もしシュターメイア王国にバレンタインがあったら



「フィー、フィー。たくさんチョコレートをもらったよ! 一緒に食べよう」


「おまえそれはさすがに刺されるんじゃないか?」



 バレンタイン。日頃の感謝の気持ちとしてチョコレートをやりとりするところから、主に女性が意中の相手にチョコレートを贈るものとして変化し始めている行事である。


 予想通りに両手いっぱいを通り越していくつもの袋いっぱいにチョコレートをもらったらしい『氷の美貌の騎士様』の異名を持つ友人――ルカが、そんなとんちんかんなことを言ったので、フィオラは半眼になった。



「でも、これを俺が一人で食べるのは無理だよ。フィオラは甘いものが好きだろう? 一緒に食べれば何とかなると思うんだ」


「そこで律儀を発揮するなら、一人で食べる方向に努力するべきじゃないか?」


「そう言われても、フィーと食べるつもりでもらったから」


「……おまえ、それを相手に伝えたりしてないだろうな?」


「『クローチェさんと一緒に食べるのでもいいので受け取ってください!』って言ってきた子のを受け取ったんだ。そしたら雪崩れるように同じようなことを言って受け取ってくださいって次々と」


「……もしかして、その前は受け取ってなかったのか」


「俺だって本命だと言われたら受け取れないよ。応えられないのに」



 なんだかもうややこしいことこの上ない感じになっているのを察して、フィオラはちょっと頭が痛くなった。



「……まあ、相手方が了承しているなら、いいか。念のため害がないか確認する魔法はかけるぞ」


「口に入れるものだからね。俺もフィーに何かあったら心配だから、助かるよ。……それと、これ。はい」



 そう言ってルカが差し出してきたのは、有名な菓子店の刻印の入った箱だ。

 フィオラは一度瞬きをして、ため息をついて、自分も同じくとある箱を取り出して差し出した。同じ刻印の入った箱である。サイズも同じだ。つまり中身も一緒だということを、買ってきたフィオラはよく知っている。



「……ただの交換になってしまったな」



 物より気持ちであるとはいえ、まったく同じものを選んでしまったとなると徒労感がある。それを滲ませたフィオラの言に、しかしルカは輝く笑顔で応えた。



「フィーがわざわざ買ってきてくれたんだろう? それは何にも代えられないよ。ありがとう」



 自分が差し出したものと全く同じものを、押し頂くようにして受け取るルカ。

 そうまでされると居心地が悪いが、大切に思ってくれているのはよく伝わる。フィオラはもう一度ため息をついて苦笑した。



「まあ、こういうこともあるか。――ありがとう」



 感謝を告げたフィオラに、ルカもまた改めて礼を伝え――とりあえずルカの大荷物を検品する場所を確保するために、二人は騎士宿舎のルカの部屋へと向かったのだった。



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