すきすきだいすき、ファミコンの箱! [460字]

「私、絶対に前世はファミコンだったの。だってそうじゃなかったらおかしいもん」


 そう言う史子ふみこはいつもの通り、箱を抱えて恍惚の表情。

 部屋中に置かれたファミコンの箱たちが、史子を優しく見つめている。


 今日の史子のお相手は、蓋の四隅がグズグズになっているファミコンの箱だった。

 何でも蓋を開けた後は史子の手を借りないと自立出来ないところに母性本能をくすぐられるんだとか。


 確かに、うやうやしく箱の蓋を支える史子はその表情を慈愛に満ちたものへと変化させている。


 右手でを支えながら、左手はスマホを操作していた史子が、歓喜の声をあげた。


「あ! またオークションに箱付きファミコン出た!」


「良かったな」


「うん!」


 その箱とスマホに向ける笑顔の半分でも、俺に向けてくれと思いつつ、結局のところ、俺も史子の為に箱を探している。


 史子は箱さえあればいいというのに、俺は史子がいないと寂しくてならない。


 惚れた方が、負け。


 ファミコンの箱がライバルの男なんて、世界に俺一人じゃないか?

 もし似たような境遇の奴が居たら友達になってほしい。


 支え合おうぜ、お互いの不遇をさ。




お題:ファミコン・箱・前世・偏愛

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