03

 次に警視庁を訪れたのは、試験結果が出た日だった。採点が済んだ解答用紙と結果発表の用紙をいつものように担任に託され、捜査一課へと赴く。そこには珍しく湊の姿もあった。

「あれ、片桐」

「ん? 君は確か、クラスメイトの……陰宮君」

「誰だよ。成宮だ」

「あ、そうそう、成宮君」

 とりあえずクラスメイトだという認識はあるようだが、名前は覚えていないようだ。いや、一度も教室で会っていない上、先日もまともな会話などしていないことを考えれば、クラスメイトだと認識され『宮』が合っているだけでもマシなのだろうか。

 はぁ、と思わずため息を吐いて、プリント類の入った茶封筒を差し出す。

「これ、担任から。試験結果と宿題プリント」

「え、いらない」

 即答され、なぜか納得する。言うと思った。むしろここでこんな反応でなければ、先日の試験中に会った『片桐湊』は誰なんだといったところだろう。

 しかし受け取ってもらえなければ困るのは担任で、そこからまた面倒が自分に回ってくるのはごめんだ。この後だって、少しでも早く帰って日課の筋トレと楽器の練習をしたいのに。

「おいおい……担任泣くぞ」

「そんなの知らないよ。せっかくだけど持って帰っ──」

「湊くん」

 さっさと仁を追い払おうとする湊に、すぐ側のデスクでお茶を啜っていた綾木がにっこりと笑いかける。その背後に暗雲が見えるような気がするのは錯覚だろうか。

「……綾木さんが言うなら」

 彼を振り返った湊は、困ったように眉尻を下げてしぶしぶ仁の手から茶封筒を受け取る。この表情はまるで普通の年相応の子供だ。

 満足気に頷く綾木を後目に、湊はあくまで不満げな様子で。

「つまんない問題ばっかりなんだもん。時間の無駄。息抜きにもならない」

 子供らしい表情をしながら他のクラスメイトたちが毎日必死で奮闘している宿題プリントに文句をつけるその言葉は、およそ子供らしさとは程遠い。

「時間の無駄」という言葉には全力で同意しながら、仁は腹の底から湧き上がる感情に表情を歪めた。

(なにコイツ、おっもしれー!)

 こんな人には会ったことがない。今まで天才肌だの神童だのと言われていた仁にとって、近しい感覚を持てる人間は貴重で、まして彼は同級生。これを逃せば他には見付からないかも知れない。

 短く挨拶をして帰りながら、どうやって彼とお近付きになろうかと、そんな考えが頭を巡っていた。

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