第45話 いざピクニックへ
ピンポーンという音が一ノ瀬家へと響き渡る。
今にも飛び出して行きそうな程ウズウズとした少女達を連れ、玄関へと向かいドアを開けると、そこには白のオフショルダーのブラウスにデニムショートパンツというラフな格好の彩姫の姿があった。ショートパンツからはスラリと長い脚が露出しており、そのスタイルの良さを強調している。
「おはよう、彩姫」
桔梗の言葉に少女達が各々の口調で「おはよう」と続く。
「おはよ、みんな。もう準備はできてる?」
「バッチリっすよー!」
いつも以上に元気なシアの声に、彩姫は微笑み頷く。
「じゃ、行きましょうか」
そう言う彩姫は非常にクールに見えるが、内心楽しみなのか、普段よりも声音が高い。
そんな彩姫の声に少女達は「おー!」と言うと、早速家の前に止まるリムジンの元へと向かった。
少女達を先頭に中へと入る。その際、皆「お願いします」と口にするのを忘れない。最年少であるラティアナも、相変わらずの舌ったらずな声で挨拶をする。
全くできた少女達である。
少女達が全員乗り込んだのを確認し、最後に桔梗が車へと乗り込む。そして少女達が挨拶をしていた相手──運転手である沙織の方へと視線を向ける。
「沙織さん、お久しぶりです。本日はよろしくお願いします」
その言葉に、沙織は整った容姿を桔梗へと向けると微笑む。
「桔梗様、おはようございます。えぇ、お任せ下さい。……ところで」
一拍開け、感情の起伏の無い自然な様相で、
「私からのプレゼントはもうお使いになりましたか?」
桔梗の脳内に以前手渡されたゴム状のアレが思い起こされる。
「プレゼ──っ!? いや、使ってませんよ!」
桔梗の様子にふふっと笑う沙織。その反応からして、軽い冗談のつもりで言ったのだろうが──
「ごしゅじんたま、なにもらったのー?」
言って桔梗へと視線を向けるラティアナ。
「……!」
ピクリと反応する沙織を他所に、純粋な少女達はワクワクとした表情を桔梗へと向ける。
「ご主人、何すかプレゼントって!」
「プレゼント……気になりますわ!」
「リウも……気になる」
が、生憎彼女達が思っている様なプレゼントとは違う。いや、そもそもあれはプレゼントでは無く悪戯の類だ。
少女達の期待した視線に晒される桔梗と沙織。どうしたものかと考えていると、ここで事情を知っている彩姫が苦笑いを浮かべ、
「ほら、近所の迷惑にもなっちゃうし、さっさと行くわよ」
瞬間、少女達の意識がプレゼントからピクニックへと移る。
「行くっすー!」
シアの声を発端に再びワイワイと騒ぐ少女達。その傍、沙織は安心した様に小さく息を吐いた後、小声で、
「申し訳ありません、桔梗様、彩姫様。ほんの冗談のつもりだったのですが」
「わかってますよ。ただ、みんなこの世の誰よりも耳が良いので、少し注意した方が良いかもしれないです」
「少なくとも地球基準で考えてたらダメね」
「肝に銘じておきます」
「……あ、それか沙織さんも魔法覚えます?」
「魔法……ですか?」
「はい。声が特定の人物にしか届かなくなる魔法とか覚えたら便利ですよ。……今僕と彩姫が使っているようなね」
桔梗の言葉に沙織は相変わらずの落ち着いた様子で、
「桔梗様がお暇な時に是非」
「大丈夫かしら?」
「何が?」
「地球の人に魔法を教えるのよ。何か起きたりしないかしら」
別段その何かに心当たりが無いのか、酷く曖昧である。
「女神様は僕達が能力を十全に使える状態で地球へと帰還させた。きっと誰かに魔法を教える事も想定の内だったと思う。それでも力を残したままにしたんだ。問題は無いと思うよ」
「だと良いけど」
とここで、楽しげにはしゃいでいた少女達の視線が再度桔梗達の方へと向く。
「ごしゅじんたま、いかないのー?」
「あ、ごめんね。それじゃ行こうか」
流石にこれ以上ここに止まる訳にはいかない。という訳で、桔梗がもう一度沙織に「お願いします」の声を掛けると、リムジンが走り出す。
──いよいよピクニックのスタートである。
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