冷たくされたら

みなづきあまね

冷たくされたら

世の中、「ツンデレ」好きが多い。でも、ぶっちゃけ好きな人に、冷たく返答されたり、あてにされなかったら、傷つかない?少なくとも私は、ダメージがでかすぎて、病む。


年末が近づく季節にしては急に暖かくなった日、午後の時間が進むにつれて、外気は冷たくなり、木枯らしで銀杏の葉が舞っている。


珍しく差し迫った仕事はなく、来週やるべき仕事を音楽を聴きながら、片付けていた。超単純事務作業だけど、訂正とか気を使う作業もあり、結構疲れ始めていた。


90年代に大ヒットした女性ボーカルグループの歌を聴き、残りわずかへまっしぐらしていると、左隣の同僚が私の肩を叩き、後ろを指差した。


イヤホンを外して振り返ると・・・ああ、1番会いたかった人!1日一回話せないと鬱鬱としちゃう人がいた。マスクで顔が半分隠れているのが少し残念だけど、それでも嬉しい!


「そろそろ向こうにいる人もひと段落するみたいだし、システムチェックしましょう?」


彼はそう言って、いつも一緒に仕事をしている後輩を指差し、私に問いかけた。彼が丹精込めて構築したシステムが、正常に作動するか、試運転するらしい。


彼がパソコンやデジタル機器を駆使してやる仕事は、こんなところにいないで、もっと高給取りな会社で、SEでもすればいいのに!というレベル。私は全く分からない領域なので、元あるデータの紙を読み上げる手伝い位しかしないけど。


しばらく待っても後輩はトラブル発生から抜け出せず、私達2人で進めることにした。彼が私の席の隣にパソコンを持ってきて、座った。あー、腕が触れる距離で、今から少なくとも1時間は一緒に作業するんだ。・・・控えめに言って、幸せ!


彼が文字や数式を打ち込む横で、私は齟齬がないかデータを読みあげ、エラーが出たら、彼がそれを直す、という作業をひたすらした。


クリックしたり、色々な参照先に動くのがあまりに素早く、最早目が点。しばらくすると、作業が出来ないことへの謝罪に後輩がやってきた。


「うっわ、やっぱり作業早いっすね。」


「だよねえ。もう理解不能だけど、凄いのは分かる。なんだかんだめんどくさいとか言ってるけど、絶対やりがい感じてるよ、今。」


「本当はゲームが生きがいだけどねー」


「それはそうかも。」


「全部聞こえてますけど。」


私と後輩が彼の背中越しにしている会話に、彼は表情を変えずにつっこんだ。


後輩がまた居なくなってから、私は画面を見たり、ここぞとばかりに彼の横顔を眺めたりした。真剣な顔してる。彼はひたすらぶつぶつ言いながら、課題を片付けていた。ふと私は疑問をぶつけた。


「もしかして、兄弟いない?」


「いや、いますよ。」


「え、独り言が多いから仲間かと。」


「違います。声に出してないと、今何をしてて、次何するか忘れちゃうだけです。」


「あ、はい。」


冷たい!そうなのだ。基本対応は塩、冷たい。悪気はないはずだけど、事実と異なることはキッパリ否定し、別に話を面白くしようとかのユーモアはゼロ。


しばらくすると、彼はデータを印刷しに席を立った。出てきた紙を見た瞬間、聞いたこともない笑い声を立てた。あまりに大きかったので、私はびっくりして、立ち上がってしまった。


「どうしたんですか?」


「いや、自分で作っておいてなんだけど、見たくないなーって。」


そう言って笑いを噛み殺した彼は、私に紙を渡した。情報量が多すぎたため、文字があまりに細かく、A3の紙の端から端までにびっしり並んでいた。


私たちはまるで悪巧みをするように、それを後ろ手に隠し持ち、後輩に渡しに行った。チェック、頑張れ!


こうやってたまに笑うけど、特に女子ときゃっきゃする感じでないし、ツンツンしてるのは変わりないし、全然ツンデレとかを味わえはしないのだ。


翌日、あまり期待しないで出勤した。あまりにも昨日冷たい対応が多くて、話しかけるのも億劫になったし、もう望みもないだろうから、彼をあまり視界に入れないように努力した。


が、そういう日に限って、目があったりするんだよなあ。カッコいい。


しかし、特に接点があるでもなく、仕事が早く終わった私は、定時過ぎに退勤することにした。しばらく前から彼はオフィス内には見られず、もう今日は見納めと諦めた。


出口に向かう廊下を歩いていると、途中別部署の先輩に会い、1階まで一緒に向かった。先輩は事務所に用事があるといい、途中で別れた。


いざ外に出ようと、先輩に手を振ってその流れで振り返ると、階段の下にビニール袋を持った彼がいた。嘘!ラッキー!そうか、コンビニね。


「お疲れ様です。残業地獄ですか?」


「うん、昨日放置した仕事があるからね。」


「私は明日から忙しくなるから、今日は帰ります。」


「あとはデータを年末までにまとめることもあるか。」


「聞いて!もう家にデータ送ったんです。だから、ゴロゴロしながらやろうかなって。出来るかは謎だけど。」


「たしかに。」


「家に最新式のデスクトップあるんですよね?」


「はい。でもオフィスのサブスク切れたから、エクセルとかは使えないんだよな。あー、会社に居なきゃだ。」


そういうと、彼は少し空を仰いだ。


「仕方ないですね。でも、昨日も話してたけど、そんなに電子機器あって、一体おうちはどうなってるんですか?」


私の何気ない問いに、彼は一瞬思案顔をし、見せた方が早いと思ったのか、スマホを取り出し、私に写真を見せた。


「え!副業できるレベル!まあ、ゲーム機あるから、仕事に集中はできなさそうだけど。」


私は彼の右手にあるスマホの画面を覗いた。彼の腕に私の髪がかかり、近さに気づいたが、あえて引かなかった。


そこに上から上司がやってきた。上司も帰宅らしい。私達は3人でちょっと立話をして、私は上司とドアを出た。彼はまたオフィスに戻っていった。


話は最初に戻るが、ツンデレは私も嫌いではないが、彼にはあまり期待できないし、常にツンだからダメージが。


でも、たまにああやって昨日とは違って、自分から楽しそうに話してくれる。顔も緩んで、口調も柔らかい。だから私は彼を好きでいることをやめられないのだ。


冷たくされ、あとで優しくされると、病み付きになっちゃう私はダメですか?



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