稲次と永井が、どのように恋に落ち何を犯したか

稲次哲也

第1話 福田

 昼休み、ちょうど僕がお弁当を食べ終わったころ、C組の福田が自信満々に、三、四人の金魚の糞を連れて教室に入ってきた。

「哲っちゃん、このクラスで一番腕相撲強いんだって?勝負しようよ」

福田は僕にそう言った。

 おそらく2時間目の体育の授業で、僕がクラスの腕相撲大会で一番になったことを聞いてきたんだろう。そしてアイツもクラスで一番になったのだろう。クラスで一番といっても、体育は男女にわかれるから、だいたい十六人ぐらいの男子の中で一番になっただけなんだけど。

 だんだんとギャラリーが集まってきた。うちのクラスの男子は

「哲っちゃん、負けるな」

なんてことを言う。普段は話しかけないくせに。

 色々、考える。ここで勝てばクラスのヒーローになれる、だけど勝てば他のクラスで一番だったやつもその後にやってくる。面倒くさいことが起こる。負ければクラスの皆は幻滅する。福田はもうニヤニヤ,僕の顔を見ながら「いつでもいけるぜ!」って感じで腕相撲の体勢をとってる。もはや、この対決を断れる状況じゃない。どっちにするか?もちろん勝負はする。問題はどういう勝負をするかだ。当然後者だ。あえて、負ける。前者を選んで良いことなんてない。

 目立てば目立つほど損をする。

 そんなことはわかっていたのに、なんでこんなことしてしまったのだろう。この学校が悪いんだ。この中学校は、小学生からそのまま上がってくる生徒が半分、受験をして入ってくるのが半分、半々にわかれてる。小学校からはボンボンが多く、中学から入った奴は勉強一筋ってかんじ。もちろん僕は中学から。

 しょうがなく、福田と手を組みあわせる。福田の目を見るとやる気満々だ。70パーセントぐらいの力でいってみよう。福田も勝って満足するだろう。明らかに手抜きをしたと思われないように負けないと。

 福田の金魚の糞が

「レディー、ゴー」

と、言った。僕は70パーセントの力で本気でやっているように顔までつくった。お互いの腕がどちらにも傾かない。福田はあざけったように

「それで本気?」

と言って、腕を倒した。僕の負け。これで良いんだ。いつの間にか女子も集まっていたが、僕が負けたとわかると、ため息をつきながら皆去っていった。

 一段落つき、これで良い、と自分に言い聞かせながらトイレにむかった。

 その時,後ろから女子の声が聞こえた。

「だっさ、わざと負けてんじゃねぇよ」

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