第20話 ショッピング

 ヤンキーとの遭遇以降は特にトラブルが起こる事も無く、無事目的のデパートへと到着した。相変わらず様々な視線に晒されるが、多少の慣れが生じてきた桔梗達は、構わず建物の中へと入った。


 店内は、休日という事もあり、外に負けず劣らず人の数が多かった。特に若者の姿が多く、皆友人や恋人と共にショッピングを楽しんでいたようだが……桔梗達の登場によりその様相が変わる。


 ──日本では到底お目にかかれない珍しい髪色の美少女達の登場。


 その破壊力は人生経験の少ない若者にとっては特に凄まじかった様で、男女問わず皆衝撃を受けた様な表情で少女達に目を向けている。


 よく漫画とかで彼氏が見惚れ、彼女が咎めるシーンがあるが、時折見かけるカップルは、彼氏が見惚れても彼女側が「あれは仕方がないわ」という反応を示している。

 また、中にはこちらを向いて歩くばかりか、柱や人にぶつかってしまっている人もいた。


「……相変わらず凄い光景だなぁ」


 数多くの視線の中で、目下で起こっている非日常な出来事に、桔梗は苦笑いを浮かべる。


 確かに異世界でも視線は受けた。それは桔梗達が勇者一行という事で有名だったのもあったが、やはりその大部分は少女達の美しさが要因であり、その美しさから絡まれる事もしばしばであった。


 しかしそれでも今受けている程視線の量は多く無かったし、ましてや見惚れるがあまり柱や人とぶつかる者など居なかった。やはり地球ではシアやルミアの様な白髪や銀髪の人間は、珍しさもあり余計に目を引くのだろう。


「さ、行くわよ」


 と視線に晒されながらも当の少女達はやはり特に何とも思わないようで。彩姫は平時に友人とショッピングへ向かう時の様なけろっとした様相で口を開く。

 そんな彩姫に、男性が直接関わらない時の彩姫は流石だなと思うと、桔梗はその声に頷き、最初の目的の店へと向かった。


 ◇


 目的の店に到着した桔梗達は、歯ブラシやタオル等現状不足している日用品を購入していった。


 やはり4人も居住者が増えるとその分必要な物も多くなる為、購入後は中々に大荷物となった。が、そんな大の大人でも運ぶのに苦労しそうな大荷物も、桔梗は涼しい表情で軽々と持ち上げ運んでいる。


「こんな所かね」


「えぇ、後は不足があればその都度買えば良いと思うわ」


「だね」


 これでデパートに来た目的は達成。という事で、そろそろ帰ろうかと考えていると、ここでどこからともなく「くぅ〜」という可愛らしい音が聞こえてきた。


 反射的に音の方へと顔を向けると、そこにはお腹を抑えるラティアナの姿が。


 その姿を見て、そういえばと時計を見ると、時刻は12時を少し過ぎた辺り。丁度昼食時である。


「あーそうか、もうお昼か。うーんどうしよ」


「何か作る予定だったの?」


「いや、何も考えてなかった……」


「あらら。……あ、ならデパートで食べてく? みんな外食は初だろうし」


「うん、それもありかね。みんなはどう?」


 振り返り皆へ問うと、少女達は目をキラキラと輝かせ、


「がいしょくー!」

「良いっすね! 楽しそうっす!」

「……ありよりの……ありあり……」

「お2人のご迷惑でないのなら、私も行ってみたいですわ」


 その様子に彩姫はうんと頷く。


「決まりね」

「うん、じゃあ外食にしようか」


 言葉の後、桔梗達は店を選ぶべく、案内掲示板の前へと移動する。


「どこにしましょ」


 言いながら掲示板を見回した後、桔梗の方へと視線を向ける彩姫。

 その視線を受けながら、桔梗はうーんと頭を悩ませる。


 と言うのも、選択肢があまりにも多すぎるのだ。料理のジャンル、食事形式、そして値段。


 折角の初外食である。出来ることならば、少女達全員が満足できる店を選びたい。


 その一心で何処か良い店はないかと考えていると、ここで桔梗の足元にちょこんと立っていたラティアナが、その小さな身体を存分に伸ばしながら、


「ここー?」


 と、とある店を指差した。指の先へと目を向ける桔梗達。そこには、某有名ファミリーレストランの名が書かれていた。


「おーファミレスね」


「うん、みんなの好みとか考えたら……ありね」


 どの様な思いでその店を選んだのか、もしかすると適当に指をさしただけかもしれないが、皆が満足できると言う点において、料理の幅が広いファミレスは確かに適していると言える為、桔梗と彩姫はラティアナの提案にうんと頷いた。


