オーヴァイン
ぼくの挑発は上手くいかなかったようで、オーヴァインから反応はなかった。けれども、室内のどこからも何の反応もなかったことで、生存者の可能性がないこともわかった。
いるとしたら伏兵だが……ぼくは
「生存者がいるなら交渉に応じてやってもいいぞ。ひとり解放するごとに半刻、殺すのを待ってやる」
帰ってきたのは沈黙だけ。奥でわずかに青白い光。慌てて遮蔽に逃げ込むと一瞬の間を置いて入り口のドアが爆炎に包まれた。
交渉は決裂。懸念事項が消えたのは不幸中の幸いか。もう殺すべき相手しか残っていないと判断して、気配のある方に散弾を叩き込む。ポンプアクションで次々に流し撃ちして位置を探ると、音も気配もしないまま先刻とは違う場所で青白い魔力光が瞬いた。攻撃魔法は飛んでこない。となれば魔導防壁か治癒魔法だ。使った分の散弾の代わりに
「……ッ!」
息を呑む気配と着弾した感覚。いままで見えていなかった小太り男が部屋の隅に現れ、血反吐を吐いて倒れる。念のためスラッグ弾でとどめを刺す。着弾した身体はぶるんと震えて肉片を飛び散らせるけれども、そこに生命が残っているような反応はなかった。恐ろしげな前評判のわりに、ずいぶんと呆気ない。
「陛下、オーヴァインを射殺しました。これから魔法陣の破壊に向かいます」
“注意しろ、起動中の魔法陣は周囲の魔力に反応して取り込もうとするぞ”
「了解です」
M–79に持ち替えて、部屋の奥にあるであろう玉座へと向かう。ジャングルのように張り巡らされた世界樹の枝が少しずつ萎え始めているのがわかった。それが良いことなのか悪いことなのか判断がつかない。
枝葉に覆われていた床が露出し始め、淡い光を放つ魔法陣が視界に入ってきた。何重にもなったうち最も内側の円だけがゆっくり回転している。あんまり魔力を持っていないはずのぼくでも、少しだけ引き寄せられる感覚がある。それは近付くほどに強くなる。
「擲弾発射」
シュポンと音を立てて飛んで行ったグレネードが魔法陣の端で爆発する。感電したかのようにバチバチと魔力光が飛び散って、すぐに光が消えた。
「魔法陣が、消えました」
“良くやった、マークス。わたしが玉座に魔力注入すると城の機能が回復するはずだ。何体か残っている眷属を倒したら、そちらに向かう」
「それで、登極が認められるわけですね」
「わたしに王の器があるならば、だがな。瑞龍の加護があるようだから、まず問題はなかろう」
ホッとしてオーヴァインが倒れていたところを見ると、床の血糊だけを残して死体は消えていた。
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