第3話 大勇者、謝罪。

「魔王さま、大変です!またあの変質者が魔界に現れました!」


魔王は傷だらけの身体でベッドから飛び起きた。


「なんだって!?う、いつつつつ...」


「魔王さま、まだ安静にしてください。お身体の傷はまだ癒えていません」


「あいつは一体なんなんだ!突然この平和な魔界に押し掛けて急に私をボコボコにして...。私が一体何をしたと言うんだ!」


「奴の目的は分かりませんが、こちらに向かって急接近しています!どうしま...」


側近の報告が終える前に、魔王の部屋に繋がる扉が勢いよく開いた。


そこに立っていたのは紛れもなくあの変質者と、一人の見慣れない町娘だった。


「おい、魔王!」


「ひいいいいい!何なんだよお前は!」


すると突然変質者は地面に突っ伏し土下座した。


「ほんっっっっとうに、申し訳ありませんでした!」


「誠意が足りない誠意が!!」


土下座をする変質者にその身体を蹴りつけながら謝罪を強要する町娘、魔王はその光景を呆然と見つめていた。


「ちゃんと謝ってるじゃないか!」


「あんたの軽率な行動ひとつで国が滅ぶかどうかの大問題に発展するのよ!勇者を自称するならもっとしっかりしなさいよ!」


「なんども言わせるな!大・勇・者!」


目の前で繰り広げられる痴話喧嘩についていけず、魔王は困惑していた。


(この変質者が大勇者...?大勇者って言えば私の祖先をしばき倒したヤベー奴って婆ちゃんが言ってたような...)


「あのー...」


アイリーンは恐る恐る魔王に問いかける。


「魔王ですか?」


アイリーンは部屋に勢いで突撃して謝罪をしたものの、目の前の人物が魔王だという確信がなかった。


「そうだが?」


アイリーンは驚いた。魔王といえばもっと禍々しい人物だと思っていた。格好こそ魔界のイメージの衣装ではあるが、少し年上くらいの綺麗なお姉さんにしか見えなかった。


「あ、すいません!私の想像と違って、とてもお綺麗だったもので...」


「私がか?」


魔王の声のトーンが少し高くなる。


(はじまったよ)


側近たちは呆れた表情を隠すように俯いた。


「はい!魔王さまがこんなに綺麗な女性だったなんて思ってなくって。この度はこのバカがご迷惑をおかけして本当に申し訳ありません」


「ふむ、どうやらお前は話のわかる奴のようだな。町娘、名前は何という」


「アイリーンと申します。今回魔王様にご迷惑をお掛けしてしまった経緯は...」


アイリーンは事の経緯を魔王に話した。


「なるほど。私は本当にただのとばっちりを受けただけではないか」


「何も言い返せません...」


「俺は良かれと思ってね、良かれと思って」


「あんたは黙ってなさい。藁にもすがる思いであんな目にまであって呼び出したのに、こんな奴が伝説になってるなんて何かの間違いだわ」


「いや、私もダテに魔王をしているわけではない。そんじょそこらの奴にあんな一方的に負けないし、こいつの強さは伝説の大勇者で間違いないだろう」


「見る目あんじゃんおばさん!大勇者レオナルドとは俺のことよ!」


「あんたの名前、今初めて知った...」


「だっていつまでも聞いてくれないし、そもそもなんで名前が伝説として残ってないのか不思議なんだが」


魔王とアイリーンは口を揃えて答えた。


「あんたの名前を後世に伝えたくなかったのよ」

「お前の名前を後世に伝えたくなかったんだろう」

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