1.オムライスと信念
――
伊豆諸島と小笠原諸島のほぼ中間に浮かぶ人工島そのものが、十年先取りした最先端の科学技術が結集する実験都市である。
本格的な夏の季節が到来したその日、鋼和市北区の一角にある『クロガネ探偵事務所』に、訳ありな依頼が舞い込んできた。
「ゲーム、ですか?」
事務所の主である私立探偵の黒沢鉄哉――通称クロガネは、向かい側のソファーに座る依頼人の男――ゲーム会社ジョイフルソフトのプロデューサー・立石健吾から話を聞いていた。
「はい。ご存知かと思いますが、私たちが製作したVRMMOゲーム『ファンタジー・オブ・リバティ』のユーザーが、立て続けに『未帰還者』になっているのです」
VRMMOとは、最近になって確立された『仮想現実大規模多人数オンラインVirtual Reality Massively Multiplayer Online』の略称であり、仮想現実空間で実行されるネットゲームの新ジャンルだ。
従来は視覚聴覚のみのVRゲームが主流だったが、1999年に公開されたSF映画『マトリックス』のようにプレイヤーの五感全てを仮想現実世界に没入できるという画期的なシステムが話題を呼び、あたかも生身のままゲームの世界に足を踏み入れたかのような高いリアリティとクオリティから新世代のゲームとして人気を博している。
一方で重大なリスクも孕んでいるとも世論の一部から言われていたが、今日まで問題なくVRMMOは運営されていたのだ。
「……未帰還者」
それは何らかの原因でログアウトできず仮想現実世界にプレイヤーの意識が取り残され、現実世界の本人が目覚めないことを指す。
「原因は解っているのですか?」
「……いえ、詳しいことは。ただ、運営記録によると未帰還者となったプレイヤーは例外なく正体不明のNPCに襲われたそうです」
「NPCって、運営側が用意したキャラクターですよね? 村人Aとかモンスターのような敵キャラとかの」
「その通りです。ですが、ウチの会社では開発した覚えのないキャラクターが突然現れてはプレイヤー達を次々に襲っているのです」
ふむ、とクロガネは顎に手を添える。
「……開発していないNPCが突然現れて?」
眼鏡越しに、鋭い視線を立石に向ける。
「はい。『ファンタジー・オブ・リバティ』……略してFOLについてはご存知ですか?」
いいえ、とクロガネは申し訳なさそうに首を横に振る。ゲームには疎い方なのだ。
「タイトルからして、ファンタジー系のゲームであると推察しますが」
「その通りです。剣と魔法を中心に、神話に出てくる幻想的なモンスターを相手に戦う王道RPGなのですが……」
立石はPID――鋼和市の住民票も兼ねている携帯情報端末を操作し、ホロディスプレイに画像データを呼び出す。
「これが、問題のNPCです」
黄昏の廃城をイメージしたゲーム内のステージを俯瞰的に捉えた画像には、全身にフィットするような防弾アーマーとガスマスクに似た形状のマスク、近代的な装備で固めた集団が映し出されていた。そして手にしているライフルで、剣士や魔法使い達に向かって大量の銃弾を浴びせている。
幻想的な世界観を完全に無視した異形の存在と異常な光景を切り取った一枚だ。
「……ファンタジーからかけ離れてますね」
「そうでしょう? キャラクターデザインを担当した者も『こんな異物を作った覚えはない!』と怒りを露わにしていました」
未帰還者の原因と思しき近代的なNPCに、ファンタジー系のゲームを作ったメーカー側は関与していないとすれば。
「外部からのハッキング、もしくはウィルスなどのサイバー攻撃の可能性は?」
「それも考えてウチのプログラマーと一緒に専門家に調べて貰ったのですが、ログ一つどころか痕跡すらないものでして」
「しかし、現にこのNPCはそちらが作ったゲームに現れたのでしょう?」
「プレイヤーを襲った直後、連中は一瞬で消えてしまうのです」
「消える?」
