第16話 風の音は聞こえたか?
砦に詰めている筈の騎士は王都警備隊第12隊の連中と遠征に出ていた。砦から隣国の国境近くの森で魔物が見つかったので急遽討伐に向かったという筋書きだったようだが、彼らはいもしない魔物を探して森の中を一月以上もさ迷っていたのだから、ご苦労なことだと言わざるを得ない。
砦を空っぽにした理由は代わりの騎士団がやって来るとの伝達があったからだそうだ。
伝達を持ってきたのはセンエで、彼は騎士団と12隊を遠征地まで案内すると戻ってきて砦のあちこちに仕掛けを施した。ニクスがかかった罠もその一つだったようだが、最後は魔香を焚いて魔狼を放てば準備は完了だ。魔狼は以前にとらえていたものを檻にいれていたらしい。一月も放置すればいつの間にか数は増えている。それが魔物だから、センエは放置するだけで済む。
あとは、のこのことベルグリフォンたちがやって来るのを待てばいい。
王都で一度出会ったときは依頼主への首尾の報告と魔香の補充分の買い出しだったようだ。思いの外、魔狼の数が湧き過ぎたため焚く位置を増やしたのだ。
ベルグリフォンたちが到着するだろう時刻を見計らって砦の門を開けておく。数匹飛び出した魔狼が近隣の村を襲ったらしかった。当のセンエも、一匹の魔狼に追いかけられて砦付近を逃げ回っていたのは笑い話だろう。そうして逃げていたセンエを捕らえて数人の部下に託し王都へと連行してもらった。もちろん悪事がばれた彼は退団した。その後牢の中で沙汰を待つ身だ。
センエを唆した経済大臣であるケランザ伯爵も、今余罪を調べて証拠を集められているところだ。
娘を第四王子と結婚させるためにフィリオが邪魔で、殺したかったのだとセンエが話していた。もちろん、伯爵当人はしらばっくれている。
しかし伯爵は騎士団を勝手に動かした罪だけでなく、警備隊や学園に回される資金の一部を着服していたらしい。
叩けば叩くほど、悪事がでてくる男だったようだ。
この一月あまりを思い起こせば、さすがのベルグリフォンも働きすぎたとぼやきたくなる。
魔狼を始末し第四王子を城へと戻せばすぐに伝書鳥であちこちに連絡をとり、部下の一部を砦の騎士団探しに派遣し、一部をセンエの護送に充てる。騎士団たちが戻ってくるまで魔狼がいないかどうかを残りわずかな部下と見回り、近隣の村の被害状況を確認し、ようやく騎士団が12隊と戻れば本来の配置先を巡って魔物を退治して回る。
雀の涙ほどの給金しかもらえないのに、と頭を抱えたくなるほどの働きだ。
ようやく王都に戻って来られたのもつい一昨日のことで、いつの間にかフィリオは18歳を迎え成人していた。
ちなみにフィリオの誕生日はわからないので、ベルグリフォンが引き取った日を誕生日にしている。
初めて親と出会った記念だから、誕生日のようなものだとフィリオはよく笑っていた。
成人すれば、新年が明けてすぐに教会に行って祝福をもらうという成人の儀式がある。晴れ着を着込んだ姿は今から楽しみではあるが、それを穏やかに迎えるためにしなければならないことがある。
ベルグリフォンは、死地へ送られるほどの気持ちを抱えて、その日を迎えた。
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「フィリオ、少し話があるんだが」
寝室のベッドの上で、寝る準備が終わったフィリオが布団にもぐりこんできた頃、ベルグリフォンは声をかけた。
緊張からか、心なし声が低くなった。威圧しているつもりはないが、顔が強張るのはどうしようもない。
普段とは様子の違う自分にフィリオの表情も窺うような顔つきになる。
「また私を他所に行かせる話?」
「お前の返事次第だが…まぁ、聞いてくれ。俺はこれまでお前が成人したら離れて暮らすつもりだった。それが一般的だろうしな」
子供が成人すれば家を出る。成人してすぐということはないが、大体2~3年ほどで独り立ちする。だからこそ、ベルグリフォンも手放そうと決意していた。一緒に住まなくなるわけでまったく会えないわけじゃない。それだけを自分に言い聞かせて。
だが、自分の葛藤など想像もしないフィリオは涙ぐんでねめつけてくる。
「初めて聞いたんだけど…」
「まあ、初めて言ったからな」
「お父さんはひどい! そういう大事なこと、全然私に言ってくれないじゃない」
「悪かった。お前のことを考えてたつもりだった。そうだな、きちんと聞けばよかったんだ」
そっとフィリオの柔らかい頬に手を添えた。
すべすべした肌の感触を感じつつ、フィリオがその手に頬を押し付けてくる感触にたまらなくなる。
いつの間に、少女から女へと顔つきが変わったのだろう。上目遣いで見上げてくる彼女に、色気すら感じるほどだ。
「フィリオ、俺が欲しいか?」
菫色の瞳を見開いた少女は、そのまま大きく頷いた。
「欲しいよ! 当たり前でしょ」
「そうか、当たり前なのか…なら、俺をお前にやるよ」
