第七話:たどり着来ましたよ!冒険者の街!!








 この世界の大気圏外、

 赤道付近上空35786km───静止軌道


 いまだ近代に入るであろう文明レベルの世界には不釣り合いな、巨大な太陽光パネルを広げる人工衛星がある


 側面には「TICONDEROGA」─────北米大陸、フリートレスで言えばステイツに当たる場所の古戦場の名前が彫られている。


 今、表面の補修をドローンが行っていた衛星の、一部が黄色く光る。








『軍事諜報衛星『タイコンデロガ』AIシステム、活性状態へ移行。

 地上から通信。解析中…………



 不可解。アーレイから?トロイの木馬も無しに、まともなデータ通信のみ?


 解析中…………完了』




 内部AIが受け取った通信を解読し、即座に目標座標の光学解析を開始。

 同時に自身のレーダーから気象情報を解析する。



『状況把握。間一髪という言葉を使う日が来るとは。

 通信回線解析中…………音声にて発信。


 一つ貸しだアーレイ。私を秘匿しなかったのは褒めるべきだが』



 タイコンデロガAIシステムは即座に、目標へと通信を開始する。



          ***


 はーい、こちら冒険者艦隊でーす!




「うわぁ…………」



 今目の前にクソデカ積乱雲がいるの




「やべぇよやべぇよ……」


「うぷ……だれかエチケット袋ありません……?

 吐き気についでに頭痛くなってきた……」


「大丈夫シャルンホルスト?背中摩ってあげようか?」


 低気圧に震える綾波ちゃんに、シャルンさんの背中をさするラフィーリーダー。

 いやいやまさにグレートな低気圧ですよ……こいつは……!


「…………夕立、経験者でしたね」


「経験って何ですかね?

 スコールの中に突っ込んで敵陣のど真ん中に突撃した経験ですかねグレイゴースト氏」


「…………正直言って、どうしようかもうここまできておいて迷ってます」


 まず突っ込むのは無しですよ、見てあの雨、見てあの波、あと雷。特Ⅲ型ではないですよ?



 見て分かるやん。あかんやつやん



 それ以外言えません。言いたくありません。



「天よぉ!!これちょっと運命としたら酷くねぇですかぁ!?!

 もうちょいイージーモードで!!

 転生……いや転移特典的なやつで!!」


「夕立……」


「知ってまーす!!この世界にそんな都合のいい神様いませんもんねー!!!!


 理不尽だから神様ってか、ファッキーン!!


 もう誰でもいいから助けてくださいよぉ!!

 司令かーん!!うわーん!!」



 こんな事態だからもう、強気な癖して優しい所しか見せてない背伸び気味な司令官の姿が恋しいですよもー!!朝の謝っておけばよかった!!




『信号受諾。という訳で私の出番』



 ふぇっ!?!



「今の声は!?!」


「通信!?どこから!?!?!」


『静止軌道より、通信中。


 ハローこんにちは、私はタイコンデロガ。

 アーレイと共に何故かこの惑星の静止軌道に流れ着いた人工衛星とその管制AI』


「アーレイ……??」


 ……………………誰でしたっけ??


「あのAIの!?仲間ということですか?」


 あーなるほど完全に理解しました。朝の……


『難しい質問。敵だったけど、制作者は同じ。


 創造主の意思どおりお互い動いていた』


「つまり姉妹……?」


『兄弟かも。まぁAIに性別は無いけど……女の子の方が可愛いか。

 ただ製造場所も違うから、腹違い?』


「複雑な家系なのは分かりましたが、それでどう我々を助けてくれるので?」


『いい質問。エンタープライズ、私の生まれたアメリカにあった艦と同じ名前の存在。


 単刀直入で言えば、私はGPS機能付き子機衛星もあるから、嵐を避けるコースを指示できる』




 ………………




「「「「「「お願いします」」」」」」



『超速理解、感謝』




 やったぜ、これぞ天の助け!!

 大気圏外から余りにも心強い味方が来たー!!



          ***


 横から見ても大きさの分からない嵐も、上から見ればどんな規模かは丸わかり。


 衛星タイコンデロガの指示どおり、我々は嵐の薄い部分を突っ切り、見事被害はちょっと下着までグショグショになっただけという状態で目的地周辺へ抜けました。


 海から一望する街は、煉瓦造りの建物並ぶ大都市!


