首都前ブレイク
対岸に渡ったところで、ようやく周囲を見渡す余裕が出た。急勾配の堤防を登った先に、ハンヴィーが停車しているのが見えた。こちらもその隣に停める。停車前には百二十度ほどターンして、後続がいないことを確認した。途中でタイヤがなんか踏んだけど、見なかったことにする。
追ってくる敵は見当たらない。鉱山はあちこちが崩れて炎上したらしく、いまも数箇所が燻っている。アルフレド王は“廃鉱だから問題ない”といってたけど、道路自体が通行不能になっているかも。いや、なってる。
「……死ぬかと思った」
「大袈裟だなマークス、わたしたちの射撃を信じていなかったのか。わたしと銃兵部隊で八割がたは仕留めたぞ?」
「姫様、そちらじゃないです。あの……ゴーレム橋ですよ」
そのゴーレムも、敵の排除が住んで定位置に戻ったようだ。いまは多少デコラティブな橋にしか見えない。
いっぺん小休止しようということになって、銃兵部隊の兵士が周囲を警戒しつつ休憩に入る。
「お茶を沸かしますが、火の気はどのくらい離した方が良いですか?」
「ああ……焚き火は止めときましょう」
現場指揮官であるモラグさんは“ガソリンやディーゼル燃料が引火すると爆発するので火気厳禁”、という話を覚えていてくれたようだ。実際、自動車に接する機会が多い人間ほどあまり意識していなかったりするんだけど。
車体やタンクを損傷しているかもしれないので、裸火を扱うなら十メートル以上は離したい。けど装甲車両から距離を取るのも危険なので、お湯を沸かすのを止めてインベントリーから出した菓子と携行食とミネラルウォーターを配る。
甘いものが珍しいのか、菓子類はひどく喜ばれた。
チョコの掛かったエナジーバーみたいのを皆でモリモリ食べながら、王とサシャさんを中心に今後のルート取りを検討する。当然ぼくも聞いてはいるけれども、基本ハンヴィーに付いてくだけだ。いざとなったらモラグさんにナビゲートしてもらう。
「では、この先はほぼ一本道というわけですね」
「ああ。とんだところでケチがついたが、首都までは残り
「サシャ殿、ここから首都までの間に待ち伏せの可能性は?」
「先ほどのような事態を発生させた以上、“ない”という資格はありません」
姫様の質問に、情報部出身のサシャさんが困った顔で答える。
エルロティアの部隊が海岸線に布陣していたというなら、それは海上から揚陸された戦力なのだろう。侵略に興味がないコルニケアは外征能力が低く、海戦力も海上輸送網も海岸線の防衛も代々あまり得意ではない。敵の侵入を許したのは軍および情報部の責任ということにはなるが、そもそも全軍で二百とかいう常備戦力で海岸線を守り抜けるわけがない。
「ただ、ここから先は内陸です。首都周辺には常備戦力も置かれていて監視防衛網もあります」
サシャさんはその先を口にしないけれども、
納得した姫様は、ふと気付いたようにアルフレド王を見る。
「ところで陛下、なぜ首都を
ハンヴィーの屋根に腰掛け、周囲を双眼鏡で観察していたアルフレド王は、ぼくらを振り返ってしぶーい顔をした。
「……お前らもな、自分が一生暮らすことになる街が、“クラファニアとか、“マークスニア”って名付けられたら、呼びたくない気持ちがわかると思うぞ?」
「「なるほど」」
コルニケアの首都が“アルフレディア”なのは、“俺の名を冠した街”という意味ではなく、“首長の街”くらいの意味だったようだ。
そもそも王が代々“アルフレド”なのも、野生動物でいう“
「では陛下、我々は首都まで先行します」
「おう、気を付けてな」
「では、こちらも行こう。ハンヴィーの運転は俺がやる。銃座は……」
「自分が」
「いえ、わたしに是非」
どうやらドワーフも人間もハーフも含めて、コルニケアのひとたちはみんな新しい機械を見ると触りたくて動かしたくてウズウズするタイプばかりのようだ。子供っぽいところがあるのか、技術屋の血なのか。
「マークス、戦闘の間は我慢していたが、わたしも“びーてぃあーる”を動かしてみたいぞ」
姫様も、どうやら気質はコルニケア人に近いようだ。
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