第11話 おもしろいひと(sideランドルフ)
ディアナ・ベルナールに興味が湧いたあの日から、私は彼女を見つける度に目で追ってしまっていた。理由は……そうだな、面白いから。
最初はあの我儘娘が本当に変われるのかを遠目で観察するだけで良かった。でも、あの子の言動があまりにも予想外で興味深くて、つい欲が出てしまった。そしてある時、私はついに彼女を王宮に呼んだ。彼女は緊張からか手と足を一緒に出しながら歩いてきた。あの時は笑いを堪えるのが大変だった。そして、たわいない話をして帰そうとしたら「お咎めなしですか!」と訳の分からないことを言ってきた。何をされると思ったんだ、と私は思わず突っ込んでしまった。
人は簡単には変われないと思っていた。だけど彼女は以前とは比べ物にならないぐらい親しみやすく温かい人間に変わっていた。
それから週に一度、彼女を王宮に呼んだ。茶菓子を嬉しそうに頬張る姿はまるで小鼠みたいだった。それを伝えると「小鼠はないでしょう! せめてリスとか!」と必死になって訴えてきたりもした。彼女がいるとその場がすぐ賑やかになった。
この習慣がいつまで続くかと思ったけど、律儀なことに途切れることなくディアナ・ベルナールは呼べば必ず来た。半年程経った頃には、私にとってこの時間はとても居心地の良いものになっていた。
そして驚いたことに私は、彼女に対して素で居られるようにもなっていた。
自分で言うのもおかしな話だが、私はあまり性格が良い方ではない。だから素の姿は友人の中でも幼馴染のリチャードぐらいにしか見せたことがなかったし、当初同年代の令嬢とここまで打ち解けるつもりもなかった。私はまたしてもディアナ・ベルナールに予想を覆えされた気がして少し胸がざわついた。
ある日、彼女の昔の記憶が霞んでいるという話題になり私は受け売りの知識だが枝葉健忘のことを話した。彼女は詳しく知りたそうにしていたので、再度リチャードの家に調べに行くことにした。
リチャードとディアナ・ベルナールは少し前まで天敵同士だった。例の一件でもう和解していたが、未だにぎこちない会話をしているイメージしかなかく、久しぶりにこの二人を引き合わせるのは中々面白そうだと思った。私は本当に性格が悪いと思う。
でも結果として、大して面白くなかった。
リチャードの手を嬉しそうに握りしめる彼女の姿を、私は冷めた目で見ていた。
そして終いにはリチャードに対してこんな事も言いだした。
「実は、半年前に恐ろしい夢を見てしまったのです。それから記憶に靄がかかってしまいました……」
それは、以前私には言えないと言っていた話だった。それをリチャードにすらすらと語りだしたから驚いた。納得できなかった。
帰りの馬車でその事について訊くと彼女にも反論があり、結果的に私が謝ってしまった。
彼女を王宮に呼んだ当初はこんなつもりではなかった。ただ面白いものが見られればいいと思っていた。
それなのに、彼女の一挙一動にこんな気持ちになってしまうなんて。それではまるで…………いや、それはないな断じて。この婚約は国のため、王家のためのものだ。
もう思い悩むのはやめよう。この話は終わりだ。これ以上ディアナ・ベルナールのことを考えると、なんだかあの子に負けた気がするから……。
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