 その後、少女達に説明しつつ問うと、皆が賛成という事で、桔梗達はデパート内のファミリーレストランへの向かった。


 ◇


 入店と同時にアルバイトだろうか、10代と思わしき女店員が忙しげに桔梗達の元へと向かう。と同時にいつもの如く挨拶をしようとし──


「いらっしゃいま……せ…………」


 ──しかし眼前の圧倒的な美に言葉を失い、ボーッと見惚れてしまう。


「あの」


 見かねて桔梗が声を掛けると、女店員はハッとすると、慌てた様子で頭を下げる。


「も、申し訳ございません! 6名様ですね。こちらへどうぞ!」


 女店員に従い案内された席へ向かう。その間、幾つものテーブル席の間を横切ったのだが、その度に皆ギョッとした表情を作ると、ボーッと見惚れた様にその姿を追っている。最早見慣れた光景である。


「そ、それではこちらのお席にお座り下さい!」


 女店員が指定した席に座る。

 因みに席は桔梗、ラティ、ルミアが横並びで座り、向かいに彩姫、リウ、シアが座った。


「こちらメニューでございます。ご注文がお決まりになりましたら、お呼びくださいませ!」


 と言った後、女店員は去っていった。


「んじゃ、選ぼうか」


 メニューが2つあった為、3人ずつ見ていく事に。


「らてぃがめくる!」


「はいよー」


 要望通り、メニューをラティアナの前へと広げると、ラティアナは桔梗とルミアの様子を窺いながらページをめくっていく。


「たくさん種類があるのですね」


「ファミリーレストラン……家族連れに対応したレストランだからね。料理の幅が広いんだ」


「ふふっ、これだけ種類があると、どれにしようか迷ってしまいますわ」


「確かに。まぁでも、今日はこの後特別予定がある訳でも無いし、ゆっくりで良いからね。食べたいやつ探しな」


「はい!」


 ルミアが笑顔で返事をする……と同時に、ラティアナが両手を高く挙げた。


「きめたー!」


「お、どれにするの?」


「これ!」


 言って指をさす。そこにはオムライスの名が。


「お、オムライスか。良いねー美味しそう」


「おいしそうー!」


「桔梗様、私はこちらのクリームパスタに致しますわ」


「お、これも良いね。じゃあ僕は──よし、決めた」


 向かいの3人に問うと、そちらも決まったという事で店員を呼び注文をする。


 結局注文した料理は、ラティアナがオムライス、シアがハンバーグ。桔梗がビーフシチューで、リウがチキン竜田。彩姫とルミアはパスタ。中でも彩姫は和風パスタでルミアはクリームパスタ。後は全員分のドリンクバーである。


 注文が終われば後は待つだけなので、この間に皆で飲み物を取りに行く事に。とは言え、6人で行っては流石に迷惑がかかるので、3人ずつ向かう事にした。


 まずは桔梗の対面に座る3人がドリンクコーナーへと向かい、3人が帰ってきたと同時に桔梗達3人がドリンクコーナーへと向かった。


 到着と同時に、桔梗は実演しながらやり方を教えていく。


「いくよ、まずはコップに氷を入れて……あとはコップをここに置いて、飲みたいもののボタンを押すだけ」


 言いながらボタンを押すと、桔梗のコップに烏龍茶が注がれていく。


「簡単でしょ?」


 頷く2人。しかし機械を殆ど扱った事が無いからか、その表情には若干の緊張が窺える。


「よし、じゃあまずはルミアがやってみようか」


「はい!」


 言って、ルミアは桔梗がやった通りにコップに氷を入れ、ドリンクサーバーへとセットし、


「いきますわ……」


 と言うと、恐る恐るボタンを押し烏龍茶を注いでいく。そして──


「できましたわ!」


 パッと表情を明るくするルミア。その表情を見て、ラティアナがはいはいと元気良く手を挙げる。


「らてぃも! らてぃもやる!」


 その声に桔梗はうんと頷くと、彼女を抱え上げる。ラティアナは桔梗が行った通りに操作を進め、見事コップへとオレンジジュースを注いだ。


 完了と同時に席へと戻る。


 その後、おしゃべりをしつつ待っていると10分もせずに料理が届く。


「お待たせ致しました。オムライスでございます」


「らてぃのー!」


 超絶美幼女なラティアナの天真爛漫な笑顔に、店員さんは思わずにっこりと笑うと、次の料理を取りに戻っていった。


 その後、数分が経過した頃には早くも全員分の料理が揃った為「いただきます!」の声の後、食べ始めた。

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