第4話 魔王 ミネルバ

ーー魔王の城へ乗り込み、大勇者渾身の土下座謝罪から1時間後。


「わかるーーー!あの喫茶店の店員さんイケメンだよね!」


「私の好みではないんだが、なんか守ってあげたくなるような可愛げがあってな。子犬系って言うのかな?」


「魔王さまも喫茶店とか行くんですね!」


「最近は魔界も退屈だから、よく人間に変装して下界に遊びに行くよ」


キャッキャ キャッキャ キャッキャ


「俺もあの喫茶店にはよく行くよー。可愛い女の子の店員がいるだろ、透視でよく下着の色を確認し」


「女子の会話に変態野郎が入ってくんじゃねえ!」


アイリーンの鉄拳は炸裂し、レオナルドは宙に舞う。


「そのギャグ漫画みたいな強烈なツッコミやめない?」


レオナルドはそう言い残すと床に倒れたきり動かなくなった。


「あ、いけない。魔王さまとついついガールズトークが盛り上がっちゃいました。私たちはそろそろ帰ります」


アイリーンはそう言うと、床で伸びてるレオナルドの髪を鷲掴みにして部屋を立ち去ろうとした。


「なんだよもっとゆっくりしていけばいいじゃないか。人間とこんなに話すのも久々で楽しかったのに」


「いえ、私たちにはやらなきゃいけない事があるので」


アイリーンが申し訳なさそうに言う。


「やらなきゃいけないこと?」


「はい。最近私たちの国の隣国が、急に領土拡大を計って周りの国々を攻め始めたんです。このまま放っておいては私たちの国も滅びてしまうので、これの力を使ってあの国を止めないと」


アイリーンは伸びてるレオナルドを掴んだ腕を腰の位置まで上げた。


「なんだろう、前回の目覚めの時には得られなかった新たな性癖が目覚めそう」


レオナルドはこの状況に及んでもなお新たな快楽の開拓に勤しんでいる。


「こんな奴ですけど、強さは本物のようなので...」


「それなら私も一緒に行こう!」


え?


「ちょうど退屈をしていたんだ。人間界のいざこざは見物の価値もありそうだし、私だってなかなか戦力になると思うぞ」


「仲間になってくださるんですか?」


「期限付きだけどな。そういやまだ名前を言ってなかった。私は27代目魔王のミネルバだ」


やった!

私一人でこいつの暴走を止めるにもうんざりしてたし、魔王の力が加わればこの戦いもあっという間に決着がつくわ!


「俺たちの仲間になるには、いや、俺のパーティに入るには条件がある。まずはアイリーンと同じく、一度ここで服を脱いでもら」


「よろしくお願いします!ミネルバ!」


アイリーンは流れるような動作でレオナルドを再び地面に叩きつけると、魔王の手を取り笑顔で仲間に向かい入れた。


♢♢♢♢♢


その頃ーー。


「皇帝陛下、現在の戦いの状況ですが...」


ここはウルカ帝国。

アイリーンたちの住むイカーナ王国の東に位置し、圧倒的な国力で他の国を滅亡へ追い込み、領地拡大を企てていた。


「報告は手短に頼むぞ。大臣」


男は玉座にもたれ掛かると天井を見上げた。


皇帝の座る玉座は金の装飾ではなく、禍々しい漆黒で塗り固められ、それに座る皇帝もまた華美な服装ではなく黒いローブに身を包んでいた。


さながらそのいでたちは、魔王を彷彿とさせた。


「東の国、ハイランドは降伏を宣言しました。ナバドゥール国王は民の安全を保証するよう要求しています」


大臣と呼ばれた男は額に汗を流しながら恐る恐る報告を続けた。目は真下の床だけをじっと見つめ、身体は小刻みに震えていた。


「ナバドゥールが要求だと。降伏の意味を分かっていないようだな。ハイランドの民を一人残らず捉え捕虜とし、奴隷の身とし労働させるのだ」


「御意、至急ナバドゥール国王との交渉に兵を」


「...ルテイリア」


黒いローブから赤く光る不気味な眼光が覗く。部屋を立ち去ろうとした皇帝の側近、ルテイリア卿は慌てて振り返る。表情は恐怖で歪み、今にも泣き出しそうだ。


「余の言葉が聞こえなかったのか。ハイランド国民を捕まえて捕虜にしろと命じたのだ。この決定に交渉など必要ない。もし抵抗するなら余の深い慈悲を無下にしたとみなし、ハイランドの血を根絶やしにする。すぐに取りかかれ」


「お、仰せのままに陛下」


ルテイリアは跪き深く一礼すると足早に部屋を立ち去った。


皇帝の低い笑い声が暗い室内にこだました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る