 木造、金属、蒸気船から帆船まで、あらゆる船の並ぶ大港!



「着きましたね、ここが!」


「ええ……ここがギルドア……!!」



 大陸の内部へ続く冒険者の街、冒険の入り口、


 都市国家、ギルドアです……!










「この記録によれば、」






「うわぁいつのまに!?!?」


 と、気がつけばいつのまにか我が艦隊左舷に、なんだか司書というか案外この異世界でも違和感ない格好の眼鏡のフリートレスが並走してるぅ!?!


「エンタープライズ率いる混成『冒険者艦隊』。

 驚く大東亜の駆逐艦装少女デストロイフリートレス夕立を筆頭に嵐を抜け、ついにこのギルドアの港へと辿り着いた。


 ふむ…………ついそこの夕立くんを名指しで書いてしまったが、案外文として様になる物だね?」


 いやそれよりどちら様??友軍??


「誰かと思えば、『クイーンダム帝国首都戦争博物館別館』、か」


「素直にベルファストと呼んでくれたまえ、巡戦シャルンホルスト殿?

 おっと……君の国にはそういう艦種はないか、失礼したね?」


 慇懃無礼、という言葉が似合う一礼と共に、恐らく巡洋艦クラスであろうクイーンダム艦さん──ベルファストさんは言います。


「……エンタープライズ、このクソ無礼艦に発砲許可を頂きたいのですが?」


「辞めてください、私は今友軍二隻を沈めないよう攻撃する気力ありませんので。

 そしてそこの英国艦、もう少し態度に気をつけていただきたい」


「いや失礼、エンタープライズくん。

 せっかく他国のフリートレスと会ったものだから、からかいたくなってね?

 ついわざわざ真上……とも言えないかな、とにかく空の向こうの電話交換手くんにも黙っていて貰ったんだ」


「ということは、もうそちらも通信が!?」


「夕立くんの言う通り。

 いや、もっと君たちよりも情報を整理できる余裕もあったからね。

 色々、そう君達の本隊の方からも、今連絡できる他の仲間の情報も全てを知っているよ?」


 なんと……!


 これには、流石のみんなもびっくりで開いた口も塞がりません。


「まぁ、まずはついて来てくれたまえ。

 我が女王クイーンもお待ちだ」


「我が……!?

 まさかクイーン・エリザベスが……!?!」


「それ以外にいた覚えはないな、エンタープライズく、おっと!?」


 と、突然エンタープライズさんが近づいて、ベルファストさんの肩につかみかかります。


「やれやれ、随分乱暴だね?」


「答えなさい!!

 貴女たちはクイーン・エリザベスを『最初の個体』以外は決して『我が女王』とは言わない!!

 言えるはずがない……!なぜなら……!!」


「……!!」


 悲痛な顔でいうエンタープライズさんに対して、


 この時、ベルファストさんは、


 とても、




「分かっているじゃないか……!!」




 とても、不気味なぐらいに嬉しそうな顔だった。


「会ったことがあったのかね?かつてのクイーンに!」


「ええ、残念ながら、に」


「素晴らしい……!!知識だけじゃないとは……!!」


「あのー二人とも?

 後ろの皆さん私も含めてちんぷんかんぷんですよ?」


 不穏な空気はなんか感じていますが、どゆこと?


「ふむ……


 それはあえて……今は言わないでおこう!!」



『えぇ!?!』


 そんな、気になるじゃないですかやだーもー!!



「まぁまぁ、まずは観光でもしながら『冒険者ギルド組合』の中央集会所へ行こうじゃないか。


 ほら、この街を見たまえ!!」


 はぐらかす、という意思ではなくかなり真剣に街へ大仰に手をかざして言い放つベルファストさん。




「この資料によれば、街の歴史は古く1000年も前から水の上に建物を建てて徐々に領土を拡張したとある。


 山脈が隔てる大陸の内陸地への道を、唯一巨大な川である『ナヴェラ川』の影響で平坦な陸路か巨大な水路で向かうことのできる唯一の場所にある都市は、全てがあらゆる国から追い出され新天地を求めた者、王位を剥奪された者、犯罪者、異端の魔女、もろもろの事情を持った人間達が作り出した。


