第2話
「予想通りだけど、予想通り過ぎてつまんないなぁ」
というのが、まずガレッディ副団長が正式に協力要請を出したいこと、そして協力人員としてフィオラを貸し出してほしいことを伝えたあとのディーダ・ローシェ魔法士長の言葉だった。
ローシェ魔法士長に免疫のないガレッディ副団長は目を白黒させているが、フィオラはあまりにもあまりな、しかしいつもどおりなローシェ魔法士長の様子に溜息をつく。
「つまるつまらんの問題ではないですから、そこは堪えてください、ローシェ魔法士長」
「クローチェも相変わらず真面目に真面目なだけで面白くないし。せっかくだから今子どもの姿にならない? ちょっとは楽しい気分になると思うんだけど」
「あなたの娯楽になるために、子どもの姿になるのを早めるつもりはありません。あの姿はいろいろと不便ですし」
「ちぇー。……で、わざわざ一緒に来たからにはクローチェからも何かあるんでしょ。何?」
益体もないことを言っていたかと思うと、さらりと核心を突いてくる。部下なのでこういう人だと身に染みているフィオラでもちょっと疲れる。
「協力人員に、もう一人魔法使いを出してもらいたいんです。できれば、『世界の魔力を操る性質を持つ魔法使い』を」
この世界の魔法使いは、『善い魔法使い』『悪い魔法使い』とはまた別に、魔法の使い方によって2通りに分けられる。
それが、『自分で魔力を生み出す性質を持つ魔法使い』と『世界の魔力を操る性質を持つ魔法使い』だ。
ちなみにフィオラは『世界の魔力を操る性質を持つ魔法使い』である。
「『子供の姿になる魔法』についてはある程度聞いているから予想はつくけど――どうして『世界の魔力を操る性質を持つ魔法使い』を指名するのかな」
「……予想がついているのなら、説明する必要はないのでは」
「せっかくだからね。そこの副団長くんにもわかるように言ってあげてよ」
ローシェ魔法士長がわかっているのならそれでいいのではないかと思うが、上司命令だ。フィオラは仕方なく詳しい理由を述べることにした。
「あの魔法は、現段階では自身で魔法を解くことができません。なので、他の魔法使いの助力を得る必要があります。他人の魔法を解くのは、代償の面からも、『自分で魔力を生み出す性質を持つ魔法使い』よりも『世界の魔力を操る性質を持つ魔法使い』の方が適しています」
「ついでに子どもの姿になったクローチェは基本魔法が使えないし?」
「……そうです。何かあった時のために、それなりの実力のある魔法使いが望ましいと考えます」
「他国に出るわけだしね。生半な魔法使いを派遣するわけにいかないのは確かだ。いいよ、こっちで見繕って派遣しよう」
「ありがとうございます」
フィオラの説明は及第点をもらえたらしい。了承を得て、ほっと息をつくフィオラ。
ガレッディ副団長はというと、「そうだったのか!」と言わんばかりの表情でフィオラを見ていた。『子どもの姿になる魔法』について仔細を教えていなかったのでそういう反応にもなるだろう。
あとは魔法士長が誰を派遣するかだが、それは考えても仕方ない。空いている人員と条件とで適切な人物が選ばれるだろうことを祈るしかない。魔法士長は性格がアレだが仕事に関しては真摯なので、さすがに条件を無視されることはないはずだ。
用件は済んだので、ガレッディ副団長と共に退室し、そのまま別れて部屋に戻る。
(魔法を使うのはラゼリ連合王国に入ってからにするとして……情報を整理するか)
ラゼリ連合王国で起こっている事件の概要を思い返す。
『魔法使いの子どもが行方不明になり、『悪い魔法使い』になって現れる』というのが主な内容だが、『悪い魔法使い』として何をしたかというと――。
(一件目は……確かその家族が人形になったんだったな。ままごとの途中のような有様になっていた、とか。二件目は、ネズミにされた。三件目はカボチャの置物だったか? 代償はそれぞれ近隣の住民に出ている。死に至るようなものはなかったようだが……)
今のところフィオラが聞いているのは三件目までだ。もしかしたら、行くまでに新たな被害が増えているかもしれないが。
(『家族』をターゲットにしているのは、その地域では『魔法使い』の扱いが悪いというのと関係があるのか……)
詳しい情報が無いので推測でしかないが、無関係ということはないように思えた。
子どもの魔法使いが『悪い魔法使い』になる、というのが連続していることからして、他者の介入があってのことではないかと考えられているらしい。それにはフィオラも同意だ。三件がそれぞれ独立して起こったこととは考えにくい。
(『悪い魔法使い』が仲間を増やしている……のだとして。それなら、やはり……)
一人の『悪い魔法使い』の名が浮かび上がってくる。
ディゼット・ヴァレーリオ――『黒の聖衣の魔法使い』。
その通り名のとおり、常に聖職者の衣服を身にまとった『悪い魔法使い』であり、通り名がつくだけのことをしておきながら、シュターメイア王国は未だその身柄を抑えられたことがない要警戒人物だ。
彼は『悪い魔法使い』を増やすように動いていると推測される。しかし、実際に彼が事件を起こして存在が判明するというよりは、彼に唆され『悪い魔法使い』になった者が悪行を為す、という形で存在をあらわすことが多かった。
だから、今回のことに彼が直接手出しをしているというよりは、彼によって『悪い魔法使い』になった者が仲間を増やしている、という方が可能性が高いのではないかというのがフィオラの考えだった。……実際に彼に会った印象が、その判断に影響しているのかもしれないが。
(まあ、これ以上考えても答えは出ないな。……ラゼリ連合王国はこちらより寒いと聞く。着ていく服でも見繕うか)
上には支給のローブを羽織るが、下に着るものは考えなくてはならないだろう。フィオラは衣装持ちではないが、吟味しなくてはならない程度には服を持っている。
そうしてその日は、ああでもないこうでもないと衣装棚を漁りながら組み合わせを考えることになったのだった。
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