第38話 ラティ、桔梗の身体を洗う
「んーしょ、んーしょ」
ごしごしと、ラティアナが全身を使って一生懸命に桔梗の背を洗う。
桔梗はそんなラティアナの真剣な姿に、嬉しさと微笑ましさを感じながら、彼女の行動に身を委ねていた。
「ごしゅじんたま、きもちーい?」
「うん、凄く良いよー」
真剣な表情を緩め、にっこりとした笑顔で問うラティアナに、桔梗は柔らかい笑みを浮かべる。
……実際には、力加減に少々物足りなさを感じていたのだが、必死に頑張ってくれているラティにこれを伝えるのは野暮であろう。
桔梗の言葉に、ラティアナは嬉しそうにした後、更に張り切って桔梗の背を擦る。
しかし、例えラティアナが本来の姿から人間並みのサイズになったとしても、それでも身体の小ささは変わらず、そんな彼女には桔梗の背中はあまりにも広すぎた。
桔梗は思う。
……頑張って洗ってくれるのは嬉しいけど、これじゃラティの身体が冷えちゃうな。だからと言って、折角これだけ頑張ってくれているのに、もうやめてと言うのも気が引けし。
うーんと悩む桔梗。
対するラティアナはラティアナで、桔梗の背中を洗うのは楽しいが、これでは時間がかかりすぎてしまう事も理解していた。
と、ここで。ラティアナが突然目をキラキラと輝かせる。
「そうだー!」
「ん、どうしたのラティ」
「ごしゅじんたま! らてぃね、いいことおもいついたー!」
「良い事?」
いまいち良くわからず、桔梗が首を傾げる中、ラティアナは元気いっぱいに、
「みんなー! ごしゅじんたまをあらうの、てつだってー!」
瞬間、ラティアナの周囲に複数の光がフワフワと漂う。
そしてその光は徐々小さくなっていき、遂に霧散すると、そこには何故か一糸纏わずスッポンポンな妖精の幼女達の姿が。
「あらうー!」「ひめたまのごしゅじんたまをあらうよー!」「……ごしごしがんばる!」
桔梗の周囲を飛び回りながら、妖精の幼女達が舌ったらずな声を発する。
「いくよー!」
ラティアナが合図を送る。瞬間、妖精達の手にポンッと小さなボディタオルが出現する。
妖精達はそれをしっかり泡立てた後、ラティアナの合図に合わせ、桔梗へと飛び掛かると、彼の全身を楽しげに洗っていく。
「ごしごし♪」
ラティアナが桔梗の背を洗いながら楽しげに歌う。
「「「「「ごしごしー」」」」」
続く様に、妖精達が一生懸命にタオルを上下させる。
「…………ッ!」
──瞬間、桔梗の身体をはしるえも言えぬ感覚。
まるで全身を羽毛で撫でられているようなその感覚に、ゾクゾクと桔梗の身体に電気が走る。
……これはやばい。
桔梗は悟った。だからか、ある程度時間が経過したところで遂に耐えきれなくなったのだろう、
「……ス、ストップ!」
と声を上げる。突然の事に、きょとんとした顔のラティアナと妖精達。
桔梗はふぅと一度息を吐くと、
「ありがとう、ラティ。もう綺麗になったから、大丈夫だよ」
「らてぃ、じょうずにできた?」
「うん、凄く上手だった。妖精さん達もありがとね」
感謝の言葉に、無い胸を張る妖精、照れる妖精など反応は様々である。
そんな桔梗の言葉により満足したのか、ラティアナは満面の笑みを浮かべると、
「ん、みんなてつだってくれて、ありがとーー」
その声に、妖精達は「またねー」と口々に言いながらスッと消えていった。
それを2人見守った後、
「さ、お湯に浸かろうか」
「うん!」
ラティアナを抱えながらお湯へと浸かり、2人して気持ち良さげに目を細める。
そんな中、桔梗は先程の事を思い出し──
……うん、あれは危険だ。
今後もし洗ってもらう事があっても、その時はラティアナだけにお願いしようと、そう思うのであった。
因みに、これ以降時折少女達が、お風呂上がりに顔を真っ赤にする日があったりしたのだが、それはまた別の話。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます