうは言うが、クラスノ艦はアルコールが入っている方がマトモな思考になってくれるんだ」


「まったく、信じられない奴らだな……ちょっとまて!

 そういえばステイツの奴らもいな────」







「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!??!!


 き、霧島ァ!?!霧島かお前ェ!?!?!」





 サウスダコタの声だった。

 ただ事ではない声に、まず大鳳と白雪達が飛び出す。


「加賀さんはここを!!

 白雪、東雲!!」


「承知!」「行くぞ」




「分かった!

 無理をするなよ!?」


「ここはお姉ちゃん達に任せてぇ!!」




          ***


「嘘だろ……嘘だろォ!?!?!」


 思わず、盛り上げたもの。

 すでに体温はなく、群青色に傷口はくすんでいる、上半身しかない死骸。


 しかし、それは、


 皮肉にもまだ、フリートレスゆえに腐りにくいからこそ……原型を留めていた。



「霧島ぁ……お前、お前、なんて姿に……!!

 うぅ……どう言うことだよ霧島ぁ……!?」



 大東亜戦艦装少女、霧島のものと思われる上半身と背骨の死骸は、当然目もすでに真白に濁って何も答えるはずがない。


「霧島ァ……!!

 あたし、あたしは死に目に会えないどころか……うぉ!?」


 と、思わず後ずさった瞬間、何かに足を取られて転ぶ。


「痛てェ……なんだよ、畜しょ……ゔぇぁあぁぁぁぁ!?!???!??!」


 その足元のモノを見て、再びサウスダコタは悲鳴を上げる。


「あ、あ、あぁ……!?!?!」


 それは、褐色肌なのがわかる、青い傷口の半分消しとんだ死体。




「あたしじゃねぇぇぇかァ─────ッ!?!?!」



 ───サウスダコタの、


 つまり自分の顔の付いた死体だったのだ。





「どうなってんだよここはァァァァァァァァァ!?!?!?!?!?!?」




 周りは、岩にもたれあるいは押し付けられたような跡になる、


 大量の青い血と死骸、フリートレスの骸が積み上げられていた。




「ウッ……!!」


「ヨークタウゥン!?!だ、大丈夫かヨークタウン!?!」


「…………い、妹の……!」


 近くにいたヨークタウンが指差した先に、大東亜のスカート風和装の物の下半身だけの死骸と、転がる頭の───ヨークタウン級2番艦エンタープライズの物があった。


「み、見るなヨークタウン!!

 お前……二度目だろォ!?!?」


「ウッ、ウッ……エンタープライズ……エンタープライズが……!!」


 過去のトラウマに、嗚咽を漏らして泣き始めるヨークタウン。

 正直言って、サウスダコタ自身も気が気でなかった。

 頭がどうにかなりそうだった……





「まるで鉄底海峡アイアンボトムサウンドだなぁ……」


「最低な場所ね」



 その近くで、意外にも平然そうに夕立と時雨は、遺体に手を合わせて拝んでいた。


「お前ら……冷静すぎるぞおいィ……」


「冷静にもなりますよ。

 気がつきません、サウスダコタさん?

 この我々に似た死体…………まるで同士討ちの後だって」


 へ、と言われてようやくステイツ艦二人は、おぞましい死体達を見てハッとなる。


「…………D.E.E.P.に殺された後じゃないぞ夕立ィ……!


 あたしらがやり合った、そんな後だ……!!」



「だから言ったじゃないですか、


 まるで我々の戦いの跡アイアンボトムサウンドだって」



 思わず、サウスダコタはその名前に言葉が詰まる。


 …………やがて、二つの死体……自分と霧島を並べて寝かせて空いたまぶたを閉じさせる。



「……もう充分だろ霧島ァ、あたしィ……あの時によぉ……1942年にもう一生分……充分殺し合ったんだ……もう良いだろ……!!

 来世でも来来世でもまだ殺し合うなんて……苦しいし面倒いし、何より悲しすぎるだろォ、霧島ァ……あたしィ…………」



 手を組み合わせ、祈る。

 あまりに身に染みる言葉を吐く。


「…………にしても、なんでこんな悲しい墓場がここに……」




「あ、4人とも!!

 無事なの!?ちょっといい!?!きゃっ!?」



 と、慌てた様子でアドミラル・ヒッパーが走ってきて、転んでしまう。


「痛たた……」


「ヒッパー!状況は!?」


「シグレ、すごいモノというか……まぁ死体なんだけどすごいものを見つけたの!!