「はい。普通、このような装備や大量の銃弾を発射するモーションなどは情報量を取るので記録にも残るのですが、プレイヤー達を倒した連中が消えた途端にその記録も消えてしまって……偶然捉えたこの画像データしか手掛かりといえるものがないのです」
再び画像に目を落とす。幻想の世界に似つかわしくない、現実寄りの武装集団。
「警察には?」
「ここに来る前に今お話ししたことを全て話しましたし、この画像データも提供しています」
そう話す立石の顔には、疲労と憔悴の色が浮かんでいた。
数日前からFOLの未帰還者が218名に上ったと報道では話題となっており、警察の聴取やマスコミの取材などで心休む暇もないのだろう。ましてや事件の中心になっているのは自分たちが作ったゲームだ。情熱と心血を注いで世に送り出した作品が、ゲームを楽しむ多くの人間の命を脅かしているかもしれないと気が気でない。
「これ以上の犠牲者を増やさないための対策はどうなってます?」
「運営側の監視の強化と、定期メンテナンスの間隔を月一回から二週間に一回に変更したくらいです」
驚いた。未帰還者が多数出ている中でも、問題のゲームは今も稼働しているという。
「安全が確認されるまで、ログイン出来ないようにしたりはしないのですか?」
「FOLのみならず、今のネットゲームはほぼ全てに課金システムを導入しています。ゲームの開発資金を初めスタッフの給料、会社の運営費など、ユーザーからの課金で賄っているので、そう簡単には……」
「なるほど」
言われて納得する。問題解決のためのメンテナンス作業は、その間課金という名の収益が得られないばかりか、長引けば長引くほど金を落としてくれるユーザー=プレイヤーが離れて行ってしまう悪循環に陥りかねない。
「……加えて、未帰還者となったユーザーはご家族のいる自宅、もしくは病院の方で保護されています。その治療・入院費も元より、後々の慰謝料も我が社で支払う予定でして……その……」
「財源はユーザーの課金が頼みの綱であるため、FOLを凍結することも出来ないと」
「……その通りです」
未帰還者の大量発生というVRMMO業界に大打撃が入る事件(あるいは事故)でありながら、会社と社員の生活のために問題となっているゲームを凍結することが出来ず、更に犠牲者が増えていくかもしれないというジレンマ。マスコミなど外野からの批判も日増しに厳しくなることが容易に想像できるだけに、この依頼人には同情してしまう。
「……これまでの話から察するに、依頼内容はそちらのゲームで続出している未帰還者の原因調査、ということで良いですか?」
「……可能ですか?」
恐る恐る立石は確認をしてくる。その目は藁にも縋る思いだと雄弁に語っていた。
「可能です。私の助手は特にネットやプログラムに強い優秀な逸材でして、そちらからの依頼を達成するに不足はないかと思います」
そう断言すると僅かに安堵の表情を見せる立石。だがすぐに苦悶に満ちる。
「……勝手だと重々承知の上で申し訳ありませんが、可能ならば本日から一週間以内に原因を突き止めて貰ってもよろしいでしょうか?」
短期間での早期解決を希望するのは、立石が所属するゲーム会社の財源が切迫しているからだろう。調査が長引けばその分の報酬額も少なくなる、それはクロガネも望んでいない。
「解りました。それでは報酬ですが、三〇万円でこの依頼をお引き受けましょう」
「三〇万、ですか?」
立石が驚いた表情を浮かべた。
「期日である一週間を過ぎても原因が解明されなかった場合は、相談料として十分の一の三万円だけ頂きます」
「さ、三万……」
「何か?」
「い、いえ、それでお願いします」
こくこくと慌てて頷く立石に、契約書を差し出す。
「それではこちらにサインを。それと、この画像データと未帰還者となったユーザーに関する資料をお借りしても良いですか?」
「それは……画像の方はともかく、ユーザーの資料に関しては個人情報も含まれるので外部への持ち出しは厳禁なんです。申し訳ありませんが、会社の方でスタッフ立ち合いの元による閲覧という形でなら何とか……」
