第11話
目が覚めると牢屋だったってことはなく、ふかふかのベッドの上だった。
隣を見るとトイレの紙の予備が置かれており、先ほどトイレの紙を取りに来た部屋だということが分かる。
「ここは寝室か……」
それにしても、今回は戦闘の用意も十分にしていたし、隙もついて秘策もあったのにな……。こう、何度も負け続けると傭兵としての自信を失う。
それに、全て生かして返してもらっている。戦士なら恥を知るべきだと言われるだろうが、俺は傭兵で戦士ではないから恥を知る必要は無い。だけど流石に恥を知っとくべきだろう。
「それにしても何で魔女イルスは俺を生かしたんだ?」
実験体として捕らえたのならまだ分かるが、手足を縛ってない以上は実験体として捕らえるのが目的ではないということになる。俺のためとか言っていたような気もするが、その真意も分からないし……。頭をフル回転させて考えるが答えは出てこない。
「まあ、考えても仕方がない。取り敢えず部屋から出るか」
荷物は手配書が貼ってある壁にある机に置いてあったので、それを取ると部屋のドアノブに手を掛ける。
本当は部屋の探索もした方がいいのだろうが、このまま長居するのは余り良くないからな。
ドアノブを捻ってリビングに出ると、そのまま入口へと向かう。
「入口がない!?」
ダンジョンから入ってきた場所に着くと、入口が消えていて壁だけになっていた。
まさか魔法で入口の場所を変えたのか? いや、魔法では場所だけを移すことは出来ない。つまりここは魔法で埋められた元入口なはずだ。新しい入口を探すのもいいが、まず見つからない場所にあることを考えるとここを掘った方が早いな。
ダガーを抜くと壁を掘るために壁に刺そうとするが、ガッ!という音と共にダガーは弾かれる。
「まあそうだよな。仮にも壁だもんな……そんな柔らかいわけないか」
「そりゃそうよ。柔らかかったらこの空洞に作った家なんて簡単に崩れるからね」
「っ!!」
声の聞こえた方を振り返ると、そこには先程戦った魔女イルスが居た。魔女イルスは杖を持っていてこちらを見ていたが、一度勝ったからなのか警戒していないように感じる。
「何時から見ていた?」
「起きるところから」
「最初からかよ。どうして武器をすぐ取れる場所に置いた?それと、俺のためと言った理由も聞きたいんだが」
「そのダガーを収めてくれたら話してあげるわよ」
普通、敵の前で武器を仕舞うのは人質を取られていたりしない限りはしないのが基本だ。だけど、魔女イルスがこちらを攻撃する気がないのは顔をみればすぐに分かる。
生かしてもらった礼もあるし、秘策の魔法紙スクロールがあるのを考えると素直に鞘に収めても問題はないはずだ。
「分かった」と言うとダガーを鞘に収める。
「ダガーは収めたぞ。さあ、話してくれないか?」
「思ったより素直なのね。そうね、お茶でも飲みながら教えてあげるわ」
●〇●〇●
「おい、これは何だ?」
「何って、お茶とお茶菓子だけど?」
魔女イルスは料理が下手なのか……。
目の前に出されたお茶はどう見ても水にしか見えないほど色が薄く、お茶菓子もクッキーを作ったのだろうが、黒焦げになっていてとても美味しそうには見えない。
「なあ、話を聞く前に一ついいか?」
「なにかしら?」
「普段、料理はどうしてる?」
「普段はそこにいる私の作ったゴーレムが作っているわ」
イルスがそう言って指さした場所には、メイドや執事の格好をしたゴーレムが複数体立っていた。ゴーレムは土、鉱石などの無機物を魔法によって人工生命体にしたものを指している。似たようなものにホムンクルスというものがあるが、あれは錬金術で生み出される人工生命体のことだ。
「そうか、ならこのお茶やクッキーはそのゴーレムが?」
「いや作ったのは私だけど」
「そうか……」
うん、水だ。
もしかしたらこういうお茶なのでは?と信じてお茶に手をつけてみたがどう見ても味がしない。いや、水の中の水という味がする。
間違いない……これはあれだ。普段はお菓子とか料理を作らないけど、友達が家に来るから気合を入れて作ったやつだ。それもよく調べないで作ったから不味いのになったやつ。せめて味見をしてれば違った未来が見えたかもしれないのに……。
これは手をつけない方がいいな。お茶の入ったコップを置くと、早く話をするように勧める。
「さ、話してくれないか?」
「少しお茶を楽しんでからでもいいんじゃ……」
「いや、まだ俺は完全に魔女イルス、お前を信用したわけじゃない。だから、信用できるか判断する為にも早く話してほしいというわけだ」
「分かったわ」
魔女イルスは持っていたコップを置くと「あれは、今から10年前の話よ……」と話し始める。
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