魔族《わたしたち》の国を創るために

Rion

革命前夜

「諸君。我々はこの世界の人類から虐げられてきた」

 少女が壇上に立っている。

「諸君。我々はこの世界に望まれない存在だ」

 背は百三十にも満たないぐらいだろうか。幼い顔つき、細く白い四肢が年齢に似合わない質素な白を基調としたドレスから伸びている。髪はドレスを着るのに合わせたのかハーフアップに結われている。

「諸君。我々はしかして生を渇望する生命だ」

 しかしその声には凄みがあった。明確な意思が込められていた。

 表情は硬い。威厳を精一杯出すための表情だ。

「故に、エリフィシア王国第十四代国王、アリス=キングがここに宣言する。我々は我々の我々による居場所を手に入れる!」

 彼女の眼下には無数の人外が立っていた。

 例えば、蝙蝠の羽が生えている者。例えば、獣の耳と尾が生えている者。例えば、異様にずんぐりとした背の低い者。例えば、身体が岩でできている者。

 対して、舞台袖でそれを見守る少女が居る。

 ブレザータイプの制服に身を包み、祝春花というネームプレートをつけたカバンを持つ少女。平均的な身長、くくらず伸ばしっぱなしの長い髪。目を覆い隠すように降ろされた下には更に縁の大きな眼鏡があり、素顔をほとんど見せず華が無いとも言えるが、その実整った顔立ちをしている。

 真剣な眼差しで舞台上の少女を見ていた。熱狂的では無く、ただ見守るようにそこに居た。

 中規模のレストランのような大きさの会場では皆が一様に足音を揃えて床を踏む。そこに居る者達は、その場に居るだけで一体感や高揚感を覚えていった。

 壇上の少女が手を掲げた。会場が静止する。

「勝利を誓って!この一杯を大地に捧ぐ!」

 その先にあるのは何も入っていないグラス。

「勝利を誓って!」

 同じく配下の者達もまたグラスを掲げ歓呼するかのように口を揃える。グラスの中身は同じく空。

 しかし、直ぐにそのグラスは十人十色とでも言わんばかりに発光する様々な色の液体で満たされる。

 十分に輝きが増したところで、壇上の少女が黒く輝くグラスを傾け、中の水を地面へと零した。しかし、水が床を濡らす事はなく、宙で霧散するかのように消えていく。

「作戦開始!」

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