雨も血も涙も [480文字]

 曇天。

 生憎の、空模様だった。

 まるで俺の心を表しているかのような。

 ゴロゴロと遠くから雷の予感がする。

 俺はジャケットの胸元に手を伸ばす。

 硬い、感触。

 これから俺は、人を、殺すのだ。



「ど、どうして」


「悪いな、仕事なんだ」


「だ、だって昨日、ご飯食べて、笑って美味しいねって、また明日ねって」


「悪い」


「騙してたの?」


「違う」


「じゃあなに、どうしてこんな、悲しい明日が来なくちゃならないの……」


「悪い……俺が、全部悪いんだ……」



 それ以上言葉を続けることを拒み、俺は引き金を引いた。


 パァァン……


 いつの間にか降り出していた大粒の雨に、銃声は掻き消された。

 畳に血が滲んでいく。

 俺が、悪いんだ。

 俺が、弱みを、握られたから。

 一人で生きてきたのに、二人で生きていけると思ってしまったから。



「すぐに、追い掛ける」



 俺は、まだ体温の残る死体に口付けをした。

 ぽたりと、俺の目から涙が零れる。

 その涙は、彼女の目元に、まるで彼女が流した物であったように、落ちた。


 銃を持つ手に力を込める。


 すぐに、追い掛ける。

 最後にひと暴れだけ、させてくれ。


 どしゃ降りの中に走り出す。


 雷の音は、すぐ近くまで迫っていた。





 お題:曇天・引き金・零れる

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