第23話
私がマロンを恨んでいるのには理由がある。
いや、そもそも理由が無ければ恨むことなんてないのだけれど……。
別にマロンに街の住人をアンデッドに変えたと罵られたことを恨んでいるわけじゃない。
あれは、あの状況ならそう思ってしまうのも無理はないからだ。
なら何故恨んでいるのか。それは、私の友人であるリゼル=アドモルギニアを殺したのが、マロンだからだ。
リゼルは私がマロンと出会う半年前ほどに血鬼病のステージ3にかかって、吸血鬼と化してしまった大切な友人。
痛かっただろう。苦しかっただろう。
吸血鬼になったからと言って痛覚がなくなるわけじゃない。生命力は強くはなるが、痛みは変わらず残る。
マロンに手足がもがれ、内蔵を引き出されたリゼルを見た時、私は何も出来なかった自分を何度も恨み、憎んだ。
その場でマロンを倒そうとして魔法を何度も放った。だけど、動揺で威力が下がった私の魔法は、吸血鬼の血を吸いアンデッドの王となったマロンに届くことはなかった。
何を思ってたのか、マロンは簡単に殺せたはずの私を殺すことなくその場を去ったが、その時の私は殺してほしい気持ちでいっぱいだった。
友人を救うことが出来ず、復讐することも出来なかった、弱い私を殺して欲しかった。
それから、少し時が経ち、マロンの街の近くにあるダンジョンで引き篭もっていた私の前に現れたのがルーラだ。
ルーラは最初、私のことを悪い魔女だと思っていたようだけど、物わかりのいい子なのか、すぐに自分の頭でどっちが悪でどっちが正義なのかを考え始めた。
いや、どっちが自分にとって得をするかかな。
正義や悪なんてものは常に変わっている。ならば、人が取るべき正しき選択とは自分に得をする方を選ぶこと。
世の中の偉い人はそれがわかってないようだけど、傭兵と呼ばれる職業についている人たちはそこら辺をよく理解していたね。
多分、ルーラも傭兵の才能があると思う。
私はそこでルーラに、私目線での真実を伝えてマロンを倒すために私の味方になるように提案したのだけれど、ルーラは簡単に頷いたり蹴ったりすることはなく、少し保留にしてほしいと言った。
変わった子だった。
それからすぐに戻ってきて、マロンを救いたいと言った時、ルーラに昔の自分が重なって見えた。
リゼルを救いたいと言って、領主にお願いした時の自分が見えたのだ。
だから、薬があると聞かれた時、無いと言うつもりだったのにあると言ってしまった。
たとえルーラが魅了されていたのだとしても、過去の自分と重ねてしまった。血鬼病の治療方法を探している時の自分に、薬を知らないか?聞かれたら知らないと言える自信が無かったのだ。
でも、本心ではルーラを巻き込みたくなかった。
魅了が解けても変わらずマロンを救いたいと言ってたとしても、この小さな女の子を巻き込みたくなかった。
だから、魅了を解いたあとに交渉しようとしたことを辞めて、私は1人で家を出てマロンと一体一で決着をつけに行こうとしたのに……私のゴーレムが余計なことをした。
私の直筆に似せて手紙を残したというのだ。
そして、ルーラはマロンとの戦いの途中にやって来てしまった。
私はルーラに逃げるように言いたかった。でも、ルーラは覚悟を決めてここに来ていた。そんなルーラに、私は逃げてとは言えなかった。
「ルーラは覚悟を決めていた。死んでも、殺されても、マロンを恨まない覚悟を。だから、私も決めたの。あの時、リゼルが殺されたことであなたを恨んでいたことを辞めようと」
もう、動くとこはないであろう相手を前に私はしゃべり続ける。
「自分が弱かったことで救えなかったのは事実だし、あなたを倒せなかったのも事実だもんね。……だから、あなたを治療する前に殺してしまったのも、あなたが弱かったってことで許してね」
それは暗に私が強すぎて、マロンが弱すぎたと言っている。実際はぎりぎり勝ったと言った方が正しいのだろうが、このぐらいの仕返しはしても許されるはず。
私はマロンの足元に治療薬が入っている薬瓶を置くと、ルーラの元へと行くために、街の方向を向く。
「さて、シルヴァを向かわせているから大丈夫だとは思うけど、私も急ごうかな」
私は回復用のポーションを呷ると、ルーラ達と合流すべく走り出す。
すると、突然後ろから大きな爆発音が聞こえて視界が白く染まり……私の意識は途切れた。
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