 来て!!」


 そう言われればついていくしかない。







 そんな事で来た場所は…………やはりフリートレスの死体だらけだった。


「オーイ!!こっちだぜ!!」


 ソオブラジーテリヌイの声に導かれ、5隻はクラスノ陣営が固まる場所に来る。


「何があったの!?!」


「シグレ、コイツを見てみろ!!」



 ソオブラジーテリヌイの示すもの、ガングートが手を合わせるある死体。


 それは、クラスノ陣営のフリートレス……なのは分かるが…………



「何これ……見たことない艦ね」


「当たり前よ。

 彼女、作られていないもの」


 そう言って、ガングートの見せる54式フリートライザー。


 艦名が書かれている展開部分には……




「キリル文字読めねぇぞガングートォ!!!」


「おバカさんは静かにしていなさい。

 読める人間は分かるわね?」




Советский Союзソヴィエツキー・ソユーズ……!?!


 ソヴィエト幻の戦艦……!!」


「知っているのか夕立ィ!?!」


「貴方の国に発注をかけられた戦艦じゃないですか。

 結局、ヒゲの大粛清やらヒッパーさん家の陸軍の戦いに鋼材回されたりで完成せず、


 何よりフリートレスにはなってない」


「じゃあなんでここに!?!

 訳が分かんねぇ!!!!」





「知りたいかい?」




 突然の声に全員が振り向く。


 やはりというか、例のあのエル型D.E.E.P.がいた。

 当然全員が砲や魚雷や近接武装を構える。



「ああ、知りてぇな!」


 だがそんな中、


 近くにいた夕張は、武器を構えずそう言葉をかける。


「夕張さん!!

 武装をして!!!」


「いや!!

 オレはあえてまだ武装はしない!!」


「君はおかしな事を言うね。

 私は敵じゃないのか?」


「敵さ。何度だってやり合ってんだ。

 だからこそ、友達ダチになれる可能性を潰したくはねぇ!」


「…………ダチ?」


 大東亜以外の陣営は怪訝な顔をする中、やっぱりと言わんばかりの顔をする夕立と時雨。


「オレは実験巡洋艦夕張!


 全部のフリートレス、ついでに会った人間もそれ以外ともダチになる軽巡だ!!」


「……面白い提案だけど、こっちも君らを殲滅しなきゃいけない事情は話したつもりなんだけどな」


「納得できるか!!

 きっと、ここで死んでいる奴らだって、お前らの母ちゃんの話聞いたって、納得なんてしねぇ!!」


「それは確かに。

 むしろ君たちより頭は固いかもね」



 なにせ、とエル型D.E.E.P.は続ける。



「彼女らは、『自滅』したんだ」


「自滅……!?」


「簡単だよ。

 君らの歴史の再現を、この場でしてしまったのさ」


 驚き、そして全員に落ちた顔になる。

 砲弾の後、明らかに同士討ちしたような戦場の跡に……全て納得がいく。


「並行世界っていう表現をするんだっけ?

 君らがいる世界は割と多い。君らと似た存在がいる世界も……


 そして大抵が、陣営同士で争い合う。

 まるで君らの歴史の再現のようにね」


「…………なるほどな。


 つまり、ここにいる奴ら全員、






 納得するまで喧嘩出来なかったって訳か」





 夕張の言葉に初めて、エル型の顔が怪訝なものになる。


「……納得するまで?

 君らは、争うのが本質だと思っていたけど」


「喧嘩は、言葉の代わりだ!

 語彙力だのなんだの、言語の違いも文字の違いもない、お互いがどういうモンか知るための対話なんだ!!」


「……は?」


「オレの提督やってたじーさんも言ってた!!


 『結局、外交が上手くいかないから争う」ってな!


 要するに、オレ達は納得いかなきゃ拳で語り合うんだ!!

 はたかりゃ見りゃ怖いことしてるだの、バカな事してるだの言われる、けど!!!


 オレ達は言葉だけで語れる事ばかりじゃない!!


 野蛮だからって、これもしねぇで仲良くなれるか!!」


「……?」


「分かんねぇか!そりゃそうだ!!

 だから戦うし……オレは、そんなお前らともダチになりたい!!


