児童失踪事件

猫田

相互に秋

(…真樹、遅いわ…)

 相原早也香アイハラサヤカは昼食の片付けの途中でふと思った。息子の真樹が帰ってこないのだ。今日は4年3組で特別授業があるそうで、他の学級の児童は全員11時40分下校となっているのだ。もう2時前なのにまだ帰ってこない息子が早也香は心配だったのだ。

 寄り道でもしているのではと一瞬思ったが、やんちゃでも下手な真似はしない真樹がするはずが無いのだ。真樹の行方が気になった早也香は、真樹といつも一緒に帰っている秋岡啓祐アキオカケイスケの家と清原健一キヨハラケンイチの家に電話を掛けてみる事にした。

「もしもし、秋岡さん?」

《相原さん…どうしました?》

「息子が帰ってこないんです…」

《実は…私のところも啓祐が帰っていなくて…》

「…秋岡さんのところも…」

 もしかしたら誘拐事件かもしれないと冷や汗をかきながら電話を切った。そして震える声で清原家にも電話を掛けてみたのだ。

「も、もしもし?清原さん?」

《おお、真樹の母さん?こんちゃ!》

「あ、あれ?健一くんじゃない、帰ってたの?」

《ん?俺はもう帰ってるよ。真樹のことでなんかあった?》

「実は…真樹が帰ってこなくて…何か知らない?」

《えっ》

 健一は驚いている様子だった。

《俺ら、一緒に帰って真樹の家の目の前で別れたよ…?》

「そ、それならなんで…」

《真樹だってそのまま家に入っていったはず…》

 誘拐事件ではないことに安堵した早也香だったが、それより謎が更に深まってしまった。もしかしたら既にもう家に居る?そう思い、名前を呼んでみたがやはり返事は無い。

「ごめんね健一くん、また見つかったら電話させてもらうね…」

《うん》

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