アニメオタクで何が悪い‼

玉城裕次郎

第1話 入学式にて、



私立 紅葉高校


桜が舞うこの季節、紅葉高校の入学式が行われていた。

美しく並ぶ桜並木の一本道を、大勢の学生たちが目的の学校へと足を運んでいる。

周りを見渡すとこれからの学校生活を楽しみにしているのであろう、満面の笑みでスキップをしながら校舎を目指す少女。


手鏡を見ながら自分の顔色、髪形をチェックしている美意識が高そうな少年。

手を堂々と繋ぎながら仲良さげに足を運んでいる男女。

さまざまな個性を持っている学生達が同じ目的地に向かっている最中、


俺は立ち止まった。


肩を小刻みに震わせている俺はは深く深呼吸をして頭上を見上げた。

その瞬間、肩の震えは止まりそれと同時に大声で言葉を発した、


「き、き、昨日のアニメが気になるーーーっ!!」


その瞬間、周りをガヤガヤと歩いていた学生たちが一斉に立ち止まり、

俺を凝視している。


あれ?、俺まさか時間停止魔法使っちゃった?

タイムストップ的な魔法発動しちゃった?。


・・・うん・・・そんなわけないですね・・・


どうしようもない孤立感が、俺の心にじわじわと入ってくる。

周りから不思議がられている視線を浴びる中、


「昨日のアニメって、最近話題になっている青春ラブコメアニメのこと?」


声を聞いて、振り返ると一人の女性がそこにいた。


いきなり話かけられて少し戸惑っている俺は、正直驚いた。

本日は入学式、周りの学生達とも初対面。

しかもこんな変な注目されている最中、普通に、あたかも友達のように

話しかけてきたこの女性。


俺だったら、いくら仲のいい知り合いでもこの空気の中声をかけられない。

だって、俺も目立ちそうで怖いし普通に恥ずかしい。


でも、それでも、彼女は声を掛けてくれたのだ。

救いの手?神様?天使?うーん、、空気読めない子?

とりあえず、不思議ちゃんにしよう。不思議ちゃんに決定。


一瞬で頭の中を整理して俺は言葉を返す。


「ああ、あんた女性なのにアニメ詳しいな、アニメ好きなのか?」


「うん!、すっごく好きー!!!」


彼女は満面の笑みで言葉を発した。


お、おー・・・普通に可愛い・・・

顔は少しハーフっぽくて可愛いというより美人系。

身長は平均16歳女性にしては高い方か?俺より小さいけどたぶん163?

ちなみに俺は172.

体型は太ってるでもなく、痩せているのでもなく、いわゆるスレンダーだな。

髪はセミロングで少し赤みがかかっている。中学のころ染めてたの?ヤンキーだったの?


んーー・・。でもなんかアホっぽい。


「お兄さんもアニメ好きなんでしょー?同類、仲間、友達ー!」


「お兄さんって・・・俺も同い年だぞ」


「いやーっ、なんかお兄さん、声は低いし目は細いし、なんか怖いし、

これまでの人生の苦労がにじみ出ているっていうか、、なんというか、、。」


「大変苦労したんだなーっと」


「悪口混じりで俺を偏見の目で見てない?」


この子ボロクソ言いますねー!

初対面でこんな罵倒コンボそうそう出ませんよ?これ素なの?なんなの?

ちょっと泣いちゃうよ?桜と一緒に涙ちらしまくっちゃうよ?


「でも何より落ち着いてる感じがして、大人っぽいから

お兄さんって言っちゃった。あははーっ。」


・・・うん、普通に可愛い。許す。

彼女の笑顔の破壊力に、俺の悲しみは消えていった。


「じゃあ改めて自己紹介をしようーっ!。

私の名前は、富士宮 琴音(ふじのみや ことね)

好きな物はアニメ、ケーキ、アニメの

元気いっぱいの女の子です!!。」


「はいっ、じゃあ次、お兄さん言ってみよーっ!!!」


テンション高!!

確かに元気を強調させただけはある。でもちょっとうるさい。

あと、アニメが2回ありましたよ?。やっぱアホの子?

めんどうだけど、礼儀には礼儀で返さないとセオリーではないか・・・


「俺の名前は、小田原 光太(おだわら こうた)・・・・・・以上!」


「えっ!もうちょっとなんかあるでしょうー?!好きなものとか、特技とか?。

あっ、アニメ好きって事は、分かりきってるからほかの事を教えてね?」


えーーっ、これ以上人に話せるステータス情報なんて無いんだけどなーっ。


「いや、ほんとに、何もないから・・あ、一つあったわ。」


「なになにー?」


「三次元に興味がなく、二次元の女の子と恋愛から結婚まで出来ないかと、夢見る男の子です。」

  

「・・・・・・はい?・・・何言ってんの?」


彼女の飽きれ顔は、想像以上に俺のガラスにダメージを与えた。

こんなに分かりやすい飽きれ顔しなくていいじゃん。

まあ、慣れてるけどさ。


「何か悪いか?俺は嘘は大っ嫌いだ!。相手にも嘘はつかれたくないし、自分にも嘘はつきたくない。」


「いや、正直なのは良いことだけど、さすがに現実逃をはっきり教えられても・・」


「うるせえ。俺は好きなものは好き。嫌いなものは嫌い。興味あるなしと俺はそんなはっきりした人生を送りたい。邪魔するものは許さん。」


俺は、富士宮の顔を真っすぐ見て自信を持って答えた。


幼い頃から、度を超えたアニメ好きのおかげで一人の世界に入ることが多かった。

そのせいで、いじめなどはなかったものの友達と言えるものは一人もいない。

それでも俺は、何一つ困ってなどいない。

他人からバカにされても、これからも一人で生きていく事になっても俺は

アニメさえあれば満足なのだ。ちなみに病気ではない。


富士宮は俺の言葉を聞いた後、飽きれ顔が驚きの顔に変わった。

それから一呼吸おき、少し照れた表情で言葉を発した。


「・・・光太さん・・・私はあなたに興味が湧きました。!!」


「・・・はい?」


富士宮の言葉を聞いた俺は、驚きを隠せなかった。


今までの経験から八割の確率で、キモがられたりバカにされていたはずだ。

ちなみに、残り二割の確率で、変質者と遭遇した時の正しい対処のように

すぐさまダッシュでその場を離れていく。

あれはちょっと悲しい。


「その、・・・まてまて意味が分からない。意図が分からない。何を企んでいる?」


俺は疑いの眼差しを向けて、富士宮に問いかけた。


疑いの気持ちが強いせいか、俺の目は普段より鋭くなっているはずだ。

大抵の人ならこの目を見ると怯えて目を背けられる。


「何も企んでないですよーっ」

しかし、富士宮は違った反応を見せ続ける。


富士宮は、俺の鋭い目を見ても全く怯えなかった。

それどころか、更にキラキラとした眼差しを俺に向けてじりじりと距離を詰めてきた。


近い近い近い!!・・・あと目のキラキラがなんか怖い!


俺は恐怖心から少しずつ後ろへ下がり始めた

しかし富士宮との距離はなぜか、縮まっている。なぜだ?!

縮地でもしているの?もしかして武闘家なの?達人なの?・・・怖い。


「そんな逃げないでよ、光太さん。大丈夫、いくら興味持ったからって

さらっていったりしないから安心してよ。」


富士宮は、少しづつ後退する俺の左腕をがっしり掴んで、言葉を出した。


「あ、ああ。すまん・・別に逃げようとした訳ではないのだが、

恐怖心というか、威圧を感じたというか、生存本能が出てしまったというか・・・」


「めっちゃ逃げようとしてるじゃんっ!さすがにちょっと傷つくよ・・・。」


富士宮はそう言うと、俺を見ながら目をうるうると泣きそうな顔をしだした。


「う、うそうそ!!、富士宮の可愛い顔が接近してくるもんだから、恥ずかしくなって

ちょっと後ずさりしてしまっただけだ。」


俺は富士宮の表情に焦って、言い訳の言葉を急いで並べた。


ちゃんと誤魔化せれたか?失敗したか?

