My mother.

水鳴咳 辟(みなせ へき)

M

物心着いた頃には、路上生活をしていた。

この国の冬の冷え込みは侮れない。下手をしたら四肢が凍ってしまうのでないかという恐怖が常につきまとった。


僕の相棒はたまに見つけた時に増える新聞紙のコレクションと、着の身着のままの洋服たち、ポケットには数枚の硬貨だけ。

見知らぬ誰かから貰ったカスケット帽は寒さから僕を守るだけでなく、人様から慈悲を請う受け皿にもなる。


ぐるるとお腹が獣の様な呻き声を上げる。前回固形物を口にしたのは何日前の事だったか。

先程運良く捨てられていた乾燥したパンは、先程鴉によって啄まれて無残な姿を残していた。


冬は日が落ちるのが早い。ゆらりと橙色の光が揺れている。

寝たらおしまいだと分かってはいてもうつらうつらとする意識の中で、幼い頃に聞いた童謡が少女の声で口ずさまれた気がした。

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