アフガン帰り

 目の前に現れた砲塔付き八輪装甲車両の異様さに、アルフレド王と護衛のサシャさん、そして銃兵部隊の首都帰還組十三名は揃って固まった。


「マークス、これが、“せんしゃ”か?」

「いいえ。装輪装甲車ですね」

「“はんびー”の親戚か」

「まあ、そうです」


 結局、新しい車両は旧ソ連のBTR-70にした。トラックかバスを買っても良かったけど、首都に着いたら使い道がない。王に渡しても持て余しそうだし。あまり良い在庫がなかったのもある。

 戦車も考えたけど、長距離移動が前提なので非効率過ぎる。それに、ぼくと姫様では運用できない。操縦方法も知らないし、120ミリ砲で撃つ相手もいないだろう。


 BTR-70と60の在庫が妙に豊富だったのには、引っ掛かる気持ちがないわけでもないけど。


「運転手を含めて十人乗れます。狭くてすみませんが」

「「おおおおぉ……!」」

「へ⁉︎」


 見送りを含む銃兵部隊全員が目をキラキラさせて車体を取り囲む。指や手で触れ叩いて音や感触を確かめ、たぶん素材や構造を探っている。

 王もだ。アルフレド王、帰路の運転は自分でやるとハンヴィーの運転手を買って出たのだ。技術馬鹿集団なのは思い知っているので、その長がこうなるのも驚きはしない。


「さあ陛下、参りますよ?」

「あ、うん。もう少し、だけ……」

?」


 目が全然笑ってないサシャさんの急に低くなった声でビクリとなったアルフレド王は、振り返り振り返りしながらハンヴィーに乗り込んでゆく。


 アルフレド王の顔には“欲しい”とでっかく書いてあるが、金貨換算の値段を教えたところで唸り始めたのだ。もちろん買えなくはないのだろうけど、王として財務相を説得できないようだ。

 そらそうだ。SKSカービン七十丁に弾薬二千八百発、おまけにハンヴィーまで買ったばかりなのだ。あまり吹っかけはしなかったが、この世界の貨幣価値にすると凄まじく高額な買い物だ。

 ちなみに、カワサキのバイクは内燃機関の教材用としてオマケで付けた。いま情報部の斥候がふたりで乗っている。


「マークス、こんな巨大な乗り物を動かせるのか?」

「たぶん、ですが。運転はハンヴィーと大差ないはずなんで」


 不安がないといえば嘘になるな。これ、恐ろしくデカい上に、マニュアルだし。

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