第11話 魔法祭Ⅰ
いつもの見慣れた学園が、今日だけは知らない街のようになっている。
校舎の中は魔法でお城の中のように内装が変わってるし、外は
今日のために建てられた仮劇場では、オペラや演劇を上演するらしい。そして王都で人気のレストランやカフェまで併設された。何から何まですごく豪華だ。それに魔法学園の生徒以外の人もたくさん来ている。
これが魔法祭なんだ。すごい……!
学園祭のようなイメージをしていたけれど、規模が全然違う。ゲームでは魔法祭のシーンはさらっと映像が流れただけだったけど、本当はこんなにも凝っていて豪華なお祭りだったんだ。
青春って感じだなぁ。友達と一緒に魔法市でお買い物したり、カフェ行ったり演劇ブースに行って役者さんにサインもらったりとかさ……そして最後はメインイベントの
だけど私はそのメインイベントに出場する側だ。だから実は魔法祭を満喫してる暇もない。なんだか勿体無いなあ……まぁ、そこまで親しいお友達もいないから別にいいんだけどさ。
朝から学園の生徒達は講義堂に集められて、魔法祭の注意事項や説明を受けた。
そして午後からは私が出場する
……さあ、どうしようか。今からはフリータイムだ。勝手に殿下やリチャード様達とご一緒させてもらうつもりだったけど、他のルーメンクラスのお友達もいるだろうし、私が混ざっちゃ迷惑なような気がしてきた。
そういえばギデオンやお母様も来ているし、そっちに行こうかな。うーんでも、外は人が多すぎてどこにいるか分かんないや。とりあえずカフェに行って美味しいもので食べようかな……。
「あの……ディアナ様」
「?! ……は、はい。なんでしょうか?」
考え事をしていたら、急に声をかけられた。
声の先にはテネブライクラスのクラスメイトのリンダ・ジュドー様とシシィ・アクアズ様がいた。二人とも小柄で可愛らしいご令嬢で、たしかお裁縫が趣味だったはず。
リンダ様とシシィ様は顔を赤らめてもじもじしている。どうしたんだろう。
「あの……私達、えっと……」
「これ、作ったんです」
そう言って二人は手に持っていた衣装ケースのような箱を広げた。そこには蛇柄のリアルな刺繍がされた布が入っていた。
今、これ作ったって言ったよね?
かなり独特なセンスだけど、これすごく細かくてリアルだ。まるで本物の蛇みたい。すごいなぁ……蛇好きのグレンズ先生が見たら喜びそう。
なぜ二人がこれを私に見せたのかは謎だけど、渾身の作品を見せてもらえるなんて……なんか嬉しいな。
「すごい刺繍ですね。お二人共器用で羨ましいです」
私がそう言うとリンダ様とシシィ様は花が咲いたみたいに笑って喜んだ。か、かわいい……。
「気に入っていただけで嬉しいです!」
「今日に間に合ってよかったです! きっとよくお似合いだと思います!」
…………ん?
お似合い、とは?
「私達がディアナ様にプレゼントをするなんて、おこがましいことだとは思ったのですけど。テネブライの代表をなさると聞いて、いてもたってもいられなくて!」
「そうなんです。いつもは影からディアナ様を見ているだけで満足だったのですけど……やはり応援したくて! これは私達からのエールの品です!」
「は……はあ」
「ディアナ様がどのような柄がお好きなのかランドルフ殿下に聞くのが一番だとは思ったのですけど、私達が軽々しく話しかけてはいけないような気がして……仕方なく通りかかったグレンズ先生に聞いたら教えてくれました」
「これが、ディアナ様のお好きな『蛇柄』のローブです!!!」
シシィ様はそう声を張ると、謎の蛇柄の布を開いた。
おお……ローブだ……これからの季節とても実用性のある……ローブだ。
二人の気持ちはとても嬉しい。たぶん、この柄じゃなかったら嬉しすぎて泣いてる。いや、今も嬉しくて泣きそうだけど……このドギツイ蛇柄が涙をかき消してくる。というか、グレンズ先生に聞いちゃだめだよ……。あの人、適当人間なんだから。
私の趣味なんて知るはずないし、分からないから適当に自分の好きなもの言ったんだろな。うう……こんな派手派手アニマル柄は全然趣味じゃない……。
「……もしかして、蛇柄苦手でした……?」
「ああ……私達はなんてことを……!」
「いえ! 大好きです! ワーイ、カワイイヘビガラダナァ!!!! 」
うっ、こんなに可愛い子達が時間かけて作ってくれたもんね。そりゃ嬉しいよ! 好みじゃなくてもいいや! 蛇がなんだ! 触り心地もいいし、温かそうだし、いいじゃん!