 ああ、勿論もちろん魔族と呼ばれる者たち、亜人と呼ばれる者たちもだ。


 ほら、あちらの我々並みの格好をしている耳の尖った方々……俗にエルフと言われる方々のような存在も普通にいる」


 左手側、いつのまにか市内の水路へ入っていたために、真横にはあきらかに人間じゃないけど人間っぽい痩せこけた体に頭の鼻から上が枯れた木みたいになっている何者かの店で、女のエルフさん二人が真剣にアクセサリーだかなんだかを見ている……


「退いておくれよ!」


「うぉっと!?」


 と見てたら船を引くプレシオサウルスみたいなドラゴンが話しかけてきたぁ!?


 水路も結構混んでますね……渡し舟とか貨物船とかで。


「すごい場所だなぁ……!」


「この活気こそ街が発展している証さ。

 露天商は魔道具という物から武器、食材、薬品様々なものを売っている……

 あと、あそこでなんだか魔王みたいな顔と姿の名物主人が売ってるケバブに似た物もね」



 指差された先では、まぁ本当に赤い肌に角と翼を持った悪魔というか魔王みたいな店の主人が、まるで拷問した人間の皮を剥ぐようにケバブっぽいあの肉の柱を削いでいて…………






 これは詳しい過程を省きますが、


 世界の半分をくれてやるとでも言わんばかりに差し出されたそれの誘惑に負けて、



 ケバブっぽいヤツを我々は購入していました。



 悔しい……でもこれ旨い……





「いやぁ良かった、実はこの世界の路銀持っていなくってね……我が女王クイーンの分まですまないね」


 というかこの人もう3つめぇ!!

 幸せそうにこの、ヨーグルトっぽいソースとチリっぽいソースをうまく混ぜた甘辛いソースに、千切りキャベツとトマトとチーズにたっぷりお肉をパン生地で包んだヤツをベルファストさんは今4つめ食べてますぅ!!


 いや旨いし私も2つ目ですけど!!


 なんなら隣のちょっと「悔しい……」って手籠にされた女騎士みたいな顔のエンプラさんも4つ目ですけどぉ!?


 綾波さんも3つ目いったぁ!!てかラフィーリーダーどっからコーラ出したんですか、私にもください!!

 あ、あ、シャルンさん、隣のポテト揚げてる店に行ってあー!フライドポテト!!フライドポテト購入してる!!芋!お芋も欲しい!!


 私ももう3つ目で旨い!野菜も新鮮!!


 でも食べてる量が量だけに上で見ているエルフさん達がすごい顔している……あ、ラフィーリーダーコーラどもです。



「……くっ!胃袋には逆らえなかった……!」


「お昼時だったから仕方がないさ。

 さぁ、そしてこの水路の先、というより全ての水路が必ずある場所に続いているのが最大の特徴さ!」


 見たまえ、とベルファストさんが指し示す先、



 水路の奥に見える立派な建物。

 人の往来が見てわかるほど多く、皆手に武器や紙、さらには何かの鱗とか宝石……にしては大きなものを持って入り、何かの入った袋と共に出てくる。


「見たまえ、あそこが、


 我々の目的地である、冒険者ギルド。

 その中央施設さ!!」


 おぉ……!!

 とっても……とってもファンタジー世界っぽいー!!


「急ごう。我が女王クイーンを含めて、クイーンダム艦隊が待っている」


 そう言って手招きするベルファストさん。

 まぁ色々はありますが、エンタープライズさんもうなづいて彼女に続きます。


 いよいよですね、我々ファンタジーな世界の職業になっちゃいますよ!



          ***


「ククク……今日は多少売れ行きが悪く、売れ残るやも知れぬと思うたが……喜憂であったか」


「……おい、元魔王」


 ふと、新しい肉を焼く魔王っぽい店主の後ろ、

 先程露店で何か買っていた女エルフが二人、片方は睨むような目つきで立っていた。


「そういう貴様らは300年前の勇者のお供か。

 ゲーリブはもう少しで焼けるぞ、食うが良い」


「貴様が売る肉を食う日が来るとはな……300年が長いのが良くわかる」


「ククク……ここ300年は多いに歴史の針が進んだ。

 毎日退屈がない日々よ」


「だが衰えたな魔王。

 お前、アレらが何か分かっているのか!?!」


 鋭く睨んで言う、戦士然とした方の女エルフ

 店主魔王は、ただちらと一瞥しただけでソースを作る手を止めない。


「まだ悪寒が止まらない……

 あんなもの、森の奥以外で初めて見た……!!

