10 証



 バルドは「きゃっ、んっ!」契約を拒む私の唇をうばった。

 いきなりの事で、彼を押しのける事も、逃げる事もできなかった。


「俺にはお前が必要だ。俺は、俺を呪縛からときはなってくれたお前を守りたい」

「だけど」

「俺には家族も友人もいない。けれど、主がいる。それがお前だ。俺にはお前の痛みは分からないが、お前がいなくなったら、俺もお前と同じような顔をするだろう」


 考えていた事を見抜かれていた。

 その事に、私は恥ずかしくなる。


「お前は俺の事が必要じゃないのか」

「そういう問題じゃないわ」

「そういう問題だろ、言えよ。正直に」

「私は」


 躊躇ったけれど、一度口を開いてしまったら、もう止められなかった。

 正直な気持ちを打ち明けてくれた彼に、真摯でありたいと思った。


「誰かにそばにいてほしい。孤独になりたくない。貴方にまもってほしい」

「なら、契約成立だな。手を差し出せ」

「こう?」


 バルドに向けて左手を差し出すと、彼はまるで忠誠を誓う騎士の様に、そのばにしゃがみこんで私の手をとった。


「我は汝を愛し、いかなる時でも汝の傍に君臨し続けよう」


 そう言った彼は、私の手の甲に、キスをする。


 手の甲があつくなって、そこに炎をかたどった独特な模様が浮かびあがった。


「それが契約の証だ。もう俺達は離れられない。離れない。俺はお前と一蓮托生だ」

「バルド。ええ、これからも私を守って」


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