残骸

「……なん……だ、そりゃ」


 アルフレド王はハンヴィーの銃座で、唖然とした顔のまま固まっている。うん。ぼくも同感だけど。

 BTRから降りてきた銃兵部隊の面々も、綺麗さっぱり焼き払われた射線上の光景を見て静かに頷く。


「マークス殿、なんです、あれ」


 困惑した表情のモラグさんが、ぼくに尋ねてきた。自分が知りたいのもあるだろうけど、部下や王たちの意見を代表した感じでもある。


「ええと……重機関銃って、話しませんでしたっけ」

「ええ、第二王子を吹き飛ばした、“こーど”とかいう?」

「そうです。それの親戚みたいなもので、少し威力が高いんです」

「少しじゃねえだろ。いや、その“こーど”も話で聞いただけだけどな」


「銃兵部隊、ケレル組は陛下の護衛、ハイラル組は残敵の捜索と掃討だ」

「「「はい、副長!」」」


 アルフレド王もハンヴィーから降りて焼け跡に向かう。周囲に銃兵部隊の半分とサシャさんが護衛として付くが、動くものは何ひとつない。そもそも、遮蔽物がない。

 クラファ殿下は、なんとなく気拙げに“やってしまった”顔である。別に悪いことは何にもしてないんだけど、破壊の跡があまりにも凄いので怯んでしまったのだろう。


「なんも残ってないな」

「わ、わたしのせいではないぞ⁉︎」

「わかってるさ、そんなことは皆な。マークスの持ち込む武器は、どれもこれも異常だ。国家間の、力の均衡を崩す。というか、国ごと崩壊させてるから、それ以上か」


 アルフレド王は面白い冗談みたいにいうけど、誰も笑わない。笑えないよね。ぼくらとの出会いがたまたま友好的だっただけで、ボタンを掛け違えてたらその“崩壊させられる国”に自分たちがならなかったとも限らないんだから。

 実際には、ケウニアとヒューミニアの連中が殲滅されたのは――そしてきっとエルロティアの連中が殲滅されることになるのも――姫様に危害を加えようとしたからなんだけど、ふつうは自分たちだけが安泰だとは考えない。おかしな話だけど、“まともなひと”ほど、自省するのだ。


「陛下」


 残敵掃討を担当していた銃兵部隊の兵士が駆けてきた。倒した盗賊団を尋問していたらしく、王に何か手渡して説明している。


「クラファ、マークス」


 王が見せてきたのは、大小様々な棒。マークスの知識によれば、魔術杖ワンドという魔法の杖だ。それが、何本もある。


「盗賊団にも魔導師がいたんですか?」

「いや、略奪品だな。これはコルニケアうちの魔導師のものだ」


 ぼくもマークスも知らなかったけれども、王によれば魔法の杖は体格と得意な魔法属性で大きさや形体が違うものらしい。そして、国や運用思想によってデザインも違う。ということは……


「ここの連中、コルニケアの魔導師を襲っていたわけだな。ほとんどは新人の使う安物だが、いくつかそこそこの高位魔導師も混じっている」

「魔導師狩り? 盗賊がそんなことをして、何の利益があるんですか?」

「利益は、特にないな。魔導師が持ってる金目の物は、たいがい魔道具か杖だから換金性が低い。危機察知能力と戦闘能力は高いから、襲う側としちゃ割に合わん。わざわざやるとしたら、国威を貶める目的を持った者だけだ」


 アルフレド王は、モラグさんたち銃兵部隊が調べている焼け跡を指す。


焼け跡あそこにいたのは国外の魔導師じゃねえかと思う。流れでいえばエルロティアか。残骸が残っているかどうかは知らんがな」

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