2枚目

 大学は、国内で1番のところに入れました。無意識のまま進学し、無意識のまま卒業していました。


 結局理系学部へと進んだらしく、それでも院へと進まなかったのは知るところではありません。


 ただ言えるのは、この選択が再び心を再発させてしまうこととなった、ということだけなのです。


 それを考慮すれば、もしかしたら心というモノは、あれだけ刺されたのにもかかわらず機を伺い続け、病魔のように浸潤していたということなのでしょう。


 何という会社だったか、それすら覚えていないのですが、ともかく珍しく夜遅くに帰った記憶があります。


 その帰り道で、とても美しい女を見たのです。


 それは服をいたる所々切られ、髪を濫させ、目からは生気が一切感じられませんでした。そして地面にばたりと、座り込んでいたのです。少しギョッとしましたが、その程度で、ああレイプされたのだろうか、などと考えていました。


 そのまま通り過ぎようとしたのを覚えています。ただ不幸にして、それが自分の家の前だと気づいた時、激しい苛立ちを覚えました。


 アァ、邪魔をするな、せっかく何も思わないで過ごしていたのにと、乱暴に退けようとした時でした。


 掴んだ私を、それは覗いてきました。それはここ13年ほど姿見に映っていた、己自身の眼でした。


 ゆっくりとそれは口を開き、人外、と呟いたのです。


 その一言で、私の身体に眠る何かが弾けました。


 人間になろうとしていた、ナリキッていた私にとって、それはそれまでの人生を否定する言葉でした。


 激情が激情と打ち消し合い、突如として冷静になった感覚を、困惑を以って受け入れました。


 消さなければ。消す?何のために?

 何で焦っている?何を困惑している?

 何を憤っていた?何を感じていた?

 何を、何を、何ヲ、ナニヲ。


 嗚呼、そうだ、そうだったのだ。俺は、こうだった。


 突如として激しい劣情を、彼女に抱きました。


 下らない言い訳や、建前で彼女をそのまま連れ込みました。


 彼女は抵抗することもなく、私にされるがままでした。


 彼女は、ただひたすらに私を見つめていました。


 何か既視感を覚えていましたが、その時はただ、劣情に身を任せていました。


 やがて、彼女は一糸纏わぬ状態となりました。どうでもいい、どうにでもなれと一心不乱に衣服を脱ぎ捨て、彼女に這うように重なりました。


 その蜜壺へ、己の一部を挿れたその時──


──己が、ヒトでないことに気づきました。


 一切の快楽を感じませんでした。

 一切の不信がなかったのにもかかわらず。


 絶望に染まりかける心を、ついさっきまで13年もの間生きていた自分を否定してまで肯定しようと、無心で腰を打ちつけました。


 響く虚しい音に、やがて自分のソレは形を維持できなくなりました。


 私は、彼女と微々たるつながりを保ったまま、彼女の上にしな垂れ、泣こうとしても涙が出ぬことに、心の血を吹き出させました。


 彼女が突如、嬉々として笑い始めました。嗚呼、貴方も同じ、と。


 彼女の顔を見ると、それはそれは美しい、愛しい姿をしていました。


 嗚呼、まるであの日見た自分でした。


 なぜ気づかなかったのでしょうか。

 なぜ思い出さなかったのでしょうか。


 ああ、嗚呼、アァ。

 これを、書きたい。

 この女性と、死にたい。


 熱烈な抱擁とキスを交わし、私は久々に紙へ、直に書き綴り始めました。

 彼女はずっと、待ってくれています。


 左手に睡眠薬を。机にコップと水を用意して。


 嗚呼、ずいぶんと遠回りをしてしまいました。


 もっと早く会っていれば、2人で耐え忍ぶという選択肢があり得たのでしょうか。


 ああ、でもそれはもう議論する必要はないでしょう。

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