 大昔戦っていた、いや別の世界とかでも今でも喧嘩してるオレ達も!!


 本当は……拳を交わした間柄、って奴になりたかったって思うんだ!!!」


 なおも、怪訝な顔のD.E.E.P.だが、夕張は真剣だった。


 その肩にぽん、と置かれる褐色の手が。


「……だよなぁ夕張ィ……!


 あたしは、あたし達は、散々殺し合って散々戦って……


 ひでぇ歴史だけど、そのひでぇ歴史があったからこそ、肩並べてんだよな夕張ィ!!!


 そうだろ……霧島ァ!!」


「サウスダコタ……!!」


「お前らの目的、全く分かんねぇけどなぁ!?!

 とりあえず……喧嘩してから考えようぜェ!!!」


 飛び出し、艤装を戦艦形態へ戻して乗る。


「オラァ!!!行くぞぉぉぉぉ!!!」


 エル型D.E.E.P.に砲撃を浴びせて近づくサウスダコタだが、フッと姿が消える。



「どこだ!?!」


「ここかな?」


 気がつけば背後に、謎のリングが複数重なったものを浮かべて立つD.E.E.P.


 リング達の中心が光りだし、何かが発射される体制となる。




 瞬間、いっせいに飛び出せる艦は飛び出したが……間に合いそうにないと分かってしまった。



 間に合わない。



 まるでスローモーションのような時が流れる中、ついに発射寸前の時が来る。




(───ここまでかァ……霧島ァ……

 なぁ……お前は今、建造されてない時……どこにいるんだ霧島ァ…………


 やっぱり、アイアンボトムサウンドか霧島ァ……?

 そこに眠ってんなら……あたしが行ったらやっぱ煩いか霧島ァ……??


 ……霧島ァ、あたし……ずっと言って無かったけどさぁ霧島ァ……!!

 本当はサウスダコタって名前好きじゃ無かったんだよなぁ…………

 艦隊の疫病神って別名あるからよぉ……あたし、煩いから他の艦をビビらせちまうから余計に……!!

 お前だけだったよなぁ、霧島ァ……サウスダコタがかっこいい名前って言ってくれたの……!!

 嬉しかった……嬉しかったぞ霧島ァ……!!)



 もう、放たれた何かは目の前。


 長くなったな……と思いながらその時を待つ。




 ………………

 …………

 ……









(……いや、長くないか霧島ァ!?!

 そっちに行くぞってぐらいの気持ちだったのにまだ当たってねぇぞ霧島ァ!?!!


 動けない……そして何もかもが遅いぞ、何だこれはァ!?!?)







 ゆっくり、ゆっくり、

 本当に時が、ゆっくり進んでいた。



(あれ、なんでジャンプしたのにまだ着地してないんですかこれぇ!??)


(な、なんだこれ……走馬灯とかじゃなくって、意識以外全部遅くなっている!?!)


(何が……どうなって……!?!)


 その場のフリートレスも、エル型D.E.E.P.も困惑する事態。


 だが、続いて答えが現れた。



「〜♪」


 鼻歌まじりに後ろを向いて、器用にムーンウォークしてサウスダコタの隣に現れる。


(あぁ!?ル・ファンタスクゥ!?!

 何やってんだお前!?!どうなってんだコレぇ!?!)


 そのまま、サウスダコタの襟を掴み、当たる寸前の光線から遠ざけ、足場にしていた機銃弾を降りてそこら辺の岩に向けて投げる。


(おわぁぁぁぁぁぁ……ってアレェ!?

 止まったぞル・ファンタスクゥ!?!目の前岩だぞル・ファンタスクゥ!?!顔面直撃コースなのに動けないぞぉ!?!?)


 意識はあるのに、まるで体は泥の中を泳ぐように思うように進まず動かない。


 ル・ファンタスク以外が、全て時間の流れが違うような状態だ。


「私ってただ速いだけじゃないんですよぉ?

 私の周りの数十メートル以内を、高重力環境にする事で相対的に相手を、



 悪そうな笑みというべき顔で、エル型D.E.E.P.に近づき、主砲とウェポンライザーの砲口を向ける。



「完璧にトドメってタイミングで、手も足も出なくなる。



 いい展開だったでしょ?クスクス♪」




 トリガーを引く。


 同時にル・ファンタスクの時間で砲弾が放たれ、エル型D.E.E.P.に直撃した。





          ***

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