恐縮する立石に、クロガネは頷く。
「解りました、それで充分です。私の方も『外部にあらゆる情報の流出・漏洩をしない』という旨を契約書に明記しておきましょう」
「それは助かります」
完成した契約書をコピーして控えを残し、立石に原本を渡す。
「それではこれから会社の方に伺ってもよろしいですか?」
「勿論です。行きましょう」
クロガネは身支度を整えると、立石と共に探偵事務所を後にした。
「というわけです」
「それで美優ちゃんはお留守番と」
探偵助手の安藤美優が、クロガネと入れ違いでやって来た海堂真奈に、彼の不在理由を説明した。
ちなみに美優は食材の買い出しで依頼を聞く場には居なかったが、クロガネの多機能眼鏡越しにリアルタイムで今回の情報を共有している。
「真奈さんがここに来た理由は?」
真奈は鋼和市西区の大学病院に勤める機械義肢専門の医者であり、デミ・サイボーグであるクロガネの担当医だ。仕事上がりにわざわざ自宅マンションよりも距離のある探偵事務所に足を運ぶ理由は、何となくだが察しは付く。
「んー? 特にないよ、強いて言うなら遊びに来た」
「……でしょうね」
半分は嘘だと美優は確信していた。来て早々に真奈は彼の姿を目で捜していたのだから。
二人は事務所にあったテレビゲームで対戦して遊んでいる。
「鉄哉も薄情よねー。超優秀な美優ちゃんも一緒に連れてけば良いのに」
「クロガネさんは役割分担って言ってました。『万一、俺が身動き出来ない状況になった時は美優に引き継がせる』って」
「それ保険じゃないの? 効率的ではあるけど縁起でもないわね」
「私を信頼してくれた故の判断です」
「そう言うと助手っぽいわね」
「名実ともに助手ですよ。クロガネさんの女房役です」
「その例えはやめなさいって前にも話したでしょう、がっ」
さらりと涼しい顔で言い放つ美優のキャラに向かって、苛立ち混じりに強攻撃をぶちかます真奈。
しかしそれを読んでいた美優は見事なカウンターを返し、派手なエフェクトと共に真奈が操るキャラが場外に吹き飛んだ。
「ああもう、また負けた!」
「これが、正妻ぱわー」
「ええい、まだ言うかっ」
キャラクター選択画面で次は何を使うか、お互いに吟味する。
「それにしても、今回の報酬は三〇万円で達成できなければ三万円とか、妥当というか随分と良心的な金額設定ね」
「相手の方も驚いていました。もっと値が張るかと思いきや、想像以上に安かったのでしょう」
「未帰還者の入院費や慰謝料の件もあったから鉄哉が遠慮したんでしょう。相変わらず、変なところで真面目というか甘いというか」
「そこが良いんですよ」
誇らしげな美優に、
「……解ってるじゃない」
何故かドヤ顔をする真奈。
「助手なので」
「それはもういいから」
「正妻なので」
「それは違うからっ」
あーだ、こーだ言い合いながらも、二人は楽しくゲームに興じるのであった。
陽が沈んでもクロガネが戻らなかったため、真奈は中央区の自宅マンションに帰宅する。
一人暮らしのため応答する者は居ないと知りながらも、
「ただいまー」
つい習慣で帰宅の挨拶を告げる。すると、
「おかえりー」
聞き覚えのある声が返ってきて驚く。
「あれ? 鉄哉?」
「ちょうど良かった。夕飯が出来たところだから手を洗ってこい」
「うん」
素直に手を洗って美味しそうな匂いが漂うダイニングに戻ると、粗方部屋が片付いていた。
かつて、とある事件で致命傷を負い、莫大な治療費を肩代わりしてくれた見返りとして、クロガネは定期的に家事をしに真奈の家へ訪れるのだ。勿論、合鍵も真奈から預かっている。
「どうしたの? 今日は家事しに来る日じゃなかったでしょ?」
そう言いつつも、突然の来訪に真奈は満更でもない。
「ああ、連絡もせずに勝手して悪かった。あまりの散らかり具合に掃除に夢中になってしまってな」
