エネジーゲイン

 焼け焦げた森と死体から離れること数キロ。ぼくと姫様はフェレットの屋根に腰掛け、軍用糧食レーションを齧っていた。フランス軍の一日三食分をふた箱、開封して好きなものを取ってもらう方式だ。

 ビスケットにジャム、キャラメルムースにチョコムース。甘いものばかりだな。これも甘そうなチョコ味ミューズリーの袋は箱に戻した。

 飲み物はペットボトルに粉を入れたエナジードリンク。これも甘い。ココアもあるけど以下同文だ。兵隊がカロリーとモチベーションを得るのには糖分が最適なのかな。

 メインディッシュらしき缶詰は穀物とチキンの入った何か。パッケージが読めないので正体は不明だけど美味い。姫様は何かのシチューを美味しそうに食べている。

「こちらの小さいのは……乳酪か」

「ええ、チーズですね。ビスケットそれに付けて食べるんだと思いますよ。良かったらこっちの……魚のペーストもどうぞ」

「ふむ。今度のは、どれもなかなか美味いな」


 ぼくも姫様も、周囲を警戒しながら積極的に迅速に食べ物を口に運ぶ。食欲とは無関係に、戦う力を得るために食べる。いざというとき、ガス欠になるような下手は打たない。ここから先は、ゆっくり食事を摂る余裕などない。片手で詰め込めるチョコやらフルーツやらのエナジーバーとミネラルウォーターは、車内で取り出しやすいように空き箱にまとめる。


「ここからヘルベルのいる場所までは、どのくらいです?」

「王城であれば、あれだ」


 姫様が指したのは、次第に急になる傾斜の先、山脈の上にそびえる高峰だ。

 麓に近い現在地から城までは見えないけど、水平に広がった部分は建物が折り重なって人口密集地がある感じはする。

 直線距離で二十キロほどか。飛行機かヘリでも操縦できればと切実に思う。しかしまあ、現実問題としては“空が飛べたら良いのに”くらいの夢物語だ。買えて乗れても生還できない。


「山道を行くと、優に百キロ五百ファロンはありそうですね」

「あるかもしれんな。もう少し逃げ隠れしながら最短距離を近付く想定だったが」


 そこに到着した暁にはクラファ“陛下”になるであろうクラファ殿下は、苦笑して笑った。


「数百の攻撃魔法と数千の鏃を掻い潜っての誅伐行となる」

「お供しましょう。どこまでも」


 見上げた傾斜の先に、赤黒い煙が見えた。赤色烽火せきしょくほうか。ぼくらの位置を知らせる、エルロティア軍の招集信号だ。

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