玉座

 玉座の間で遮蔽の陰に身を隠しながら、ぼくはクラファ殿下の到着を待つ。ここから先に戦闘があるかどうか不明だけど、念のためM4カービンの使い切った弾倉に弾薬を装填しておく。銃身下装着アンダーバレルショットガンには鹿撃ち用大粒散弾バックショットを込めた。ホルスターの9ミリ軍用拳銃M9と主武装のM4で、大概の状況には対応できるはずだ。

 いざというときにはインベントリの軍用散弾銃モスバーグには熊撃ち用一発弾スラッグを入れてあるし、M−79グレネードもある。


 室内いっぱいに生い茂っていた世界樹の枝葉どんどん萎びて、玉座の間は本来の姿を取り戻してきていた。部屋の奥に、玉座と思われる大きな椅子が現れる。


「マークス!」

「陛下、こちらです!」


 念話の声と重なるように、聞こえてきたのは陛下の肉声だった。ぼくは周囲を警戒しながら、階段から上がってくるクラファ陛下を出迎える。

 長大なM14ライフルを背負った陛下の後に元兵士の護衛エルフが四人と“クラファ派クラフィカ”のエレオさんが続き、そのまた後ろから丸腰の少女がポテポテと歩いてくる。正体が巨大な瑞龍オーギュリと知らなければ場違いにしか思えない呑気さだ。キョロキョロと周囲を見渡しているが、その表情は警戒というより好奇心が強い。


「陛下、“眷属”たちは」

「外には、もう残っていない」


 イモリのようなオランウータンのような怪物は殲滅したようだ。元は偽王ヘルベルと魔導師オーヴァインによって利用されたひとたちの成れの果て、と考えれば哀れに思うけれども。いったん怪物化してしまえば、ぼくらに救う術はない。


「クラファ、玉座へ」


 オーギュリが部屋の奥を指す。エレオさんから、“世界樹に登極の宣誓を行う必要がある”と聞いていたから、その儀式か何かを行うのだろう。


「マークス、クラファと一緒に行け」

「ぼくも? ええ、わかりました」


 オーギュリに促されて、陛下の後を追う。クラファ陛下が玉座に近付くと、最後に残っていた世界樹の枝も粒子のように分解されて霧散する。床が瞬き、玉座の椅子が淡い光を帯びた。


「世界樹に宣誓、するんですよね? 枝が、消えてしまいましたが」

「問題ない。玉座は世界樹と繋がっている。さっきまで見えていた枝は、道筋を乱すだけの夾雑物ジャマものでしかない」


 なるほど。問題ないようで良かった。

 クラファ陛下が玉座に腰掛けると、オーギュリが龍形に戻って短く鳴き声を上げた。椅子の周囲に纏われた光が高まる。城全体が、大きく揺れ始める。


「ちょ、いま、なにを……」

“みことのりの、あいず”


 龍形のオーギュリは、念話になっても少し口調がぎこちないものになる。みことのり、というのは……クラファ陛下が行う詔勅しょうちょくのことか。この世界でのルールは知らないけど、元いた世界の知識でいうと“天命を受けた君主が臣民に伝える言葉”だったはず。

 クラファ陛下は小さく息を吸うと、迷うことなく言葉を発した。


「我が名は、クラファ・エルロ・ヒュミナ。エルロティア王家の血を引く者。偽王ヘルベルより取り戻したエルロティアの王位を、ここに継承する」

承認あくなりじ


 ひときわ大きな揺れの後で、城外から歓声が伝わってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る