叢雲のイナダヒメ
正保院 左京
序章 八重垣大明神
遥か昔。まだこの地を神が治めていた神代の頃。
高天原を追われ、
簸の川を見ると箸が流れてきた。不思議に思った
「お前たちは何者だ?」
と、命がお訪ねになると老爺は
「私たちは
と答えた。
「一体何を嘆き悲しんでいるのか」
とお問いかけになると
「この
と嘆きながら答えた。
すると命は「この姫を私にくれるのならば、この
二人は喜んで娘を差し出した。
大蛇と云うのは酒を好むものである。
命は足名椎と手名椎に命じて草々の
やがて大蛇はやってきた。
大蛇と云うのはそれは大きな化け物で、山の様に大きな体から八つの頭に八つの尾が付いている。眼は鬼灯のように赤く爛々と光り、背中には松や柏が生い茂り、その長さは八つの丘、八つの谷までに及んだ。
大蛇は命の狙い通り酒の匂いに引かれ、それぞれ門から顔を突っ込んで酒を呑み始めた。酒の毒が回るのを好機に命はかの巨大なる大蛇に十束剣を手に立ち向かった。
八つの首を全て
取り出してみるとそれは一振りの宝剣だった。
命はこれを
その時にお詠みになった詩
〽八雲立つ 出雲八重垣 妻籠に 八重垣つくる その八重垣を
はこの日本で初めて詠まれた歌であるという。
又、命は叢雲の剣を姉君の
この地はその後に
そしてそれから何千年もの時を経た現代。神々の華々しい功績と栄光の上にこの街は成り立っている。
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