【魔法使いの気まぐれ】

奈都

【魔法使いの気まぐれ】


あの時、魔法使いってやつが突然やってきてさ。

「お前の望みをかなえてやるよ」って投げやりに言われたんだ。

この寒空の下で投げやりに言われて

「こいつ、本当に魔法使いかよ」と思うわけ。

大体今どきアニメでもあるまいし自称・魔法使いなんて

頭がおかしいヤツかと思うだろ?

どう考えたってまともじゃない。

俺も最初はそう思ったわけだ。


でもなんだろうな、ちょっと信じてみたくなって

ついつい会話を続けちまった。


あいつは言ったんだよ。


「お前、何か望みがあるんだろう?

 俺も魔法使いの最後の仕事にお前の望みをかなえてやるよ」


とね。

だったらやってもらおうじゃねぇか、と。


魔法使いの最後がどういう事態なのか俺には分からないし

この爺さんが死のうが生きようがどうでもいいくらいには

冷たい人間なんだけれども。


だけどなんとなくその言葉に惹かれてしまったことも事実なんだ。



俺の望みはたった一つだ。


このたまらない孤独をどうにかしてくれよ、と。


もうそれしかない。



身の上話も今更だからする気もないけれど

まぁ自慢じゃないがニュースになりそうな話題だらけの俺の人生、

一つや二つ人に話せば大抵は同情で女も寄ってくるよ。

金も女もそれなりに手に入れる生き方をしてきたから、

俺もそこそこ立派なクズ人間だったかもな。

でも本当に必要なのはそういうことじゃないんだってことにも気づいていた。


根本的な枯渇っていうのはどうやっても埋まらない。

永遠に喉が渇いているようなこの飢えた感覚に

もはや諦めすら感じ始めてやっと自覚したんだが。


何を求めているのかももう分からないくらいには

イカレていたわけだよ。


そんな話をしたら


「お前の人生などとうに見えている。

 孤独を埋めてくれというならたった一人の女を

 あてがってやろう。」


と言いやがった。

だから女じゃねぇって言ってるじゃねぇかよ。人の話を聞けよ!


しかしその老いぼれた自称・魔法使いは

ニヤリと笑って消えちまった。


はぁ?ドロンってなんだよ、本物かよ!!


いきなり現れた時も驚いたが、まぁ気付かないうちにそばにいたんだろう

くらいにしか思ってなかった。

まさか本当に消えるとはな。

瞬きをした一瞬に姿がない、というのは本物と信じるしかない気にさせるもんだ。


なんなんだよ!一体なんなんだよ!!

そう思ったが後の祭り。

まさか本気で信じるのも癪に障る俺がイライラしたまま次の日に出会ったのがお前だ。


人間としては最低の部類に入るクズな俺だが

これでも仕事は人並み以上に出来ると評価されている。

生い立ちはともかく、仕事は結果が全てだ。

この若さでこれだけの役職につく人間もそうそういないだろう。


取引先として対応することになったときに

何かが違う、とは感じていたけれど

でも正直「まさか?」と思ったよ。

この曖昧な感覚だけで自称・魔法使いを信じるほど呑気な男じゃない。


しかし、初めて会った時からお前は正直で恐ろしいほどまっすぐで

俺のクズさ加減も一刀両断で、気持ちいいほど潔い女だった。

こんなに(仕事を含めて人間性についても)ボロクソに言われたのも初めてだったし

豪快な言葉を俺に投げかけながらもそのピタリと照準を合わせて離さない目の力に

吸い寄せられたのは確かだ。

「目が奇麗だ」なんて安っぽいセリフをまさか女に言う日が来るとはね(笑)

お前が初めてだったよ。


そう。俺の何もかもを見透かすような目をして

クルクルと表情を変えて真正面から挑んでくる、そういう女だった。

最初から俺はお前に本気になった。

簡単には靡かないお前に必死になった。


当然お互いに仕事は丁々発止となったけれど

結果としては大成功を収めることが出来たのはお前と俺だったからだ。

今までどうして出会ってこなかったのか

不思議に感じるほど、仮に相反する意見であっても

しっくりくるほど何かを感じていたのは俺だけじゃなかったはずだ。



なんなんだろうな。

あの自称・魔法使いがお前を出会わせたのか?と不思議で仕方がない。

ただの偶然だろうと何度も否定した。

そんなおとぎ話みたいな話があってたまるか!とも思ったね。


でも俺は今とても満ち足りている。

お前は俺の渇望し続けた何かを、欠けた何かを埋めるパズルピースなんだ。

そんな人間に出会えたことの喜びが分かるか?

飢えた旅人の一滴の水がどれほど美味いか、

ましてやその水が欲しくて欲しくてたまらない一滴だったら・・・


お前は俺にとってそういう人間だったんだ。

そして俺もお前のそういう存在でありたい。

真面目にそう思えたんだ。


お前に出会って分かったことがある。


孤独は誰かによって操作されるわけではなく、

最終的に自分で孤独を作り出していくんだということ。


俺は不幸に酔っていた阿呆だっただけなんだよ。


今、寝顔を見ながらそんなことを考えている。

心を満たされた俺が柔らかい体を抱きしめて体温を分け合うことに

どれほど雄たけびを上げたいほどに歓喜しているか。


分かるか?


お前に出会えてよかった。

本当に良かった。


そうだな。

俺は二人の時間が続いていくことをあの自称・魔法使いに感謝するべきなんだ。

偶然ではなかったと信じてみるのも



案外悪くないよな?





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