遠回しに「だらしないぞ、このズボラ女が」と言われた気がしたので少しムッとなる。
「流石に脱いだ下着くらいは自分で洗ってくれないか?」
困った表情を浮かべるクロガネにニヤリとする。
「なぁに? 私の生下着に興奮した?(ニヤニヤ)」
「いや? 手で洗うのか洗濯機にそのまま入れて良いのか解らん」
「えっ、そっち?」
予想と異なる淡々とした反応に肩透かしを食らう。
言われてみれば、脱衣場に置いてある洗濯機が音を立てて稼働していた。
「とりあえず洗濯ネットに入れて洗濯機へ放り込んだけど、あの黒くて妙にエロい下着は値が張りそうだったな。もしも縮んでいたら申し訳ない」
「いや多分大丈夫だから洗濯物に関する話題はとりあえず横に置こうっ」
あまりに淡々とした主夫っぷりに返って真奈の方が気恥ずかしくなる。
「それで? 今日はどうしたの?」
「ああ、実は今回受けた依頼の件でなんだが」
「大体のことは美優ちゃんから聞いてるわよ。未帰還者が出たゲーム会社からの依頼って」
クロガネの表情が僅かに曇る。真奈とは親しい仲とはいえ、守秘義務である依頼内容を話した美優に思うところがあるのだろう。
「……話が早い。未帰還者の原因は、ゲーム内に現れた謎のNPCによる可能性が現時点で濃厚だ。そこで近々、俺が例のゲームにログインして調べようと思ってる」
大きめの紙袋の中から、ヘッドギア型の装置を取り出す。
「それ、PSギアの新型?」
「ああ、依頼人に無理言って借りてきた」
『Play Stars』と呼ばれるゲーム機、その次世代VRMMOに対応したヘッドギアタイプである。民生用フルダイブ型VRマシンであり、ユーザーの脳に直接接続して仮想の五感情報を与え、仮想空間を生成するのが最大の特徴だ。
「ゲーム会社で調べたところ、未帰還者となったユーザーの大半は
「そりゃあ、FOLの解像度や情報処理に合わせた仕様だから使っているユーザーも多いわね。でも旧型だってデータの随時アップデートが可能だから、直接の原因である可能性は低いんじゃないかしら?」
「俺もそう思うが、可能性が少しでもある以上は調べておきたい。確か海堂は旧型のPSギア持っていたよな?」
「持ってるけど?」
ゲーム以外でも各種専門職の訓練用機材としてPSギアを採用、職員に支給していること自体、今では別段珍しくもない。真奈も研修医時代では外科手術のVR訓練を積んでいたくらいだ。
「新型と一緒に分解して、比較検証を頼めるか? 例えば未帰還者になってしまいかねない特殊な装置が積んであるかどうか、とか。出来れば、明後日までに調べてほしい」
何となく、クロガネが家事をして待っていた理由が解った気がする。
「え? そんなのメーカー側に頼めば良いじゃん」
「そのメーカー側が黒幕の可能性もある」
「……用心深いわね。良いわ、私で解る範囲でならやってあげる」
「ありがとう、助かる」頭を下げるクロガネ。
「でもソフトやプログラム関係は専門外よ」
「それは美優に任せるから大丈夫だ。それと、もう一つ頼みがあるんだが」
「何かしら? 聞くだけ聞くわ」
頼み事を聞いた真奈は即快諾した。
「良いのか?」
「別に構わないわよ。むしろ私にもメリットがあるし」
浮かれそうになるのを必死に抑えて素っ気なく言う。
「ありがとう。それじゃあ、この辺でお暇するよ」
「あれ? もう帰るの? 一緒にご飯食べてかない?」
作ったのはクロガネだが、とりあえずそれは棚に上げて引き留める。
「美優が一人で待ってる」
「……美優ちゃんに甘いわね。お嫁さんだから?」
「せめて助手と言え」
お邪魔しました、と言ってクロガネはさっさと帰ってしまった。
残されたのは真奈と、テーブルに置かれたヘッドギア型のゲーム機、そして作って貰った夕食である。
「オムライスにサラダにコンソメスープ、そしてデザートの杏仁豆腐にアイスティー……フルコースね」
真奈の好物を中心に豪華な食事をクロガネが用意する時は、大抵は何かを頼む時である。
