ステアウェイ・トゥ
いまいる三階から、ふたフロアぶち抜きで真っ直ぐに通された階段。吊り橋のようなそこを進んだ先にある上層は五階。吹き抜けの傾斜を延々と百メートル以上は進む必要があるけれども、ゴールまではもうチョイだ。
問題は、中層階の左右に配置されている初代王とかいう太ったエルフ像。その台座は隠す気ゼロなくらい思いっ切り銃眼だ。……相手の武器は銃じゃないから、射眼か。装備が弓か投石器か魔法の杖かまでは見えないけど、ひとの気配はある。配置されているのはヘルベル派閥の兵だろう。逃げ場も遮蔽もない階段を上る側は、無防備なまま攻撃に晒される構造だ。玉座の間にすんなり突入できる方がおかしいと、いわれたら確かにその通りだ。それはそうなんだけど、このまま馬鹿正直に突っ込んでは良い的だ。
銃火器を持ってても、けっして楽ではない。なにせこの吹き抜け階段、安全な位置で狙い放題なのは迎撃側だけだ。侵攻側にとっては横も足元もスカスカのほぼ素通しなのだから。
エルフ像の台座は見た感じ金属製で、射座を作ってるくらいなんで強度はあるんだろう。射眼は開閉可能な蓋付きの郵便ポストみたいな印象。要点だけいえば、ぼくの射撃で通せるサイズではない。ここまで活躍してきた催涙ガスも、吹き抜けの踊り場に配置された箱――しかもその内部――に届くほどの量となるとあまり現実的ではない。
フルサイズ小銃弾を連射できるMG3あたりで、ひと当てしてみるか。何十発か撃ち込めば、まぐれ当たりで飛び込む可能性もないわけじゃない。
“マークス、無事か”
「ああ、陛下。すみません、お待たせして。いま吹きっ晒しの階段で伏兵に足止めされてますが、どうにかします。急ぎますか?」
“いや。いまのところ眷属の送出は止まっている”
それは逆に、あまり安心できる話ではないかも。創造か改造か、送り出すために新たな化け物のクリエーションを行なっているからではないかと思ってしまう。
「了解しました。可能な限り早く、突破します」
“頼む”
さて。ぼくはイベンベントリーを開いて汎用機関銃MG3を出す。いまいる壁際から動かないのだから、五十連の弾帯を納めたドラムマガジンではなく、百発入った弾薬箱から弾帯を引き出して使う。
距離は三十メートル前後か。射眼を狙ってはみるが、入るかどうかは時の運だ。
ボルトを引いて数発ずつ指切りしながら7.62ミリNATO弾を射座に向かって送り込む。最初は右だ。太っちょエルフ像の下で火花が飛び散り、数十発を叩き込んだところで弾ける火花に青白い光が混ざる。攻撃魔法かと思ったが、こちらには何も飛んでこない。となると、魔導防壁か治癒魔法か。
「ぐぁッ⁉︎」
悲鳴と呻き声と射座でのたうち回るような音。死んではいないようだが、被弾はした。負傷した伏兵が内部の壁を叩きながら悶えているのだろう。その金属音でわかった。あの箱、案外脆い。ブロンズ像みたいのを支えてるから側面に厚みはあると思うけど、少なくとも射眼周辺を防御する金属板は薄い。それはそうだ。こちらの世界の軍事常識でいえば、せいぜいが長弓の鏃を防げれば良い程度の想定なんだから。
気を良くしてMG3の射撃を送り込むと青白い光は消えて、台座の下にある隙間から血が流れ出した。その量を見る限り、伏兵はひとりではなかったようだ。
左の射座に振り向けると、弾帯の残り十発ちょっとを小刻みに狙いながら叩き込む。
「ッ!」
声にならない緊張が音ではなく感覚として伝わってきた。撃った弾丸が標的を貫いたときの感覚。MG3を回収して、M4カービン装備で階段を上る。左のエルフ像のところまで走って台座を見ると、射眼周辺は歪んで貫通した弾痕が残っていた。M4の銃口を差し込んで、内部を掃射する。次に右の射座にも同じようにとどめの一連射。内部からは何の反応もなかった。
弾倉を交換して、そのまま階段を駆け上がる。周囲にひとが隠れられるような場所はない。登り切った先のフロアを覗くが、ガランとしたそこにはろくな遮蔽はなく、伏兵が配置されている気配もなかった。
変な感じだ。王都も王城も、空き家のような廃墟のような……なんというか、
「陛下、階段突破しました。もう少しで玉座の間につながる階段に……」
“待てマークス、そのまま突っ込むな。絶対に罠がある”
「罠?」
“ああ。ヘルベルを
執拗に襲ってきてた薄気味悪い奴らか。エレオさんによれば、“精強でありながら兵士として軍務に就けない性格異常者”、だっけ。
それの局長ということは、まあ一筋縄では行かないんだろうな。
“特殊魔導の研究者で、
そっか。そうなんだ。もしかしたら、拙いかも。このフロアに入ってから、ちょっと体調がおかしい。具体的にいうと……
誰かを殺したくて堪らない。
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