狗と狐と

「森の出口で、敵が待ち受けているということか」

「はい。もしくは、その前に」


 森を抜ければ、そこはケウニア王国だ。入国ゲートみたいなものがあるのかどうかは知らないけど、隣国の王族を手に掛けるなら人目に付かない場所を選ぶだろう。

 第二王子トリリファが配下の軍を出すなら、ぼくらを追ってくる形になるはずだ。そんなものは、いまのところ確認されていない。だとしたら、ケウニアから兵を借りるとか?


「王子自身は出て来ますかね?」

「いや。どこかで報告待ちか、せいぜい離れた場所で高みの見物だ。トリリファは腕力も度胸も指揮官としての才もない」

「悪し様ですね」

「事実だ。当人も理解して、優秀な参謀と将官を重用している。それはそれで、王族としては正しい」


 マークスの知識によれば、トリリファ殿下も内政に関しては優秀なのだ。弱い部分を認めて他者に委託するのは、むしろ賢い選択といえる。

 軍閥の長とはいえ王子は指揮系統から半ば独立しているようだし、基本的には最前線にいることに価値も意味もない。

 物見遊山でのこのこ出て来て殺された、王妃と第一王女が良い例だ。


「あれ、ときに殿下、例の情夫は」

「わたしが王妃を殺したのを見て気を失った。その後は知らん、が……」


 遥か後方で凄まじい悲鳴が上がった。


「あれだけ血の匂いを撒き散らせば、近隣の獣や魔物が総出で歓迎してくれるだろうよ」

「あの男、もしかしたら別の派閥が送り込んだ間者かなと思ってたんですが、違いましたね」

「いや、その読みは良いぞマークス。あれは王宮に送り込んだ間諜だ」

「へ⁉︎」

「問題ない。既に必要な情報は得た。最近は王妃に乗り換えたつもりか、敵対の意思を見せ始めていたからな。良い機会だった」


 なに、その爽やかな笑顔。王族、怖い。

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