「これは前金代わりに美味しく頂くとして」
改めて綺麗に片付いた部屋を見回す。
クロガネも去ったせいか、不思議といつもより広く感じられた。
「……ちょっと寂しい、かな」
ぽつりと、本音が零れた。
「あ、おかえりなさい」
探偵事務所兼自宅に帰宅すると、猫のロゴが入ったエプロン姿の美優が笑顔で出迎えた。
「ただいま」
「ご飯にします? お風呂にします? それとも……」
思わせぶりな微笑を浮かべた美優は、エプロンのポケットからゲームのコントローラーを取り出した。
「一狩りします?」
斬新な新婚三択だ。結婚してないけど。
「飯で」
さらりと応えて美優の横を素通りし、手を洗う。
「……もうちょっとこう、良い反応が欲しかったです」憮然とする美優。
「遊ぶにしても腹が減ってんだよ、こっちは」
最近、彼女の言動が真奈に似てきた気がする。共通の趣味がゲームであることも影響しているのだろうか? 単に遊び相手というか、美優と関わる人間が自分と真奈の二人ぐらいしか居ないせいかもしれない。それはそれで彼女の成長を妨げている気がする。
「……美優、今日受けた依頼内容を海堂に話しただろ?」
「はい、話しましたが?」
「依頼人の情報は基本的に守秘義務だ。例え親しい身内でも軽々しく明かすんじゃない。まずは俺に連絡と相談をしろ」
「あ……ごめんなさい……」
言われて事の重要性に気付いたのか、気まずそうに顔を伏せる美優。
「……いや、別に怒っているわけじゃないんだ。以後、気を付けてくれればそれで良い」
「はい、気を付けます」
真顔で宣誓する美優を見て、クロガネは今回の依頼が片付いたら彼女を学校に通わせてみようかと考える。
「ならばよし。それはそれとして」
テーブルに並べられた夕食を見る。出来立てなのか温かい湯気と共に、食欲をそそる美味しそうな匂いが漂っていた。
「オムライスか」
他にサラダとコンソメスープも並べられている。先程、真奈に作ってあげたものと全く同じメニューだ。これは偶然ではなく、
「……トレースしたんだな」
「はい」と頷く真奈。
ネットに接続されてあるものならば、瞬時にその機能と情報を掌握する並外れたハッキング能力――それが安藤美優というガイノイド(女性型アンドロイド)が有する機能だ。
クロガネが普段から掛けている眼鏡はネット接続が可能な特注品であり、それをリアルタイムで介して先程の料理の手順を完璧に模倣したのだろう。
「……あの、いけなかったですか?」
「いや?」
勝手に
「俺もオムライスが食いたいと思って作っていたから問題ない。冷めない内に食べよう」
「はいっ」
嬉しそうに微笑む美優と共に食卓に着く。
「「いただきます」」
幸せそうにオムライスを頬張る美優を見て、彼女がガイノイドであることを忘れてしまいそうになるが、最近はそれで良いのかもしれないと思うようになってきた。
人間のように笑って、悲しんで、食べて、飲んで、遊んだりすることが出来る彼女は、『人間になろうとするガイノイド』だ。
最初の出会いこそ突然だったが、半分は彼女自身の意志で、もう半分は他ならぬ自分自身の意志で一緒に居ることを選んだのだ。
共に歩む以上、相方の夢の一つや二つ、理解しなくてどうする。
元は機械である彼女が『人間』を目指すのなら、元が人間である自分が応援するのが筋だろう。
「――――」
クロガネの脳裏に浮かぶのは、今は亡き少女にして安藤美優の開発者。
そして目の前に居るのは、かつて救えなかった彼女の大事な『娘』だ。
――今度こそ、守ってみせる。
およそ三ヶ月前、美優と初めて出会った事件を振り返る。
単に高い情報処理能力やハッキング能力が目当てで、彼女を助手として迎え入れたわけではない。
獅子堂莉緒。若くしてこの世を去った美優の
かつて救えなかった彼女の忘れ形見を守り抜く。
それが、かつての自分を救うことだと信じて。
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