ベッドの脇に置かれた引き出しの一番上を開けて、そこから一枚のコインを取り出す。描かれた文字を指でなぞりながらそっとフィリオに渡した。手の中のコインを見つめて彼女は訝しげな表情だ。古いコインでそれほど価値があるわけでもない。
「昔、西の方で戦があった時に小国の王が傭兵たちに配ったコインだ。俺の名前が記されてる。そこの王は変り者で、傭兵一人一人の名前の刻んだコインを使って戦の隊長から班の編成、見回り当番なんかを決めていたんだが。戦が終わって契約が切れたときにコインをくれたんだ。また戻ってきたくなったらいつでもこれを預けにこいってな。それをお前に、やる。俺の居場所はお前の傍なんだから」
契約のコインを渡すことで、彼女とずっと一緒にいようと伝えた。
フィリオが幸せそうに微笑んで、溢れた涙がこぼれるが気にせずにぎゅっとコインを胸に抱いた。
「うん! お父さん大好き」
「まあ呼び方はおいおい直してくれ。いつまでもお父さんと呼ばれるのは罪悪感がすごい…」
今まで娘として育ててきた気持ちに嘘はない。まさか、自分で育てたものを自分が食べる日がこようとは。それでも体は反応してしまうのだから、正直なところ戸惑ってしまう。父性愛だと信じていた気持ちは、恋人への愛情だったのだろうか。境界は曖昧でよくわからない。ただし、一つ言えることは情欲はあるという点だ。
フィリオの豊満な胸に両手を置けば、極上の柔らかさで手に馴染む。
「ひゃん、なに、突然…」
「いや、俺の物になったと思ったらすごく欲しくなるな」
「え? ———ん、ふ」
そのままフィリオの桃色の唇に口づけた。こちらも柔らかくしっとりしている。
しばらく角度を変えて堪能していると、真っ赤になった彼女がとろんとした目を向けてくる。
最後に舌でぺろりと舐めてから、少しだけ顔を離す。はあっと吐き出した女の息に、背筋がぞわりと震えた。
「いつもやられっぱなしじゃあ、ないぞ。今夜は覚悟しろよ」
「へ、え…まさか、気づいてたの?!」
「そりゃああんなに圧をかけられたら、いくら馬鹿でも起きるだろ。俺が気配に敏いのは知ってるくせに」
「そうだけど、…そうだけど! 起きてるって言わなかったから」
フィリオが学園に入ってしばらくした頃から寝込みを襲われるようになった。夜中に凄まじい圧力を感じて寝たふりをしていたら、そっと唇を奪われたのだ。彼女が口づけをしているのだとすぐに気が付いたが、動揺しすぎてとっさに動けなかった。それからも度々、奪われたがそっと口づけて離れるだけの他愛ないものだったので、ベルグリフォンは結局、ずっと寝たふりを決め込んでいた。
彼女が異性として自分を見ているのだと気づいた瞬間でもある。おかげで、彼女の気持ちを疑ったことはない。
彼女が思うほどご立派な人物でもないが、くれるというのなら素直にもらおうと思った。
たとえフィリオ自身が愛情を勘違いしていたとしても、もう文句は受け付けない。
「起きてるやつが起きてるなんて言わないだろ」
「だって…ふン」
意地悪く笑って、さらに赤くなったフィリオにもう一度口づけた。今度は舌を薄く開いた口の中に割り入れて口蓋を舐める。引っ込んでいた舌をつついて、絡めた。溢れた唾液がこぼれて顎を伝う。
「はぁ…お、父さん…ちょ、待って…ん」
息継ぎの合間に、フィリオの声が漏れる。やんわりと胸板を押す力をはねのけるようにさらに密着した。柔らかい双丘が二人の間でつぶれているが、その硬くなった先端を感じてさらに笑みを深める。
「せっかく逃げられるようにチャンスをやったのに…俺に火をつけたのはお前だろ。ちゃんと責任とれよ」
「急すぎ…て、んアン…頭がついて…いかないのぉ」
フィリオの小さな頭を抱き寄せて唇をむさぼり、空いた手で胸を揉んでやれば鼻にかかる嬌声が漏れた。それがひどく腰をざわつかせる。手にあまる胸が形を変える様にさらに興奮が煽られる。
「ごめん、初めてで余裕がない」
「ん、え?! 初めてって…」
「家族を作るつもりがなかったからな…まあ俺の年じゃ珍しいんだが」
おかげで傭兵時代は女嫌いだの、男色家だのと噂されていたのも知っている。フィリオと暮らすようになって不思議とその声は潜まったが。育ての娘とよろしくやってると思われてた頃は幼女性愛者疑惑もあった。
「夜の話だけは聞いてるから、そこまでひどいことにはならない筈だ。だけど、止められそうにないから先に謝っとく」
「ふえええ―――ハアん」
半分泣きそうな表情のフィリオに深く口づけて、悲鳴を飲み込む。そのままそっと後ろに倒した。ぎしりと寝台が軋む音すら生々しく感じる。
傭兵時代から男が数人集まれば下世話な話ばかりだ。過去に聞いた話を思い出しながら、フィリオの寝間着のボタンを上から順番に外していく。すぐに真っ白な乳房がこぼれて思わず口角が上がる。
「夜は長いからな、たっぷり責任とってくれよ?」
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