 なんだアレは……!?

 何をどうしたら、あんな風になる……!?」


「まぁ落ち着くのだエルフの女戦士よ。

 ゲーリブを食え……お前たちは少食が過ぎるからすぐ気分を悪くするのだ」


「フン……お前が強靭すぎる」


 エルフの女戦士の視界、


 店主魔王は、エプロンをかけた姿でもなお、エルフ特有の能力でハッキリと強靭な魔力が見えた。

 なぜこんな場所で屋台をやっているのか不思議なほどの。



「だが……衰えたのはうぬの方よ」


「何……?」


「後ろの魔道士は姉妹であったか……

 そっちの方がよぉく理解しておるよ」


 ハッとなり背後へ視線を向ける。


 魔導士らしい身なりのエルフが口を押さえ、杖でようやく体重を支えていると言った姿勢になっている。


「どうした!?何が……!!」


「……違うの……姉さん……!

 この悪寒は……さっきのアレ達じゃない……!!」




 言われたその瞬間、その目に言葉の意味が見えた。




 ────周囲の音が消えるような錯覚がまずきた。


 やがて、海側の水路の入り口から、現れるソレ



 喩えるなら、闇


 蠢き、溢れ出すような、眩いほどの闇


 水の上を進む何かから溢れ出すようなそれは……近づくにつれて何かを語りかけてくる『音』を伴う。


 ダダダダダダダ、ズドォン!ズガァン!!


 妙な訛りの怒号、聞いたことのない武器の音、


 やがてこちらに近づいて、匂いまで感じるようになる。


 海の、火薬のような、嵐の前の空気のような、


 戦場のような、匂いが


 声も呼吸も止めてしまい、やがて隣へやってきた闇から触手が伸びて──────




「貧血」




 ハッと、息を吹き返すように、視界が変わる。



「ちゃんと食べなきゃダメ。貧血、怖い」


 あの闇だったはずの、ダークエルフのものに似た手の主は、意外なほどに優しさの滲む声でそう言う。


「あ…………ああ…………大丈夫だ、すまん」


「冷や汗たくさん。本当に大丈夫?」


「ああ……種族的な、物だ、から……」


 いくら視界が戻っても、纏う空気は変わらない。


 エルフ達は離れたかった。

 その、硝煙と海の香りただよう『何か』から。


「そう…………」


「……失礼する…………」


 顔を押さえ、自分より顔色の悪い妹のエルフ魔道士に連れられ歩き出す。


 速足になってはいけない、ごく自然に。


 つい、そんなことが頭に過ぎっていた…………







 そして、そんな『何か』はくるりと振り向く。


「ここのお店のケバブ……じゃなくってゲーリブ、買いに来た」


「ククク……盛りとソースを選ぶのだ、客よ」


「ええと……メモ見る、待って。

 ふむ…………肉特盛ダブルソースが3つ、並盛りのダブルソースが一つ、同じくヨーグルトソースが一つ……


 あと、この『魔王城盛り』、5個」


「ほう……?

 前半はメルとベレルだな?3つ目のはアンガスか……くく、奴め未だに辛味が苦手と見える」


「ん。久々に食べたくなったって言ってた」


「ところで、最後の物と同じ物を頼んだ者たちと同じ格好であるな?

 あの者たちもアンガスのパーティーの新入りか?」


「!??」


 『彼女』は、長い銀髪の間の褐色美人顔を驚愕に染める。


「今、マサチューと同じ格好って言った!?!」


「エルフのような衣服に、その背負った大砲は間違いなく同じであろう」




 彼女───



 サウスダコタ級戦艦装少女バトルシップフリートレス3番艦、


 マサチューセッツは、店主魔王に詰め寄る。






「どこに行ったか、マサチューに教えて……!!」






          ***

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