「ああ……ディアナ様が喜んでくださってる…………夢のようです」
「一ヶ月かけて作った甲斐があります……ぜひ着てみてください!」
一ヶ月も時間をかけてくれたのか。なんか申し訳なくなってきた。
リンダ様もシシィ様も今まであまり接点がなかったけどいい子達だな。
「リンダ様、シシィ様ありがとうございます。大切にしますね」
「そんな……ああ、私感動して泣きそうです」
「私も……夢みたいですわ。あ、あちらに鏡があるので着てみます?」
……そ、そうだよね。貰ったからには着ないとね……。
正直、この柄はちょっと難易度高すぎるし私には似合わないと思うな。でもいいや、気持ちだけでも嬉しいし!
私は二人をガッカリさせないようにフォローの言葉を考えながら、鏡の前でローブを羽織った。
「わあ! 素敵です!! 惚れ惚れしてしまいますわ!」
「なんて美しいんでしょう! ディアナ様だからこそ似合うローブですわ!!」
「ワァオ……」
似合ってしまった。
いやいや、私まだ十五歳の女の子だからね。こんなドギツイ悪役柄のローブが似合うなんておかしいでしょ……!
なのにこれだよ。やっぱり……ちょっとショック。このギラギラした蛇刺繍が、私の悪役顔と長身にマッチしてる。かなり……強そうだ。
「午後からの
「でも、ご無理はなさらないでくださいね!」
「……ありがとうございます!」
鏡に映っているのは、めちゃくちゃ強そうな私。そしてその両隣には小動物のように可愛らしいお二人。
異様な光景だけど、二人の笑顔を見ていると自然と心がぽかぽかしてきた。感謝しなくちゃね。そして午後からも頑張らないと。
「あの私、午後まで時間が空いてて……もし、お二人が迷惑じゃなかったら、ご一緒させていただけませんか?」
私は意を決して二人にそう言った。心臓がバクバクする。だってせっかくのチャンスだし、これを機に是非お友達になりたい。
「えっ……」
私の言葉を聞いて、お二人の表情が急に固まった。それを見て私も固まった。
えっ、だめだった……? 急に友達ぶって何この人馴れ馴れしいって思われた? うそ、どうしよう泣きそう……。
だけどその心配は杞憂だった。
「そ、そんなのいいに決まってるじゃないですかぁ!!!」
「嬉しいですぅ! てっきり殿下達とご一緒されると思って遠慮してましたので!」
よ、よ、よかったーーーーー!!!
さっきの反応は、普通にびっくりしただけだったみたい。
リンダ様は私の右手を、シシィ様は私の左手を握ってニコニコとしてる。ああ、ここは天国ですか……。
「お二人共、ありがとうございます……今日は最高の日です……!」
もう、嬉しすぎて泣きそうだよ。
「ではさっそく魔法市でも見に行きましょうか!」
「はい!」
こうして私はリンダ様とシシィ様と共に午前を過ごすことになった。
私はローブを羽織ったまま魔法市へ向かった。今日はずっとこれを着ていよう。せっかくお友達から頂いたプレゼントだもん。脱ぐのが勿体無い。悪役感は増しちゃったけど、今日ぐらいはいいや!
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