第33話 放課後とクラスの番長

 あれから4日が経過し金曜日。


 その間、学校では女子に彩姫との仲を追及されたり、男子からは恨みがましい視線を向けられたりするが、ぼっちで居た頃よりは刺激的で楽しい日々を送れた。

 懸念点であった体育も何とか力を制御する事で乗り切った。彩姫の方も問題無かったようである。


 こうして迎えた放課後。彩姫が母親の手伝いと言う事でいつもの様に早々に帰宅。それを目にした前の席の柚菜と右斜め前の有紗による、ここ最近の日課にもなっているからかいと言うか、追及と言うか、とにかく2人からの質問をのらりくらりと躱したり、全く関係のない世間話の様なものをしていると、


「おい、一ノ瀬」


 という荒々しい声が突如聞こえてくる。話を止め、そちらへと振り向くとそこにはクラス内ヒエラルキーで最上位に位置する筋肉質なイケメン竜崎雷我りゅうざきらいがと、いつも彼と共にいる手下の様な男5人の姿があった。


 その姿を目にし、桔梗は「ついに来たか……」と思いつつも、それを一切表には出さずに人の良い笑みを浮かべると、


「えっと、雷我君だっけ。何かな?」


「ちょっとツラかせや」


 言って典型的な不良の様に顎をしゃくり、後方の入口を示す。そんな彼に桔梗は言葉を返そうとし、それよりも早く女声が響く。


「いっちーは今あたし達とおしゃべり中なんだから、邪魔しないでくれないー?」


「そうだよー! 邪魔しないで!」


 柚菜と有紗である。2人は話の邪魔をされたのが気に食わなかったのか、それとも単にクラスの男女仲の問題か、迫力のある雷我相手に全く臆する事なく声を上げる。


 雷我はフンッと鼻で笑う。


「無駄話だろ? こっちは一ノ瀬に用があんだよ。どっちが重要かなんて一目瞭然、いや一聴瞭然だよなぁ?」


「……たいした用じゃない癖に」


 柚菜がボソッと呟くと、雷我は片眉を吊り上げる。


「あ?」


「はいでたーすぐ凄む。そうすれば全員が全員従うと思ったー?」


 先程のお返しとばかりに、有紗が鼻で笑う。


「っ……テメェ」


 雷我の額に青筋が浮かぶ。

 何やら溜まっているものがあるのか、両者一触即発の雰囲気が漂う。


 このままでは性別の違いから乱闘とはならずとも、何かしら面倒な事にはなりそうである。


 ──という訳で、桔梗は一度小さく息を吐くと、


「……いいよ、行こうか」


「ちょっ、いっちー! ついていったらどうなるかわかってる!?」


「そうだよ! こんなのについて行っちゃダメ!」


 柚菜と有紗が慌てた様子で、桔梗に思い直すようにと声を上げる。

 その心配した声音に桔梗は少しだけ嬉しく思いながら、一切の動揺など無い静謐な心持ちのまま2人の少女の方を向き口を開く。


「何を考えてるかもわかってるし、何をするつもりなのかも何となくわかってるよ。けどまぁ──」


 視線を雷我へと向け、


「──問題無いかな」


 その言葉により、雷我の怒りの矛先が桔梗へと向く。


「良い度胸だなぁ! よし、着いてこい!」


 言って雷我は5人の仲間を連れ教室の扉へと向かう。桔梗は立ち上がると、それについて行こうとし……何やら思い出した様子で立ち止まると、振り返り柚菜達へと視線を向ける。


「……あ、先生に連絡とかしないでね。面倒だから」


「う、うん……」


「わ、わかったよ。本当、気をつけてねいっちー」


 2人の不安げな声に、桔梗はニコリと微笑む。その、これから危険が待ち受けているかもしれないのに、全く心配などしていないと言いたげな笑みに、2人はほんの少しだけ恐怖を覚えるのであった。

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