初恋は流れ星と共に [570文字]
初恋は実らない、と。
よく言われるそれは、私にとっては真実だった。
誰に教わるでもなく、いつの間にか私の心に芽生えていた恋心は、間違いなく実らない類のものだったからだ。
父の、弟だった。
父に、そして私にも少し似ていた叔父は背が高く、整った顔立ちで、父より低い声をしていた。
叔父は、宇宙飛行士だった。
何度か宇宙ステーションでの任務をこなす、有名人だった。
全ては、過去形で。
叔父はあの日、帰還する筈だったあの日、宇宙船と共に弾けて、宇宙の藻屑となったのだった。
一瞬にして遠いところに行ってしまった叔父は、間違いなく私の初恋の相手だった。
一大ニュースとして飛び込んできた叔父の死に、日本中が悲しんだ。
けれど、誰よりも悲しかった筈だ、私が。
大勢の弔問客が訪れた葬式の後、魂が抜けたように自室のベッドに横たわった。
叔父は今どこに居るのかと、天体望遠鏡で覗き見た空は今は暗い。
もう、覗くこともなくなるだろうか。
叔父は、哀しむだろうか。
泣き疲れ、腫れぼったい目で空を見る。
まるでその瞬間を見計らっていたかのように、雲と雲との隙間から一筋の流れ星が、見えた。
ああ、叔父は。
叔父は、星に。
流れ星に、なったのだ。
もう、泣かないよ。
貴方がそこに居るのなら、私は貴方の視界の中で、貴方に恥じないように生きよう。
空を見る度、思い出す。
叔父の顔を。
初めて恋した貴方の、顔を。
お題:遠いところ・初恋・泣かない
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