俺は恐る恐る富士宮の表情を窺う。


「・・あ・・ぇ・・可愛いって・・え?」


富士宮は困惑しているようだ。

そして徐々に富士宮の頬は薄紅色へと変化していく。

なんだこの生き物・・・普通に可愛い。


「・・・えっと・・・光太さん!!!」


頬を赤く染めた彼女に見とれていると、

突然大きくはっきりした声で俺の呼んだ。


「うぉ!!・・な、何でございますか?、」


焦った俺が聞き直すと、彼女は大きく深呼吸をして俺の顔を真っすぐ見つめ直す。

どうやら彼女は落ち着きを取り戻したようだ。目を見ればよく分かる。


「その、、さっきは不安がらせてごめんなさい。たぶん高校入学で気分が舞い上がって

変なテンションになってました。」


彼女はペコリっと頭を下げ言葉を続ける。


「改めてこの紅葉高校に入学してよかった。こんな初っ端から興味ある人が

できるなんて、、、これからが楽しみだよ。三年間よろしくお願いします!!。」


彼女は満面の笑みで言葉を発した。

彼女の笑みからは、自信とこれからの期待に膨らませるき気持ちが伝わってくる。

おぉ、、、この笑顔はヤバいな。やっぱり天使かな?・・・違うかな?違うな。


「俺は人から興味を持たれるほど、素敵なステータスを持ち合わせてはいないと思うんだけどな。でも、まぁなんだ・・・これから三年間よろしくな。」


俺たちは、お互い見つめ合い小さくフフっと笑いあった。


彼女は、俺に右手を差し出し握手を求めるポーズをし返しを求める。

俺はそれを確認した後、自分の右手を彼女の差し出す手に合わせ握手をする。


周りは、同じ新入生達が俺たちを避けながら校舎へと向かっている。

少し周りの視線が痛いと感じてしまった俺であったが、彼女の笑顔を見たら不思議と落ち着く俺がいる。


ああ、、、入学式早々何やってんだ俺は・・。でもまぁ、最悪って訳でもないしな。

富士宮も普通に悪い奴ではないようだし、、、。


幸先の良いスタートかもな。今日はアニメを見ることで現実逃避しなくて済みそうだ。


「じゃあ、そろそろ学校行こうか?。入学式始まっちゃうよ。」


「そうだな、さっさと行ってさくっと終わらせよう。」


富士宮の言葉とともに俺も一緒に歩き出した。


「あ、、最後にちょっといいか富士宮?」


「んーっ?、なにーっ?なんでも言ってくれたまえ光太君。」


横に並んで歩く彼女は俺の言葉に返事してくれた。

俺は歩きながら実を言うと、もっとも言いたかった言葉を彼女に掛ける




「お前、スカートの横のファスナーが開いてパンツ結構丸見えだから。」



彼女は俺の言葉を聞くと、ピタっと止まり無言でスカートのファスナーを閉めた。

そして彼女は俺に振り向き、おそらく今日一であろう大声で、


「早く言えよーーっ!!この変態オタクーーーっ!!!」


と、大声で声をあげ、彼女の振り上げた右拳が俺の左頬に衝撃を与えた。


うーん、アニメの女性ならそう簡単に暴力なんて振るわないのになーっ


改めて、私、小田原光太は、この紅葉高校入学式の日に宣言する。

二次元の女性の皆さん、結婚してください。


意識薄れゆく俺は、はっきりと心に決めた。


第一話  完



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